インフレにはコストプッシュインフレとデマンドプルインフレがあります。
コストプッシュインフレは、
モノやサービスの供給にかかるコストが上昇するため、企業の儲けが増えないのに物価だけが上昇し、モノやサービスが売れなくなってしまい、いわば不景気に入るきっかけやプロセスともいえる状況。
一方、デマンドプルインフレでは、
需要が供給を上回り、モノやサービスが多少高くても売れる状況になるために、企業の儲けが増え、賃金上昇の可能性が高まり、さらにモノやサービスが売れて・・・という景気の好循環に入るプロセスといえる状況です。
同じインフレでも、全く意味が異なる二種類のインフレですが、インフレと経済成長とは、いかなる関係性があるのでしょうか。
デマンドプルインフレは、自然に抑制されるもの
デマンドプルインフレ、すなわち需要が供給を上回り、物価が上昇するときは、企業がモノを作れば作るほど多く売れ、儲かる状況です。
そういったとき、企業は儲けるためにもっともっとモノを生産し、もっともっと多く売ろうとします。当然、儲かるからです。
そうなると、需要と供給の間には、ある変化が起こります。
つまり需要、すなわちモノやサービスを買いたい!という量に、供給量が追い付いていく、ということです。
需要に対して供給が少ない場合は物価が高く維持されますが、供給量が多くなれば物価は下がります。
つまり、もっと儲けたい企業が、供給能力を強化することで、物価には抑制効果が働くようになるわけです。
例えば、生産ラインを改良したり、工場を増設したり、あるいは資本財や原料を一括大量購入することで、一つ当たりの原料コストを削減するなど、モノの生産にかかるコストを削減し、効率化することで、モノやサービスの価格を抑えるようになる、ということです
一部の人は、インフレが歯止めが利かなくなると危惧しているようですが、デマンドプルインフレではそのような心配はほとんどないのです。
デマンドプルインフレは好景気の必要条件
デマンドプルインフレには、まず旺盛な需要が必要です。
つまり、モノやサービスを買う側が、それを買うだけの購買力があるかどうかがカギになります。
企業、つまりモノやサービスの生産・供給側にとって、需要とはいわば栄養源、餌になるわけです。
現在のように不景気で、民間の誰もモノやサービスをたくさん買うだけの余裕がない場合は、通貨発行権という巨大な権力を持っている政府が財政支出を行い、需要を維持し、かつ供給能力を維持する必要があります。
つまり、不足しがちな需要という栄養源を、供給側に提供するわけですね。
しかし、政府がいくらモノやサービスを購入したとしても、大多数の国民、すなわち労働者の所得増えなければ意味がありません。
最終的に、デマンドプルインフレ状態に移行し、好景気にするためには、国民の所得を増やすことが必要となってくるわけです。
そうしないと、上昇した物価に対してモノやサービスが売れず、デフレ、もしくはディスインフレ(物価がマイナスまではいかなくとも、上がったり下がったりと伸び悩んでいる状態)になり、結局不景気になってしまうのです。
経済成長とは
経済成長とは、その国の経済規模が拡大すること、つまりGDP(国内総生産、Gross Domestic Product)が増加することを意味します。
GDP国内総生産とは、国民所得ともいわれ、その年に国内でどれだけのものが生産されたか、つまり生み出された価値すなわち「付加価値」を合計したものです。 そして生産活動から生み出された付加価値は、雇用者への給与・報酬、企業利益などに分配され所得になりますから、国内に生み出された所得の合計ともいえる経済統計です。
<参考>紙上講座5分でわかる経済統計 ~第 2 回「GDP とは?」~中国電力(PDF)
モノやサービスの生産量が増えるということは、それを消費する(需要)量も増えるということです。
モノやサービスの消費量が増える=需要が増えると、企業はモノやサービスの生産をさらに増やします。
つまり経済成長を続けるには、デマンドプルインフレのプロセス、すなわち
モノやサービスがたくさん売れる
→企業が生産・供給量を増やす
→さらにモノやサービスがたくさん売れる
→さらに企業が生産・供給量を増やす
ことで達成されます。
当然、この前提には国民の所得が増加していくことが条件となるために、国民一人一人の所得が増えなければ、経済成長は伸び悩んでしまいます。
つまり、デマンドプルインフレと国民の所得向上は、経済成長の前提条件であり、順調な経済成長は国民が豊かになっていくことを示すものなのです。
逆に国民が豊かになっていかない場合、経済成長は鈍化するか、落ち込んでしまうのです。
インフレを真の経済成長に繋げるために
デマンドプルインフレは、あくまで好景気の一プロセス、前提条件に過ぎず、好景気、すなわち国民の所得が増加し、豊かな生活を営むための過程に過ぎません。
一過性にデマンドプルインフレが起こったとしても、国民の所得が増えていなければ景気は腰折れし、経済成長は停止、もしくは伸び悩んでしまいます。
つまり、国民が豊かにならなければ、真の経済成長とは言えないのです。
国民の所得、特に税金や社会保険料等を差し引いた可処分所得が増えなければ、国民はモノやサービスを消費せず、需要も増えません。
では、国民の可処分所得を増やすにはどうすればよいのか。
最たるものは賃金上昇ですね。
収入が増えれば、その分可処分所得も増えます。
そのためには、法人税率を上げ、企業の人件費を増やすインセンティブを高める必要があります。
その他、所得税率や社会保険料を引き下げれば、その分可処分所得は増えます。
さらに社会保険料の引き下げは、企業に賃金上昇・雇用増加などのインセンティブを高めることにも繋がります。
さらには消費への罰金も同然の消費税を減税、もしくは廃止すれば、より一層国民の消費インセンティブは高まることでしょう。
こうして需要増→供給能力増大というスパイラルを形成できる土台を作り上げることが、国民が豊かになるために必要な条件なのです。
そして、これを邪魔しているのがPB(Primary Barance,基礎的財政収支)黒字化目標に基づく緊縮財政と、グローバリズムです。
緊縮財政は経済成長を阻害し、PB黒字化目標を邪魔している
実は日本は、PB黒字化を過去に達成していた時期があります。
それは、バブル絶頂の1990・1991年です。
国債費とは、国債の償還・利払いに使われる予算のことです。
これを除いて、実際に国民に対して支出された歳出額と税収額を比較すると、1990年と1991年には税収が歳出を上回っていることが解ります。
逆に近年では、歳出額は伸びないにも関わらず、税収だけが右肩上がりに伸びているのが解ります。
これでは、順調な経済成長など望むべくもありません。
税収の原資たるGDP、これを伸ばしてこそ国民が豊かになりつつ税収も伸びるわけですが、これでは国民の可処分所得から政府が一方的に搾取し、反対に政府はお金を出し惜しむ、という国民の貧困化が進む一方なのです。
すでに日本が経験したように、PB黒字化と国民の豊かさは両立可能です。
にもかかわらず、敢えて国民から一方的に搾取する緊縮財政に基づいて行われるのは、そうすることで誰かが利得を得る背景があるからでしょう。
輸入に依存するグローバリズムの陥穽
昨今のグローバリズムの蔓延の影響で、生産拠点を海外に移す企業が増えています。
モノの生産に必要なコストである人件費を安く上げるために、企業は人件費の安い海外の国に生産拠点を移すわけですね。
国内生産であれば、国民の雇用と所得を増やすことに繋がりますが、生産拠点が海外に移転してしまうと、モノの生産に携わる雇用も、労働者に支払われる賃金も国民の手には入らなくなってしまいます。
その分、安い人件費で作られた製品を安く購入することができるので、消費者としてみればよいことのように思えますが、その分国民は所得を奪われているのです。
今回のコロナショックによる医療用品の不足も、海外生産に依存した供給体制が多大な影響を与えました。
例えばマスクの供給は、その大部分を海外、特に中国に依存しています。
<参考>
マスクの生産・在庫数量 推移 一般社団法人 日本衛生材料工業連合会
世界の「マスク」生産量・約5割の中国 Tkyo FM plus
その結果、コロナパンデミックの発信源である中国の生産量減少、および輸出量の減少で、一説にはマスク供給の7~8割を中国に依存する日本は途端にマスク不足に陥り、病院など医療機関では、この記事執筆中の5月10日現在でも医療従事者へのマスク供給が不十分な状態が続いています。
安全保障、また国民所得の向上のためにも、行き過ぎたグローバリズムによる企業の海外への生産拠点移動は大きな問題を抱えているといえるでしょう。
豊かで安全、安心な生活を目指すために
国民が安全・安心で豊かになるためには、デマンドプルインフレを前提とした経済成長により、国内供給能力を高めてさらにそれを支える国内需要を維持するために国民所得の向上を図らなければなりません。
そしてそれを阻害する因子、PB黒字化目標の達成手段としての緊縮財政を放棄し、安定したモノやサービスの供給能力を確保するために、国内でのモノやサービスの生産を促進する必要があります。
これらが達成されることこそ、私たちが安心・安全に、豊かで便利な生活を送るために必要な条件なのです。