緊縮財政と安全保障、積極財政と安全保障~政治を考える基本、国家の安全保障とは何か②

この記事は約5分で読めます。

前回の記事では、国家の安全保障について、階層構造という図を用いて説明しました。
“安全保障”という問題が、国防や軍事と言ったモノだけではなく、食糧・防災・交通・行政・教育等、様々な問題に関係しているということをご理解いただけたかとも思います。

ただ、どうしても“安全保障”と言う問題が、国防・軍事と言った問題として語られることが多いことから、政治的に左派・リベラルの方にとっては少々嫌悪感を催す様なこともあったかもしれませんが、これを払拭してくれそうなのがれいわ新選組の山本太郎代表です。
山本太郎氏は、左派・リベラル系の支持を集める大変影響力の強い方ですので、彼の言葉が“安全保障=国防・軍事”という先入観を打破してくれると期待しています。

『今やらないといけないことは国内の安全保障だ。
一人一人の生活を引き上げていかないとこの国は維持できない。』

「消費税5%で野党共闘なら捨て石にも」 山本太郎氏 山本太郎・れいわ新選組代表(発言録) 朝日新聞デジタル 2019年9月21日21時27分

この記事の冒頭の言葉は、 “安全保障”という言葉の本質を、見事に言い表しています。
そう、“安全保障”とは、国民一人一人の生活を守り、向上させるものだということなのです。

今回は、安全保障と財政政策の関係について、前回用いた図を使いながら、主に自然災害に対する国土強靭化を例に、説明していきたいと思います。

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緊縮財政と安全保障

緊縮財政により、財政支出の規模が縮小されると、まず安全保障に関わる産業が打撃を受けます。
なぜなら、国民の安全を保障する仕事は、原則的に政府の仕事だからです。
日本では、日本国憲法に基づいて、国民の権利として規定されています。

第二十五条【生存権、国の生存権保障義務】
1 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
国(国家・政府)には、生存権保障義務、すなわち国民が生命の危機に瀕するような状況を、可能な範囲で取り除き、国民の安全を保障するということです。

ダムや堤防を作って、水害を可能な範囲で防ぐのも、
建築物の耐震基準を設けて地震被害を可能な範囲で防ぐのも、
警察組織によって犯罪被害から国民の安全を守るのも、
国民皆保険制度によって国民の健康を可能な範囲で守るのも、
研究・技術開発、および最先端の研究開発に携わる人材を育成し、より高度な建築・医療等安全保障に関わる分野や、生活に関わる分野、経済の活性化に繋がる知識や技術を向上させるのも、
食糧供給・流通を円滑化して滞りなく国民の食を保障し、かつ安全な食物の提供を保障するのも、
外国の軍事力や天災から国民の命を守るのも、

本来、全て政府が担うべき仕事なのです。

緊縮財政による産業的インフラの脆弱化

緊縮財政によって財政支出が削減されると、必然的にこれら安全保障に関わる仕事に支障が出ます。
政府の仕事とはいえ、最終的に仕事を請け負うのは国民ですし、仕事を請け負う人には生活が立ち行く程度の賃金を支払い、同時に必要経費も支払う必要があるからです。

つまり、緊縮財政=安全保障の脆弱化、ということです。
前回用いた図で考えれば、第三層、産業的インフラ(ソフトウェア的インフラ)の脆弱化です。
図で示すと、以下のようになります。

産業的インフラの脆弱化に伴うハードウェア的インフラの脆弱化

産業的インフラが脆弱化すると、その下の第二層、道路や橋、鉄道や港湾などの交通網、ダムや堤防などの治水インフラ、ライフラインなどの生活に直結するインフラのメンテナンスや補強が滞り、脆弱化します。
当然、新たに必要性が認められたような設備の建設なども滞りますから、東日本大震災や今年2019年10月12日に日本に上陸し、各地で甚大な水害をもたらした台風19号などの、過去に観測されたことのない激甚な自然災害などには対応できず、被害が拡大してしまいます。

実際、埼玉県東松山市東松山市早俣(はやまた)の都幾川堤防に関しては、地元住民の方が再三にわたって改修工事を要請していたにも拘らず、改修工事は行われず、今回の台風によって甚大な被害を被ってしまいました。
【台風19号】東松山市早俣の決壊堤防、国に「改修要望」の無念 産経ニュース


そして各地で断水・停電等の生活インフラが破壊され、この記事執筆時点で未だに完全復旧の目途も立たない地域が数多く存在しますが、こういった自然災害による第二層インフラの復旧を担うのは第三層、産業的インフラに携わる企業や職人の方々です。
しかし、彼らは緊縮財政によって仕事を減らされ、企業は倒産し、人は去り、供給能力は激減しました。
つまり、“脆弱化した”ということです。

建設業の現状について 国土交通省(PDF)

図で示すと、以下のようになります。
インフラストラクチャー自体の脆弱化と、それをメンテナンスする企業や人が緊縮財政によって減少することにより、安全保障が脆弱化してしまうのです。

安全保障が脆弱化すると

安全保障を司る産業やインフラが脆弱化すると、それらに依存して活動している安全保障以外の国民生活に関わりの深い産業活動が阻害されてしまいます。

今回の台風19号被害でも、多くの河川の決壊による被害で、営業・稼働停止に追い込まれた商店や外食産業、工場などが数多く存在します。
国民の消費活動はもとより、生活の糧を得る勤務先の機能も停止してしまうことで、収入を得ることもままならない状況になってしまうのです。

つまり安全保障の脆弱化とは、国民生活の貧困化を招き、国家規模の縮小、すなわち国家そのものが破壊を招くのです。

事実、緊縮財政による安全保障に関わる産業規模の縮小が、被災各地での復旧の遅れを招いており、このまま供給能力が回復しない限りは半永久的に復旧されない地域も出てくるでしょう。

こうして、先人たちが国民が生活しやすいように築き上げた国土は荒廃していくのです。

緊縮財政とは、すなわち国民の生活と安全を守るという政府の責任放棄と同義なのです。

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