経済論議において、よく「〇〇に予算を使うくらいなら、▲▲にもっと予算をつけろ!」って意見を吐く方をちょいちょい見かけますが、これって本当に筋の悪い意見ですよね。
なぜなら、こういう意見を言う人って、完全に“財源が有限”、もしくは“有限でなければならない”と思い込み、それを前提に話をしているからです。
財源有限論が罷り通ると、
・官僚による予算分捕り合戦過熱(政策の中身・効果<耳心地の良いパワーワードの羅列)
・継ぎ接ぎだらけで実効性に乏しい政策の横行(カタカナとコピペだらけの経産省予算が顕著な事例)
・財務省の権限強大化(実社会を知らぬ予算査定屋の増長)
・財務省主導型の緊縮思想の波及(予算増=ムダ遣いという風潮の蔓延)
・単年度予算制による長期開発・成長計画の欠如(PBバランスを最重要視する短絡思想の蔓延)
という結果に陥り、“失われた〇十年”から抜け出せない我が国のような“不況常態国家”に落ちぶれてしまいます。
経済の仕組みや貨幣の本質を知らぬ素人に限って、この財源有限論を妄信しがちですが、「彼らの頭の中にある経済発展のイメージって、いったいどうなっているのか?」、「政府がお金を使わずに、民間はどうやって経済成長の糧を得るのか?」と常々疑問を覚えます。
“政府にはもうカネがない”、“日本は借金大国なんだ”、“歳出を減らし増税を強行してでも借金を減らせ”と叫ぶ人って、いったいどうすれば日本経済が成長・発展できると思っているのか、彼らが国民所得向上や経済成長に向けてどういうロードマップを描いているのか、まったく想像がつきません。
あたかも「ガソリンを抜け。ブレーキを強く踏め。スピードを上げろ」と叫んでいるようにしか見えませんね。
ですが、私が何より解せないのは、こういう非論理的かつ非合理的な愚論が大手を振って世間で罷り通っている事実の方です。
TVや新聞、SNSでも、「〇〇に予算を使うくらいなら、▲▲にもっと予算をつけろ!」的な財源有限論をよく目にします。
「給付金やBIは麻薬。オリンピックは無駄の塊。GoToキャンペーンや飲食業界への給付はえこひいき。そんなカネがあるなら医療体制強化に予算をつけろ」なんて小学生の学級会レベルの愚論を吐くコメンテーターに向かって、「うんうん。そのとおり! 完全同意‼」と拍手喝采を送る低能児を何度見かけたことか。
『コロナ「10万円給付」は史上空前のバラマキ政策だった』(野口悠紀雄/早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問)
野口氏の主張をまとめるとこんな感じでしょうか。
①特別定額給付金は貯蓄を増やすだけの結果に終わった
②収入がほとんど減らなかったので給付金は必要なかった
③コロナ給付金の一律給付は必要なかった
④一律給付よりも医療供給体制整備や困窮する事業者への補償などもっと優先度の高い政策を重点支援すべき
彼は財源有限論を盾にして、
「コロナ給付金は国民を甘やかしただけ」
「国民は別に生活に困っていない」
「政府が配るカネは必要最低限にしろ」
「ムダ金を配るな。本当に困っている連中だけに少し恵んでやれば十分だろ」
と言いたいわけです。
これに対する国民サイドの意見はどうでしょうか。
ニュースのコメ欄を覗いてみると、手厳しい意見が並んでいます。
「最低な忖度記事だ。2回目の給付をさせたくない財務省の息がかかっている記事にしか見えない。貸付さえ蹴られる事が多いのに給付金が無ければ死亡者の増加に繋がっていたはず。現場の悲鳴さえ聴こえないメディアはもはや要らない。」
「2回目の給付金を出したくない財務省の御用記事ですね。以下は国民に知ってもらいたい事実(調べれば分かります)。
①国の財源=税金ではない(正しくは国債+税金)
②国の負債=国民の負債ではない(正しくは政府の負債)
③政府の負債増=国民の負債増ではない
(政府の負債が増えれば反対に国民の所得・資産が増える)
④2013年からの量的緩和策とは政府負債を事実上棒引きにすること。実際に400兆円以上減らしている。
⑤自国通貨建国債によるデフォルトはない(財務省も認めている)
⑥政府が負債を増やしても国債金利は必ずしも上がらない
(日本では経済学の定説とは真逆のことが起きている。2020年は過去最大の90兆円の負債が増えても国債金利はゼロ。)
⑦世界のほぼ全ての国で政府の負債は長期的には増え続けている
(一部の国々で短期的には減らしている。日本政府の負債は明治以降実質で約600倍に増えている。)」
「私も貰ったけれど、10万円がそんなに大きいとは思いません。だったら合衆国の失業給付金の方が桁違いだよ。去年の4が月間の間だけれど、一週間毎に約10万円給付されていました。」
「近年国民に一律給付したのは麻生時代の1万と安倍時代の10万の計11万のみ。しかもこれだって何ヵ月も散々渋ってごねて、仕方なく支給してる。二重課税等の疑問があっても放置して、税金を徹底的に取るだけ取って、還元なんてろくにしたくないかよくわかるね。」
いやはや、野口氏がコメ欄を読んだご感想をぜひ伺いたいものです。
「給付金なんて当然だろ‼ たった1回きりじゃ全然足りん。アメリカを見習え。税金ばかり取りやがって。国債や貨幣の本質を知らない似非学者が生意気言ってんじゃねーぞ」という猛批判に対してどう答えるのか、彼のアンサーコラムを期待したいものです。
コロナ給付金に対しては、麻生財務相も、貯蓄にばかり廻って効果がなかったと素人感丸出しのコメントを出していましたが、GDPが▲4.8%も激減し、名だたる大手企業ですら鬼の大リストラを断行する恐慌下で、たった10万円の虎の子の小遣いを景気よく使えるわけありません。
下記URLを覗いてみてください。
誰もが知る大企業による大規模な希望退職募集や人員整理、給与削減、ポスト削減などの暗いニュースが列記されています。
【参照先】
資金力のある大企業ですらこんな惨状ですから、中小零細企業は推して知るべしで、貰ったカネを呑気に使える家庭は限られることくらい容易に想像つくはずです。
暗い未来しかない不況下でワンショットかつ継続性のない給付金を消費させるのは至難の業です。
給付金は、継続して給付することに意味があり、長期継続により効果を存分に発揮する政策なのです。
国民が「今月も給付金が入った。来月も再来月も入ってくる」と強く確信して初めて消費を刺激できる政策なのは小学生でも解る理屈なのですから、「せっかく配ったのに誰も使わんぞ」とイチャモンをつけるのではなく、「皆が気兼ねなく使えるように今後20年にわたり毎月給付しよう」と前向きな提言をすべきです。
また、“給付金よりも医療体制強化や休業補償にカネを使え”的な二者択一論は、不毛な予算の分捕り合戦や対立・分断を生むだけの愚策でしょう。
この不況に苛まれ続けた四半世紀というもの、どの業界・業種もカネ不足で困窮しているんですから、「Aに使うカネがあるならBに廻せ」と対立を煽るのは下策中の下策です。
干上がった大地の一部だけに水を撒いても、水分は即座に蒸発し、土壌全体に水分や養分を蓄えることはできません。
大量の水を土地全体に遍く広くバラ撒こうという強い意志がないと、不毛の地と化した砂漠の再生は不可能です。
「AかBか」という筋悪な選択論からいい加減に卒業し、「AもBも」という無差別的財出投入論を起点とする議論へと発想を転換せねばなりません。
日本が不況に陥ってからもう25-30年近くが経ち、不況しか知らぬ世代が中堅層に達しつつあります。
この無駄でしかなかった不況期を一時も早く脱し、成長や幸福を知る世代を増やしていくためにも、無知で有害な財源有限論を排除し、無限の財源を使って社会的課題をいかに素早く数多く解決するかという財源活用論へステップアップしていきたいものです。