なぜ保守主義者は国民主権や基本的人権を否定するのか?

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保守主義の国会議員から、国民主権や基本的人権を否定する復古的な発言が定期的に飛び出します。これらの発言は通常の教育を受けてきた人からすれば、狂気の問題発言に映るでしょう。学者の言うようにこれらの発言は(彼らの考える)近代思想の否定であり、憲法観や自然権の否定だからです。しかし、日本の教育では保守主義についてはあまり説明されません。そのため、なぜ保守主義者がこのような問題発言を言い出すのかが判らないのです。

そこで保守主義者が国民主権や基本的人権を否定する理由を、近代保守主義の思想に基づき解説していきます。この記事で言う保守主義とは、エドマンド・バークに始まる西欧近代保守主義者のことを指すこととします。


まず、基本的人権の否定には誤解があります。基本的人権の否定は、人権そのものの否定を意味しません。あくまで保守主義者が批判するのは、天賦人権論に基づく人権です。その代わりに保守主義者は「国民の権利」という名の人権の必要性を訴えます。

ハンナ・アーレントはその主著「全体主義の起源」の中で何度も、バークの言う「国民の権利」の重要性を訴えます。ユダヤ人は独自の国家を持たなかったため、ナチスに抵抗できずに人権を奪われました。民族が自身の人権を確保するには、「国民の権利」を擁護する国家が必要不可欠であることを、ホロコーストは教えてくれました。保守主義者から見れば、天賦人権論は人権を擁護する国家を不必要と見做す甘い考え方であり、結果的に人権が奪われかねないという危険な思想なのです。それ故、保守主義者は基本的人権を否定するのです。


次に国民主権は、保守主義者の父であるエドマンド・バークの言う「時効」、チェスタトンの言う「死者の民主主義」が考慮されていない、という問題点を保守主義者は指摘します。バークの提唱した「時効」とは、数百年単位で維持されてきた法(法律に限らず、慣習なども含まれる)は、たかだか数十年の権限しか持たない政府が覆してはいけない、という考えです。「時効」の法が安全なのは歴史によって実証されてきました。一方、チェスタトンの「死者の民主主義」とは死者にも選挙権がある、という考え方です。この考え方は柳田國男にも見られます。

それに対し国民主権は、現在に生きる国民だけに政治のあり方を決める決定権があるという考えです。これは今まで日本を守り抜き、現在の繁栄を導いた先祖への冒涜というだけでなく、歴史を通じて先祖が育んだ政治や共同体、国民の権利を破壊可能という点で非常に危険です。現在に生きる人民が政治のあり方を決めた例は他国にあります。その代表格がフランス革命です。革命で王家という時効の法を破壊したあと、多大な混乱に見舞われ、やがてナポレオンを生み出します。その後もフランスの政治は現代に至るまで混乱し続けています。

戦後日本が色々と文句はありつつも平和なのは、国民主権を自制して破壊を最小限に留めてきたからです。しかし、これからもそれが続くという保証はどこにもありません。国民主権がある限りは。皇位継承問題が破壊されそうな代表格です。日本は世界で唯一独自の国体を維持し続けました。その最大の要因である男系による皇位継承は、「国民の総意に基づいて」、すなわち国民主権によって破壊されかねません。破壊のあとには混乱が待ち構えています。果たしてこれは日本国民にとって幸福なのでしょうか?断じて否、です。

現在の日本国民は、これまで先祖が千年単位で守り、そして育み続けてきた権利を享受しています。その代わりに我々は、千年後の日本国の子孫に対してその権利を継承するという義務があります。だから現在の我々は、国民の権利や日本の在り方を先祖や子孫に無断で破壊してはならないのです。もし破壊してしまったならそれを復元すべきなのです。例えば旧皇族の皇室復帰のように。

国家は地球の自然環境と同じで、針の上に立つような奇跡的なバランスの上に成り立っています。そのバランスを維持するには、今まで長い間続けてきたこと、つまりバランスが実証された法(バークの言う時効)を保つことが最も安全なのです。その意味でこのバランスを破壊できる「主権」という概念(国民主権に限らず、現在に生きる何者かが政治のあり方を決定できるという概念)はとても危険な思想です。このことが理解されないのは本当に不思議です。

保守主義者の復古的な発言は単なるロマンや狂気ではなく、現代に生きる我々の責務を全うしようという確固たる意思であり、学者の憲法観が如何に危険なものであるかを指摘するものなのです。

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