日本の政治が衆愚政治である根拠と問題点-衆愚政治から脱却は可能か

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 現在の日本は衆愚政治か否か? と問われたら、筆者は「衆愚政治である」と回答します。なぜ日本が衆愚政治だと判断するのか、その根拠について解説します。

 一方で衆愚政治から日本は抜け出せるのか? 筆者はあまり期待はしていない、という結論です。

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衆愚政治とは

 まず衆愚政治を定義しておきましょう。英語ではmobocracyモバクラシー、もしくはmob ruleモブルールと書きます。mobとはこの場合、暴徒を指しますので「暴徒による政治、ないし暴徒の支配」が衆愚政治の意味になります。

 もう少し説明すると、衆愚政治とは利己的な欲求や空気への忖度、扇動、ルサンチマンetc……刹那的な考えに基づいて政治判断が下される状況を言います。

 アビリーンのパラドクスと呼ばれる現象が度々見られるのも、衆愚政治の特徴です。アビリーンのパラドクスとは、集団の誰も望んでいない判断を集団が下す現象を言います。
 事なかれ主義で「自分の嗜好は集団と異なる」と、誰もが思い込むことで発生します。

 衆愚政治も端的に言い表せば「後から考えたらおかしな判断が、空気や忖度によって形成されること」です。

日本が衆愚政治に陥っているとする論拠

 日本は衆愚政治に陥っているのでしょうか。筆者は陥っていると確信しているので、その論拠をいくつか取り上げます。

スキャンダルでしか下落しない内閣支持率

 安倍政権の支持率が現在、30%以下に下落したようです。思い返してみますと、安倍政権の支持率が下落、低下するときはいつも何らかのスキャンダルが出たときです。

 モリカケ問題、桜を見る会、そして今回の黒川検事長の麻雀問題。それぞれが些末な問題とは言いません。けれども、政策と何の関係もないこともまた事実です。

 消費増税、種子法改正、水道事業民営化、入管法改正による移民拡大などの政策議論で、安倍政権の支持率が大幅に落ちたことはありません。

 日本国民は政策ではなく、スキャンダルでしか判断できないとの事実は明らかです。スキャンダルでしか判断できない主権者に、賢い政治ができるはずもありません。

多数決が正しいと思い込んでいる

 日本では民主主義が神聖視され、民主主義はどのような政治形態より正しいと思い込まれています。これは大きな勘違い、ないし誤解です。

 民主主義とは英語でdemocracy、つまり民主制ないし民主政治という意味です。日本で言う民主主義とは、政治システムのひとつにしか過ぎません。

 補足すると主義はismがつきます。ファシズム、フェミニズム、シオニズム、パトリオティズムetc……。であれば民主主義は英語では、デモクラティズムのはずです。○○cracyとは政治形態や状態を表す言葉です。従って民主主義という訳は間違いで、民主制ないし民主政治と翻訳するべきでした。

 閑話休題。

 政治形態は政治の結果を保証しません。独裁政治だから悪い結果になる、民主政治だから良い結果が出るわけではありません。

 日本では多数決で決まれば、唯々諾々と従わなければならないという空気があります。民主政治が正しさを保証しないのなら、多数決も正しさや良い結果を保証しません。
 泥棒2人と賢人1人が多数決をすれば、泥棒が勝つに違いありません。

 入管法規制緩和も、種子法改正も、水道事業民営化も「多数決で決定された」のです。多数決で多ければ正しいという思考停止は、やはり衆愚政治の表れでしょう。

日本全体で確証バイアスと認知不協和に陥っている

 日本のアニメは海外で大人気! とよく言われます。筆者が1年ほど前に分析した結果、海外シェアで拡大したほとんどが、中国市場由来でした。

「日本のアニメは海外で大人気!」は本当か?データで検証をしてみる
一般的なイメージでは、日本のアニメや漫画は「海外に大人気!」だそうです。日本がすごい国という勘違い-すごくないと愛せないネトウヨ的愛国心という記事を書いたところ、コメントで「アニメが海外に広まるのが、悔しいのか?」といただきました。  デー

 面白いことに「海外で大人気!」と書かれますが、「中国で大人気!」とはどの記事も書いていませんでした。

 海外市場(中国)が広がった。でも中国は日本の脅威。従って都合良く「海外」とだけ解釈し、中国市場で拡大したという現実は伏せておくわけです。

 確証バイアスと認知不協和で現実との齟齬が拡大すれば、当然ですが判断も誤ります。アニメを例にしましたが、至る所でこのようなことが起きています。

 これを衆愚政治と言わずして、何というのでしょうか。

日本の衆愚政治の問題点

 日本が衆愚政治に陥っているのではないか? との論点から、論拠をいくつかお示ししました。では衆愚政治には、どのような問題があるのでしょうか。

政策が正しいかどうかは議論されない

 衆愚政治では「正しいか間違っているか」「善か悪か」「全体の利益になるかどうか」などが議論されません。議論されたとしてもそれは、認知不協和と確証バイアスを通してです。

 従って日本に不利益になる法案や政策が、次々と通されることになります。まさしくアビリーンのパラドクスそのものですよね。

 結果はご存じの通りで、消費増税によるセルフ経済制裁、内需を軽視して外需を取りに行くインバウンドやカジノ法案、世界の至る所で失敗している移民拡大etc……。どうしてこうなった? と肩を落とすような政治が、日夜行われています。

日本の凋落という現実から逃げている

 先進国のGDPは21世紀に入って、1.3倍から2倍程度には伸びています。ところが日本は、ほとんどGDPが伸びていません。

 こうして世界全体の経済規模における、日本のGDPシェアは小さくなるばかりです。

 掻い摘まんで言えば、日本は凋落しています。では政治家は日本の凋落に言及するか? しません。日本国民のほとんども、日本の凋落など話題にすらしません。

 見たくないものは見ないという衆愚政治の結果、日本全体で現実逃避が行われています。

掃除すればきれいになる、よくなると思い込んでいる

 日本人はきれい好き、とはよく聞きます。政治に対しても潔癖症な部分が、かなりあるように筆者は思います。

 政治に対する潔癖症は、悪いことではありません。けれど「汚いものを排除すればよくなる」との考え方は、逆に世の中を悪くしているのでは? と思わざるを得ません。

 水清ければ魚棲まず、です。

 きれいにしすぎて自分たちまで住めなくなれば、本末転倒ではありませんか。清濁併せ呑むことできないのも、衆愚政治の問題点のひとつです。

日本は衆愚政治を脱却できるか

 黒川検事長の賭け麻雀問題が発覚し、安倍政権の支持率が急落しました。もちろんこの問題は、マズいと言えばマズいでしょう。

 しかし筆者は、賭け麻雀より水道事業民営化の方が1万倍ほどマズいと思います。
 桜を見る会問題より入管法規制緩和や、消費増税の方が10万倍マズい。
 アベノマスクなんて些細な話で、安倍政権の緊縮財政路線の方が100万倍マズいわけです。

 ……ところで未だにアベノマスクが届かないのですが、まだでしょうか? ブログネタにしたいのですが、届かなければどうにもなりません。

 閑話休題。

 ことの軽重が判断できず、むしろわかりやすい空っぽの軽いスキャンダルばかりが問題視され、本当にマズい問題が全く議論されません。

 果たしてここまで劣化していて、衆愚政治を日本は脱却できるのか? かなり困難と言わざるを得ないのではないかと思います。

後書きとおすすめしたい書籍

 衆愚政治関係で何か書籍はないか? と探していたら、適菜収氏の著作がありました。大まかな内容は、以下の記事でも読めます。

呉智英 × 適菜収 【第1回】「バカが好む民主主義というイデオロギーについて」() @gendai_biz
言論というのはシビアなもので、いったん発言するとすべて記録として残ってしまう。 バカなことを書けば、未来永劫それを背負うことになるし、たとえ一時的にもて囃されたとしても、後に検証の対象になる。 そこでこの30年間を見渡したときに、一貫して正しいことを述べてきたのは、ほとんど呉智英だけなのではないか。

 最近はやる気がなくて、小説ばかり読んでいました(汗) けれどせっかくKindleUnlimitedに登録しているので、もう少し(真面目っぽい)本を読まねばと思います。

愚民とは?衆愚政治と断ずる言論人が陥るワナ-言論は愚民相手に無力なのか
政治経済論を議論していると必ず、愚民というテーマにどこかで行き当たります。イデオロギーの左右に関係なく。 しかるに愚民というテーマは、真剣に日本で論じられてきたか? はっきり申し上げてテーマのイメージが悪すぎて、論じられてきてません(笑)
ポピュリズムとは何か?意味と使われ方、問題点をわかりやすく解説
ポピュリズムってなんでしょうね? マスメディアでは「れいわ新選組はポピュリズム!」とか「現代貨幣理論(MMT)はポピュリズム!」と、批判的色合いで使われる言葉です。 結論を先にいいますと、ポピュリズムとは「民主主義国家において、批判として
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Muse
3 years ago

>果たしてここまで劣化していて、衆愚政治を日本は脱却できるのか? かなり困難と言わざるを得ないのではないかと思います。

仰る通りですが、その理由として、まずは日本国民が、「自分たちが民主主義国家における主権者としての権利を行使し、かつ責任を果たし得るだけの知性や品格あるいは常識を持ち合わせておらず、しかも、そのことについて何ら自覚していない」ということが挙げられます。その結果、記事本文で述べられているように、(国家の重要政策の是非ではなく)三面記事的なスキャンダルによって政権支持率が上下するとか、各種選挙での相変わらずの投票率の低さとなって現れることになった。

要するに、日本国民の精神的劣化、民度の劣化、常識の欠如、一言で言えば愚民化こそが現代日本の衆愚政治をもたらした元凶です(より広く言えば民主主義国家における近代大衆社会がもたらした病理現象)。では、この肝心要な事を日本国民に向かってズバリと指摘し、彼らの覚醒を促すような有識者や評論家はごく一部を除いてほぼ皆無。

阿吽

賭け麻雀もそうですけど、普通に、保障が遅すぎる少なすぎる、そのくせ我慢だけは一丁前に強いる・・、そりゃあ国家的一大事でもあるんだから我慢はするけどさあ・・、その我慢の分の保証がないってどういうことやねん!
 
・・って感じでキレてる人が多数いるってのも、内閣支持率低下の源流にあるんじゃないかとも、思ってしまいますね・・。
 
国民は今回のコロナ禍の対処は国民の不断の努力によってなされたと思っていると思われますので、政府、おまえ、その分の見返り・保証がないってどういうことやねん!
 
・・みたいな感じでキレてる人・もしくは不満タラタラな人が続出かと思います。
 
実際、私の地元の町の有力者も、すでに地元選出の代議士に『3次』補正の話しを始めろとせっついていたようです。
 
(その有力者の稼業も、今回のコロナ騒ぎで大打撃ってのもあったのかもしれませんが)
 
,
グローバリズムや緊縮財政の影響は、真綿を締めるようにじわじわ来るので実感がなかなかしずらいと言うのもあるのかもしれませんが、今回のコロナ騒ぎは完全にダイレクトですからね。
 
政府が実はたいしてなにも国民に与えてくれてなかったってことが、今回のことで結構はっきりと露呈しちゃったんじゃないかと思います。
 
国民全体が、政府の国民への接し方に不満を持っているのだと思います。
 
 
 

名無し
3 years ago

日本人の愚民化とおっしゃってますが、日本人なんて多分昔からこんなんですよ?元々長いものには巻かれろ、和を乱すなみたいな国民性じゃないですか。災害が多い以上個人より全体を優先するという文化が形成されるのはまぁ必然でしょうし、元々民主制に向いてないんでしょうね。

当ブログは2019年5月に移転しました。旧進撃の庶民
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