気がついてない人も多いですが、日本人の給料はまったく上がっていません。
平均所得は1997年が467万円、2020年が433万円でした。
四半世紀ほど日本の給料が上がらない間、諸外国は順調に成長を続けています。
なぜ、日本人の給料だけが上がらないのでしょうか?
今回の記事では、日本人の給料が上がらない原因を議論するとともに、給料を上げるための政策について解説します。
海外と日本の給料上昇率の比較
上記は全労連の資料で、1997年から2016年の実質賃金の推移グラフです。
199年を100とした推移になっています。
日本の実質賃金は89.7と下がっているのに対し、ほかの国々はすべて上がっています。
たとえば、ドイツは116、アメリカは115、フランスは126です。
なぜ、日本だけ給料が上がらないのでしょうか?
日本の給料を上げるには、どのような施策が必要か議論しましょう。
日本人の給料が上がらないとされている3つの理由
日本人の給料が上がらないとされる3つの理由について解説します。
生産性が低いから
日本の給料が上がらないのは、生産性が低いからだと言われています。
たとえば、日本の労働生産性はOECD38カ国中28位と低く、だから給料が上がらないという議論です。
そもそも、生産性となんでしょうか?
生産性とは「生産性=アウトプット/インプット」で計算されます。
インプットは労働時間や労働力です。
アウトプットは一般的に付加価値で計算されます。
付加価値とは粗利のことです。
粗利は、需要によって変わります。
たとえば、コロナ禍においてマスク不足(供給過少、需要過多)が起きてマスクの値段が上がりました。
マスクの品質や原価が上がったわけではないのに、値段(粗利=付加価値)が急増したのです。
つまり、粗利=付加価値は需要によって変動します。
とすると、「生産性=付加価値(アウトプット)/インプット」なのですから、需要が多くなれば生産性は自ずと向上します。
日本の生産性低迷は、需要不足が大きな要因です。
労働分配率の低下
労働分配率が低下しているから給料が上がらないという議論もあります。
しかし、内閣府の労働分配率の推移グラフからは、労働分配率が下がっているとは読み取れません。
2012年の労働分配率は72.3%ですが、2018年の労働分配率は70.2%でした。
1970年代から波はあるものの、おおよそ70%弱~75%の間で推移しています。
どうも、日本人の給料が上がらないのは労働分配率のせいではなさそうです。
デフレだから
デフレとは物価下落以上の速度で、所得が下落していく現象です。
「日本はもうデフレではない」と主張する向きもありますが、以下のグラフからはデフレないしデフレギリギリであることがわかります。
1998年以降、インフレ率が1%を超えたのは2008年、2014年(消費増税)の2回だけです。
ドイツと比べてみましょう。
ドイツでは1998年以降、インフレ率が1%を超えたのは17回! わずか2回の日本とは大違いです。
なお、2%を超えた年も5回ありました。
このように、他国と比べて日本はデフレギリギリです。
四半世紀もデフレを患っているのは日本くらいなもの。
給料が上がらないのも納得です。
給料が上がらない原因はデフレと需要不足
デフレとは需要過少の状態です。
需要が過少であれば、企業は売り上げを上げるため価格競争をせざるを得ません。
価格競争のためにはコストカットが必要です。
人件費はコストの中でも大きな割合を占めるため、削減対象となります。
人件費が削減され、所得が伸びないと個人消費は盛り上がりません。
個人消費はGDPの6割を占める項目です。
こうして、人件費を抑えることで巡り巡って需要が抑制され、余計にデフレがひどくなります。
デフレは民間では解決できません。
なぜなら、需要過少の状況下では、企業も個人も節約して余計に需要が減少するからです。
デフレを解決するためには、政府の積極財政しかありません。
日本人の給料や可処分所得を上げるための政策
日本人の給料や可処分所得を上げる方法を5つ紹介します。
高圧経済で労働市場をタイトに保つ
イエレン財務長官の提唱している高圧経済は、日本経済にとっても特効薬となるでしょう。
高圧経済とは、インフレになっても積極財政を行うことです。
積極財政を行い続けることで、労働市場は売り手市場化します。
すると、転職や就職に有利な条件が企業から提供されます。
労働環境や労働所得の改善が、高圧経済で期待できるのです。
高圧経済については以下の記事もどうぞ。
規制強化で労働者保護
エコノミストや有識者は「労働規制緩和! 雇用の流動化」などと主張しますが、むしろ、給料が上がらない今の状況では労働規制の強化こそ必要です。
労働規制の強化では非正規雇用の待遇改善、最低賃金の向上、ギグワーカー保護のための法整備などが求められます。
くわえて、女性の非正規労働者には目を配る必要があるでしょう。
2020年の非正規雇用労働者の割合は男性22.2%に対し、女性が54.4%でした。
非正規雇用問題とは、女性の労働問題とも直結しています。
また、同一労働同一賃金についても、正規雇用を非正規雇用に合わせるのではなく、非正規雇用の待遇引き上げこそが必要です。
ベーシックインカム
ベーシックインカムも可処分所得を引き上げる対策の1つです。
高圧経済や労働者保護が環境に働きかける政策だとすれば、ベーシックインカムは直接的に可処分所得を増やします。
ベーシックインカムではしばしば、「労働意欲がそがれるのではないか」といった指摘がなされます。
しかし、過去のベーシックインカムの実証実験などからは、妥当な金額であれば労働意欲は損なわれないと結論づけてよさそうです。
特に、カナダのマニトバ州で1974年に行われた実証実験は説得力があります。
参照 BIを実践した街で何が起こったか?その驚くべき結果とは|AIとBIはいかに人間を変えるのか|波頭亮 – 幻冬舎plus
ベーシックインカムにはさまざまな議論がありますが、少なくとも可処分所得を引き上げる有力な政策の1つでしょう。
負の所得税
負の所得税は、ベーシックインカムと同じテーブルでよく議論されます。
負の所得税とは、所得が定められた水準を下回った場合、給付を受けられる制度です。
たとえば、年収400万以下の人は、所得額に応じて累進的に給付を受けられます。
負の所得税とベーシックインカムは異なる点がいくつかあります。
- UBI(ユニバーサルベーシックインカム)のように、全国民に給付する政策ではない
- 負の所得税なので、所得を得られる年齢(成人)以上が対象
- ベーシックインカムとことなり、累進的に給付される
- 給付対象が一定水準以下の所得の人なので、ベーシックインカムより予算額が少ない
ベーシックインカムも負の所得税も、有力な可処分所得引き上げ政策でしょう。
消費税を含む減税
消費税を含む減税は、給付に頼らずに可処分所得を引き上げる政策です。
不況やデフレのときの減税は、世界的にポピュラーな政策です。
しかし、日本の場合はデフレにもかかわらず増税し続けています。
たとえば、1997年の国民負担率は36.3%でしたが、2020年の国民負担率は46.1%でした。
なんと、四半世紀の間で国民負担率は10%近く上がっています。
これで、デフレから脱却できたら奇跡です。
上がった国民負担率を、1997年並みに下げる政策が求められます。
まとめ
日本人の給料は諸外国に比べ、ほとんど上がっていないどころか下がっています。
1997年の平均所得は467万円でしたが、2020年の平均所得は433万円でした。
日本人の給料が上がらない原因はデフレです。
デフレないしデフレギリギリの状況では、労働市場が売り手市場化しません。
コスト削減圧力がかかり、企業は人件費を削減しようとします。
日本人の給料を上げるためにはデフレの解消が不可欠です。
くわえて、ベーシックインカムや負の所得税、減税といった政策も検討しましょう。