西部邁の死と大衆社会批判を包み込む優しいゴムの壁

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 西部邁さんの死に関しては、ほとんど死人に石を投げつけるような感想しか出てこないので書くのをやめようかとも思ったのですが、もうどうしようもないし、これからもうこの辺の界隈から「人でなし」と罵られ総スカンを食らって追放されてでも、どうしても書きたいと思ったのでぶっちゃけた話を書きます。

 というのも、Twitter等で流れてくる言論人などの感想がどれもとてつもない偽善に感じられたからです。現代社会の偽善と欺瞞を糾弾した西部邁さんが、自身の死に際して、まさにその大衆社会の見かけだけのどこまでも優しい偽善と欺瞞に包み込まれて死んでいったのを見て、もはやなんとも言えない気分になったので書くことを決めました。

 死屍に鞭打つなんて言葉もあり、日本では死者を非難するのは最低の行いとして禁じられている行為であり、こんなもの心の中で思っても書きたくもないのですが、もはや前回記事で書いたように全てがどうでも良くなってしまったので、ぶっちゃけた感想を書きます。

 西部邁は言うまでもなく、現代日本の大衆社会、大衆人を批判し続けた思想家でした。そのような思想家の西部邁にとっておそらく最も望ましい死に方とは、大衆人に心の底から憎まれ、敵視され、三島由紀夫のように大衆からヤジられ批難罵倒されながら死んでいくことだったのではないかと思います。ソクラテスやキリストなども大衆人に血祭りにあげられて非業の死を遂げたワケですが、おそらく大衆社会を批判し続けた思想家としての理想の死に方はあのような死であったのではないかと予想します(当人の口からは、理想の死は自殺であると述べていたそうですが・・・)。

 しかし、現実には、誰に批難罵倒を浴びせられることもなく、それどころか、皆に惜しまれ悲しまれながら亡くなったのが現実で・・・中には、氏の著作を1冊も読んだことすらなさそうな評論家すらが、「もっと、西部先生から色々なことを教わりたかった・・・」などとご丁寧にお世辞の言葉まで投げかけられる始末です。

 もはや、ほとんど何の皮肉か分かりませんが、誰よりも鋭く大衆社会と大衆人を鋭く批判し、大変な緊張関係をもってそれらと対峙していると信じてやまなかった思想家が、現実にはその大衆社会、大衆人から愛され、尊敬され、対峙するどころか暖かく包み込まれながら、生きて死んでいったワケです。

 資本主義と商業主義は、反資本主義の思想や革命思想、カウンターカルチャーまでもを飲み込んで資本の歯車に組み込んでしまうとは、かのマルクーゼの評ですが、全く同様に現代日本の大衆社会は、偉大なる思想の大家による大衆社会批判をもその体制の中に優しく包み込んでしまいました。そうして、その大衆社会の中の大衆人たちは、西部大先生の思想をありがたがって拝聴し、「さすが西部先生は良いことをおっしゃる!!」「西部先生のお話は本当に勉強になる!!」「全く、目を開かされる想いだ!!」などといって消費していったのです。

 ゴムの壁とは心理学の専門用語で、「まともでない家庭では衝突が無意味化されてしまう。自分のアイデンティティを求める言動を、周囲の人に了解してもらおうとする。 だが周囲にはそれを理解する能力がない。 そして「ゴムの壁」でいつの間にかもとの家庭の役割構造のなかにとじこめられ、精神的に病んでいく。」というように当人の自立を阻害する異常な家族関係を表しているのですが、現代の大衆社会はまさに巨大なゴムの壁であり、あらゆる社会批判、大衆批判をも飲み込んで衝突を無意味化してしまう装置となっているのです。

 かくして思想家西部邁は、現代社会のゴムの壁の内部で、そのどこまでも包み込む柔らかい優しさの中で窒息死し、そして、皆の偽善と利己主義によりその生と死が素晴らしい美談として語られているワケです。

 つまりに西部邁は大衆社会に一激を食らわせ、その怪物の右の頬をひっぱたき左の頬を打たれる覚悟で歯を食いしばっていたら、大衆社会は左の頬を打ち返すどころか、優しい平手で包み込んできた。結局のところ、その優しさに絶望して死んでいったのが西部邁の最後だったのだ。

 ついでに最後に言っておくと、ここまで偉そうに書いているけども、私は西部邁さんとは面識は無い。「何も知らないガキが偉大な西部先生について知ったような生意気な口をきくな!!」と言われれば返す言葉もない!!「お前は、西部邁という偉大な先生の死を利用してまでブログのアクセス数を稼ごうとする人間のkzだ!!」と言われれば、「なるほどその通りだ!!あなたの指摘は実に鋭い!!」と賞賛の言葉でもかけてあげたいくらいだ。

しかし、私は私の持つ言論の自由を行使する

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