積極財政論の芽吹きを絶やさぬために

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東京五輪開幕を目前に控えるいま、マスゴミ界隈では連日のように「感染爆発だ~」、「コロナ第5波が~」、「デルタ株が~」と国民の不安を煽り立てる報道が蔓延しています。

 

現に東京都では、本稿を書いている6/29時点でコロナ新規感染者数が10日連続で前週同曜日上回るなど、“振り戻し”が懸念されます。

東京以外の道府県の感染者数はかなり減っていますが、サマーシーズンを迎えるこの季節、オリンピック開催の如何に関わらず人の流れが増える以上、ある程度の感染者拡大は避けられないでしょう。

 

コロナ第5波は間違いなく来ます。

重要なのは、外野ポジションで傍観者を気取っている民間医療機関を総動員して、他の先進諸国に比べて著しく劣っている対コロナ医療体制を強化することであり、「第5波が来たのは○○の所為だ~」と程度の低い責任のなすり合いをすることではありません。

 

それから、もう1点。

コロナ感染や後遺症、ワクチンなどといった話題に埋もれて忘れられがちですが、コロナ禍で政府や自治体による“官製営業妨害”に遭った業界や止むなき減収に見舞われた事業者への減収補償、国民全員へのコロナ特別給付金第二弾の支給、消費税廃止や社保料負担免除などといった所得回復策や需要強化策を実行に移す必要があります。

 

コロナ感染による健康被害も怖いことですが、不況放置による経済禍がもたらす被害は甚大です。

就活生の人気企業ランキングでかつて№1に輝いたANAですら、コロナ禍の直撃により昨年に続いて今夏冬のボーナス全額カットという憂き目を見ています。

ましてや、世にある企業の大半を占める中小零細企業の惨状たるやいかばかりかと心配の種は尽きません。

 

そうした中小企業の苦境を訴えるコラムをご紹介します。

『コロナ禍、飲食業の窮状を通して見えてきたこと』(米田肇/HAJIMEオーナーシェフ)

コロナ禍、飲食業の窮状を通して見えてきたこと --- 米田 肇
コロナ禍において飲食業界が多大な影響を受けていると毎日報道がされていることも日常風景になってしまいました。今回のコロナ禍を通して見えてきたことは、飲食業という産業の脆弱性と共に、日本政府や政治体制が思っていたよりも脆く、劣化をしていたという

「(略) 飲食業は、労働集約型産業という手仕事の構造から製造数が低く、また食品という在庫を抱えることができないものを扱うことからどうしても自転車操業になりがちです。さらに日本の飲食店の価格は世界と比べるととても低価格で、インバウンドに日本が選ばれている理由は「安いから」というのも頷けます。 (略)

 このことから自粛要請を行う場合は、補償をセットにしなくてはいけないのですが、日本には国際社会では常識といわれる緊急事態条項がないために、緊急時における国民の生命や財産を守るという内容は超法的処置に訴えることになります。(略)

 3月29日に飲食業への補償制度を取り付けるために署名活動を行ない、3月31日から自民党本部、参議院会館、農水省、文化庁、参議院幹事長と4月6日まで駆け足で関係者に会いました。そこで感じたことは、財務省が財政出動を拒んでいること、現場の逼迫感とは程遠い政治家の生ぬるい温度感でした。そして、この国は、国民を守るという政府としての当たり前の精神がすでに崩壊を起こしていることを肌感覚で感じました。(略)

 「正直ものがバカをみる」という構造は、構造自体が破綻しているから起こっているということを政府や自治体の首長は自覚しなくてはいけません。その根本的な破綻の根源は、自由市場の停止と経済補償のバランスの悪さにあります。未だに「プライマリーバランス黒字化」「財政支出の均衡」といった誤った財政政策から、財政支出を小出しにしているために効力のない支援策になり、誰も言うことが聞けないのです。(略)」

 

コラムを書いた米田氏は、「未だに「プライマリーバランス黒字化」「財政支出の均衡」といった誤った財政政策から、財政支出を小出しにしている」と現政権の緊縮的な経済運営を強く批判しています。

 

我々積極財政派の人間ならともかく、自分の腕一本で高級店を立ち上げてきた経営者の口からこうしたセリフを聞くのはとても珍しいことですよね。

 

米田氏の経歴を見ると、

「大学卒業後、エンジニアを経て料理の世界へ。世界最短でミシュラン三つ星を獲得、The Best Chef AwardsアジアNo1シェフ、GAULT&MILLAUで「今年のシェフ賞」を受賞。JAXAの宇宙と食の未来を考えるSPACE FOODSPHEREや、Sony AIのアドバイザーとして活躍」

というとても輝かしい内容です。

得てして、この手の“キラキラ系”のプロフィールをお持ちの方は、自分の努力や経歴に強い自信を持つあまり、他者に対して強烈な自己責任論をぶつけがちですが、米田氏はそうした毛虫レベルの似非経営者とは一線を画す人物のようですね。

 

彼は早くから、「自粛要請は補償とセットであるべき」との信念を抱き、政府や官公庁へ飲食業界に対する完全補償を要求するなど大変精力的な活動を行っていますし、「プライマリーバランス黒字化」「財政支出の均衡」が誤りであることを指摘するなど、正常かつ的確な経済感覚をお持ちです。

 

何よりも、米田氏の経済感覚に感心させられたのは、コラムの後段で、

「アメリカでは飲食業への経済支援策は3兆円規模になります。ドイツなどを始めヨーロッパ各国でも補償の拡充が進んでいます。さらにこれは飲食業だけではなく、全ての産業に対して行われているという点があります。一度消えてしまったら取り返すことができない食文化を守るためにも、今一度政策の見直しをしていただきたいと思います」

と指摘している点です。

 

①政府は全産業に対して減収補償を行うべきであること

②政府に補償を求める理由は、就業や技能スキルという“供給力の灯”を消失させぬため、つまり、供給力という国富を護るためであると明言していること

米田氏の論考から浮かび上がる要点はこの二点であり、これこそ経済運営の基本中の基本です。

 

国中の産業を護ることが国民の雇用と所得を護り、国家全体の供給力を維持向上させ、国民生活を豊かにし続ける原動力となるでしょう。

 

さて、昨今、経済誌やマスメディアでも、積極財政派界隈ではすでに常識と化している“MMT”や“BI”という言葉をよく目にするようになりましたが、正直言ってまだ「イロモノ扱い」の域を出ていません。

 

マス媒体ではいまだに「財政均衡論」や「税を主体とする財源論」が大手を振って歩いており、そうした常識を侵害しようとする“新常識”の登場に強い危機感を抱いた緊縮主義者たちは、「経済に打ち出の小槌は存在しない」とか「MMTなんかやるとハイパーインフレになるぞ!」と必死に抵抗しています。

 

彼らの反論はすでに何度も論破済みで何の効力もない“お古”でしかありませんが、長年彼らの妄言に騙され続けてきた市井の国民にはいまだに一定の効力があるようで、緊縮教の洗脳を解くのはまだまだ時間が掛かりそうです。

 

何にしろ緊縮主義という大きなカブを引っこ抜くには、積極財政派の面々がベクトルを合わせその力を結晶させねばなりません。

そのためには、積極財政論やMMTの真髄ともいえるエッセンスを再度理解し共有しておく必要があるでしょう。

『財源は税金ではない? コロナ危機で崩れる「財政赤字」の神話』(渡邉雄介/Forbes JAPAN Web編集部)

財源は税金ではない? コロナ危機で崩れる「財政赤字」の神話 | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)
新型コロナウイルスによる経済的打撃が世界中で深刻な問題となるなか、米連邦準備理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長は5月13日、米経済が長期にわたり低迷する恐れがあるとした上で、議会と政府は支出を拡大する必要があるとの見解を示した。すで...

 

上記記事には、この真髄とも言えるセリフがいくつか紹介されています。

 

「この緊急経済対策で用いた額をどのように支払うのかを真剣に問う者など誰もいないし、もしいたとしても、問うべきではない。連邦政府が財政支出に用いた『代金を支払う』必要があるという神話を論破するには、世界的なパンデミックが必要だった」(ベン・バーナンキ/元FRB議長)

 

「自国通貨建てで借金をしている国が財政破綻することはない」(駒澤大学経済学部准教授/井上智洋)

 

「主権を有する政府が、自らの通貨について支払い不能となることはあり得ない。自らの通貨による支払い期限が到来したら、政府は常にすべての支払いを行うことができるのである」(ランダル・レイ)

 

「通貨発行権のある政府にデフォルトリスクはまったくない。通貨が作れる以上、政府支出に財源の制約はない。インフレが悪化しすぎないようにすることだけが制約である」(松尾匡/経済学者)

 

この辺りの発想は、積極財政論者ならスッと理解できる“常識”ですが、頑迷な緊縮主義者や一般の国民にはなかなか理解しがたい(というか、“理解したくない”)概念でしょう。

 

積極財政策を国民に理解してもらうためには、小難しい理論を捏ね繰り回さないこと、完璧すぎる論理展開に拘り過ぎないことが重要です。

緊縮主義者や構造改悪主義者の連中なんて、何度も論破された大穴だらけのポンコツ論を堂々と訴え、この30年もの間民心を掌握してきたのですから、理論の精緻さと政策浸透力とはまったく別物だと考えねばなりません。

 

『税は財源ではない。貨幣や国債の発行こそが財源である』

『国家はその強力な権限により自国通貨を際限なく発行できる』

『自国通貨建て債務が支払い不能に陥ることはあり得ない』

『過度なインフレ以外に財政支出を阻む制約はない』

『社会的課題や問題をいち早く解決に導くことこそが政府の果たすべき役割だ』

『経済政策の要点は、国民生活を豊かにすること、国富たる供給力の維持向上に必要な需要を創出し続けることである』

 

こういった積極財政論やMMTを支持する者が共有できるポイントを前面に出して訴えるべきでしょう。

大切なのは、国民に政策への期待感を抱かせることです。

「もう不況はウンザリ」、「俺たちの老後ってどうなるの?」、「このまま日本で一生過ごすのってヤバいんじゃね?」といった国民の不満や不安を掬い取ってあげるられるか否かが、今後の積極財政論の死命を決めるでしょう。

 

そのためには、一部のMMTerがやたらと拘っている租税貨幣論や貨幣負債論、BI嫌悪症といった積極財政論の重荷や足枷にしかならぬ愚論や悪癖は封印せねばなりません。

 

なぜなら、それらには論理的な合理性がまったくないうえに、租税貨幣論は税の役割を神聖視する爆弾になりかねませんし、貨幣の負債性を主張する貨幣負債論は負債の膨張を本能的に嫌う国民を刺激し「財政支出(=負債膨張)に強い制約を掛けろ」という暴論を誘うだけです。

 

また、疲弊した個人所得の回復に有効なBIに反対する態度は、国民生活向上策への本気度を疑われ、積極財政論に対する不信感を生むだけに終わるでしょう。

「国民の所得を名実ともに増やし、誰もが欲しいものを躊躇なく買える豊かな社会を創ること」こそが積極財政論の最大の強みなのに、それを全否定するような愚論を吐く輩は、この時点で積極財政派から離脱すべきです。

 

積極財政論が少しずつ世に浸透しつつある今、「積極財政の目的は何か」という根本をもう一度見つめ直したうえで、国民が「私たちの生活を良くしてくれるかも!」と強い期待感を抱けるような経済政策をシンプルかつエネルギッシュに展開していきたいものですね。

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2 years ago

どこかと思ったら、ミシュラン三ツ星店「HAJIME」じゃないですか。京都の日本料理店「未在」と双璧というか、関西が誇る最高に美味しい料理を出す名店ですね。前回の朝ナマに藤井聡教授と出演されていた、飲食店経営の山下春幸さんも、同番組で素晴らしい発言をされていたと記憶しています。

当該コラムを読みましたが、深い見識がなければ「プライマリーバランス黒字化」などという言葉は出てきません。米田シェフはコロナ禍の初期の頃から、飲食店の窮状を各方面に訴えていらっしゃいました。「HAJIME」自体が訪日外国人客の比率も高く、スタッフの数も異様に多いお店でしたから、せっかく数年前に三ツ星に復活したとは言っても、普通に経営不振で潰れてしまう可能性を感じています。

ところで、うずらさんの今回の記事、読者からの「星」の評価が異様に低く、意味がまったく分かりません。見解が分かれる内容なら、自分と違う考えの記事に低評価をつけることはあるでしょうけれど、今回の記事にそうした箇所は見当たりません。

記事にある「疲弊した個人所得の回復に有効なBI」という文言ですら、どうにも生理的にダメだったということでしょうか? コロナに関する意見の相違からくる、同じ積極財政派への「攻撃」にしてもそうですが、このような状況では政策を動かす大きなうねり、反ネオリベの勢力拡大など期待することは出来ません。

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Reply to  うずら
2 years ago

ベーシックインカム一点突破ではなく、ダイレクトにGDPが増える支出、消費税廃止、社会保障費負担軽減など、全方面から全集中で異次元の財政拡大「聖域なきバラマキ」をやっていただきたいですね。

我々が推すベーシックインカムというのは、「国の財政状況が悪いから、ベーシックインカムという制度でまとめてしまい、給付を効率化して総支出の削減を図ろう」という、典型的なネオリベ政策とは異なるという部分で、何度説明しても誤解が生まれているように感じています。

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