本エントリーはランダル・レイ著のMMT入門の印象に残った部分をピックアップしMMTとは何か?皆様と共に論考し、特に雇用保障プログラムJGPについて移民亡国阻止の観点から論じます。
経済学者とは、時代によって言う事が変わる種族である
MMT入門を読んだ率直な感想として、経済学者は、時代によって言う事がコロコロ変わるという部分です。新自由主義の始祖とも言うべき、ミルトン・フリードマンが、1940年代には、ラーナーの機能的財政論と同じ主張をし、MMTと殆ど同じ貨幣観を持ち、更にもっと過激にした政策を提言していました。ラーナーの論考にしても1940年代の機能的財政論が一番キレあり、米国が第二次世界大戦の財政出動の結果、世界一豊かな超大国になったという現実に、経済学者が合わせたという感じです。MMTの祖と言いわれる、ミンスキーやラーナーも、70年代以降は、ネオリベチックな物言いをするようになったも、スタグフレーションという現実に直面したからでしょう。だから経済学とは、原理原則を追求する学問とは表向きの話しで、実際は日本の経済評論家と似た類いの輩と考えるべきでしょう。
MMTは米国の社会や経済の実情を反映した学問である
レイのMMT入門を読んで感じたもう一つの特徴に、MMTとは、非常に米国の現代事情に沿っているという部分です。米国は、日本と違いデフレではなくマイルドなインフレで経済成長も順調です。だから、著作を読むと、もっと米政府は財政出動しろ!とは、書かれておらず、むしろインフレ無き完全雇用の実現の為に雇用保障プログラム(JGP)を提唱しているのです。また税を政府が課した負債とする租税貨幣論も、その思想の前提には、キリスト教の原罪をアナロジーにしているのは明らかです。有名なモズラーカードのエピソードにしても、子供に罰を回避させるカードを集めさせ手伝いをさせる親など、恐らく日本人の家庭では存在しないでしょうし、米国の社会的な規範が、MMTの思想的な前提になっているのは間違い無いです。
JGP=ジョブ・ギャランティ・プログラムがナゼ重要か?
以前からMMTに詳しい人々の間では、JGPがMMTのコア思想なのだ!との声が聞こえていたのですが、一体JGPとは、そもそも何なのか?私もこのMMT入門を読むまで良く分かりませんでした。そもそも経済学の目指す社会とは何か?という命題に対して、最も単純かつ明確な回答が、完全雇用なのですが、MMTでは、インフレ率と引き換えに、景気を意図的に悪くし失業者を出してインフレ率と失業率をトレードオフする考えは間違いとしており、その手法として用いられる、金融政策頼みのマクロ経済政策運営は正しくないとしているのです。
雇用保障プログラム=JGPとは何か?
MMTでは、雇用保障プログラム(JGP)を、具体的な政策として提言しています。中央銀行が、金融危機の時の「最後の貸し手」としての役割が有る様に、政府が好景気や不景気に関係無く、完全雇用を実現する為の手段として「最後の雇い手」の役割として、JGPが提言されています。私は、ネオリベ新自由主義者が提唱する国民に一律にカネを給付するベーシックインカムの対抗策として生まれたとして考えているのですが、政府が定めた最低基準賃金で労働者を雇用するという制度です。例えば、ある職業の最低基準賃金が日当1万円なら、その業界の賃金は日当1万円以下には下がらず、かつ民間企業が仮に日当1万円以上の賃金を設定すれば、JGPから労働者を引き抜く事が出来ると、MMTでは説明しています。
JGPは、レイオフという米国の雇用制度を前提としていないか?
レイのMMT入門では、JGPについては、かなりのページを割いて説明しているのですが、具体的な制度設計はこれからという感じでした。因みに米国では、レイオフと言って、非常に安易に従業員を人員整理する雇用慣習があります。私の感想としては、MMTのJGPとは、レイオフで一時解雇された労働者の受皿として計画されているというものです。法人税や所得税が、景気の善し悪しで増減するのと同じく、景気が悪くなるとレイオフで一時解雇する米国の雇用制度を補う公共政策として、JGPが提唱されているなら、この制度の意味や意義は理解できます。だから米国のMMT論者がJGPを、景気やインフレの自動安定化装置と呼ぶのも、レイオフとJGPがセットで捉えられているからでしょう。しかし、日本の場合、近年、非正規雇用の派遣労働が普及しており、仮に日本でJGPが導入された場合、パソナ竹中平蔵会長を大喜びさせる事になりかねません。東京五輪でボランティアには無給で働かせ、人材派遣会社には大金を払うという異様な事態が、JGPでも起こるのを懸念します。
日本版MMTがデフレ脱却を掲げるのは本家MMTから見ても当然だ
ネットなどで論文やエッセイを翻訳した有志の中には、MMTはデフレ脱却を唱えていないとか財政出動を主張していないと語る輩もいますが、米国という既に財政出動も行い、金融危機も瞬時に処理しデフレ化を阻止した国の経済学であるMMTが、デフレについて多く言及しないのは当然でしょう。しかし、レイのMMT入門の中では、デフレはインフレよりもっと悪い。インフレが必要なのは生産性向上が見込めない職業の賃上げの為など、記載されていますので、MMTにとってデフレが論外なのは明白で、2%のインフレ目標に達していない日本では、米国のMMTが前提とするマイルドなインフレという条件にすら達していないのです。また米国は、年間70兆円もの巨額の軍事費を支出する軍事ケインズ主義国家であり、実際は全く緊縮財政では無いのです。自然災害が多発し、東京への一極集中が続く日本では、国土強靭化やインフラ整備が、それに相当する財政出動になります。
安倍政権の移民亡国の野望を打ち砕く日本版JGPの重要性
日本版MMTを考えた時に、安倍政権下の事実上の移民政策(外国人技能実習制度および日本語学校のアルバイト)である外国人材の問題について、有効な解決策にJGPはなるでしょう。そもそも論として、雇用保障プログラムであるJGPが、移民受入れ政策の道具として利用された場合、失敗するのは火を見るより明らかです。外国人労働者を安価な労働力して使おうと企むブラック企業の報酬の一部を肩代わりされてお終いです。しかし薔薇マークキャンペーンが主張する様に、人権侵害の外国人技能実習制度を廃止し、日本語学校などの留学生のアルバイトを禁止すれば、安倍政権の偽装移民政策を止める事は今からでも可能です。その上で、日本の深刻な社会問題である、人手不足について、移民に頼らない人手不足対策の人材育成の手段としてJGPを活用すれば、かなり有効に機能するでしょう。このように、移民に頼らない国作りの一環として、JGPを日本の実情に合わせてカスタマイズすれば、移民亡国は防げるのです。
MMTの新しいレンズを日本社会に活かす必要性
MMTは、米国の左派学者が産み出した経済理念ですが、日本の実情に合わせてカスタマイズすれば、かなり有効に使えます。今まで我々は、主流派経済学やリフレ派の、財政出動すると金利が上がり円高になるという嘘に散々騙されて来ましたが、MMTは、財政出動すると金利が下がり円安になると真逆の主張しています。実際の金融システムや財政出動の手続きが分かれば当然なのですが、このリフレお化けの存在を明確に否定しただけでも、MMTの功績は大きいでしょう。貨幣は負債、通貨は国家の創造物、民間銀行の預金は各銀行ごとに別の負債、国債は国民からすると定期預金などなど、MMTの知見は、我々の常識を次々に打ち破りますが、基本は、弱者救済の為に経済学に何が出来るかを論じている学問という部分で評価できます。今後の課題は、このMMTの新しいレンズを日本社会にいかに活かすかという部分が、正に今我々に問われているのです。
>MMTはデフレ脱却を唱えていないとか財政出動を
>主張していないと語る輩もいますが、
>米国という既に財政出動も行い、金融危機も瞬時に処理し
>デフレ化を阻止した国の経済学であるMMTが、
>デフレについて多く言及しないのは当然
仰る通りですね。日本の「20年デフレ」なんて、人類史に残るワーストクラスの失政ですよ。
日本人からすれば私を含め、MMTで語られる「JGP」への関心が比較的薄いように感じるのも、それはそのまま、日米両国が抱える問題(優先して解決させるべき課題)の違いなのだと思います。
コメントありがとう御座います。
日本のネットで跋扈するリフレ派崩れの極左MMTの連中の的外れな「俺のMMT」の吹聴には呆れるばかりです。
JGPも本エントリーで明らかにしたように米国の雇用慣習のレイオフを前提にしているから、ケルトンが主張する自動安定化装置となるわけで、日米の差異も理解しないで得意満面にMMTを語る連中は大いに反省して欲しいですね。