
遅々として進まない日本経済の復活・成長。消極財政から積極財政への転換ひとつ進まない一方、エネルギー・食糧・防衛など危機は高まるばかり。日本政治のダメっぷりに嫌気が差すこの頃です。
そこで今回は、エリック・ホッファー著『大衆運動』を参考に、人々を動かす方法を考えてみます。
邪道とも思える内容ですが、できるだけ早く政治を転換するためのヒントが得られれば、という趣旨です。
日本人はダメだと言われても
日本人のイヤなところばかり突きつけられて
5月21日に表現者クライテリオンシンポジウム「首都東京で考える、『「愛国」としての「反日」について」が開催されました。
当日、参加者から
「日本人のイヤなところばかり突きつけられて、暗い気持ちになった。日本人として希望が持てるような話を聴けないだろうか」という質問があったそうです。
(『表現者クライテリオン』読者からの手紙「日本人であること」)
対して登壇者からは「実態をしっかり認識することが、次のステップに繋がる」というお話だったとか。
ごくフツーの人々の支持が必要
その通りですし、正しい。しかし厳しく困難でもあります。
日本のダメさ加減をしっかり見つめて、そこから立ち上がる……
それはごく一部の優れた人にしか期待できません。
シンポジウムに参加するような方々はまだしも、ごくフツーの人々はついて来れないでしょう。
たまに政治に関心を持っても、すぐにあきらめて生活をせいぜい楽しもうとするばかり。
しかし日本は民主制。
そんなフツーの人々の支持を得て、数多くの人々に動いてもらわなくては現状を変えることはできません。
消極財政から超積極財政への転換一つ取っても、なかなか進まないでしょう。
エリック・ホッファー『大衆運動』
鉄人/哲人エリック・ホッファー
日本復活のため、平凡な数多くの人々を動かす……一体どうすればよいのか?
一冊の本にヒントを得ながら考えてみます。
その名もズバリ『大衆運動』。
『大衆運動』は1951年刊行。宗教、民族主義、ファシズム、共産主義などあらゆる大衆運動を考察し、共通する特性を明らかにした本です。
著者のエリック・ホッファーはアメリカ人の港湾労働者ですが、本書が評判となり、カリフォルニア大学で8年間講義を行いました。しかも、同時に港湾労働も続けていたとか。まさに鉄人/哲人です。
『大衆運動』の要点
同書の要点は以下のとおり。
①大衆運動には、宗教的なもの、社会革命、民族主義的なものなどがある。
②大衆運動は、広範囲で急速な変革に欠かせない「人々の熱意」を生み出す。
③自分を劣った人間と考え、自信を失っている人々こそ、大衆運動を興隆させる。
④大衆運動では未来への大きな展望が語られ、参加者に希望をもたらす。
⑤大衆運動の力は、敵/悪魔を設定することで強くなる。
⑥全ての大衆運動には互換性があり、ある運動の参加者は別の運動に転向し得る。
大衆運動の例としてはフランス革命やロシア革命などが挙げられます。
ホッファーの考えでは、明治日本の近代化も「民族主義的な大衆運動」です。
革命までいくと弊害が大き過ぎますが、それでも多くの人々を動かすヒントは得られます。
上記③~⑥を現代日本に当てはめつつ、超積極財政への道を考えてみましょう。
自分自身に価値を見出せない人々
「自分を劣った人間と考え、自信を失っている人々こそ、大衆運動を興隆させる。」
自信を失った人はどうなるか
自分のことで手一杯!という人も多い一方で、人生がうまくいかず、自信を失っている人々も多くいます。経済が低調で、所得の伸びない日本ですから、当然です。
自信を失うと、自分のことが嫌いになります。
自分のことなど考えたくない、忘れたいという気持ちになります。
すると人は、何かしら尊いものにすがりたくなるものです。
ダメな自分のことを忘れ、尊いもので心を満たそうとします。
ある人は、アイドルや漫画キャラなどの「推し活」にハマります。
宗教にのめり込む人もいるでしょう。
「日本推し」として政治に興味を持つ
そんな中に、「日本推し」として政治に興味を持つ人もいるわけです。
「世界一の歴史を持つ日本」に熱狂する人々がいる一方、「戦後の平和主義国家・日本」を崇拝する人もいます。
もちろん全員ではありませんが、政治に興味を持つ、政治的な言論活動を行う人にはこういう人が多いのではないでしょうか。
つまり、嫌な自分を忘れ、尊い日本と一体化して自尊心を取り戻そうする人。
少なくとも、そういう部分を持つ人はかなりの数にのぼると思います。
かく言う私自身、大いに思い当るところがあります。
人々を動かすには希望が必要
「大衆運動では未来への大きな展望が語られ、参加者に希望をもたらす。」
自尊心を取り戻すために、政治に興味を持つ。
そんな人々の心を動かし、大きな言論勢力/政治勢力に糾合するには、将来への希望が明示されねばなりません。実現が近いと思えるものなら、なお効果的です。
逆に厳しい現実を突きつけても、彼らは耳をふさぎます。
それでは自尊心が取り戻せなくなるのですから、当然でしょう。
中朝韓を見下して、大いなる日本(自分)の尊さを保とうとする、
あるいは保守系政治家をこき下ろして戦後日本(自分)の尊さを守る。
そんな安易な方向に流れてしまうのです。
財政出動~超積極財政が可能であること、
それによって日本が強く、豊かになること、
多くの人々が救われること。
この希望を語り続け、人々にその実現を信じさせなければ、日本復活の道は開けません。
政府/財務省の悪魔化
「大衆運動の力は、敵/悪魔を設定することで強くなる。」
敵/悪魔の「物語」
希望が実現しないのは、それを阻む敵がいるから。
そういう「物語」を人々に訴えるというやり方です。
かなり邪道な気もしますが、効果的な手法でしょう。
大義のために敵と戦う、というのは人々の心をまとめ上げ、熱狂させます。
政治を動かす大きな力が生まれるのです。昨今の旧・統一教会叩きなどは典型ですね。
他にもこれまで、公共事業、農協などが槍玉に上げられてきました。
(不当なことで、甚大な被害が生まれましたが……)
敵は財務省
財政出動~超積極財政を阻む敵として設定すべきは誰か?
それはやはり政府、中でも財務省でしょう。
国債発行を抑制し、増税を画策、私たちの所得を減らす最強官庁です。
「財務省は、国民の生活と国家の成長を犠牲にして、権力と省益を貪っている!」
消費税増税(法人税減税)を後押しする大企業やグローバル投資家、経団連なども大問題ですが、ひとまず省きます。
「敵/悪魔」の姿はわかりやすく、一つである方が効果的だからです。
政治家に「敵/悪魔」を叩かせる
緊縮派/財政再建派の政治家はどうでしょう。
こちらも「敵/悪魔」に含めない方が良かろうと思います。
世論の動向に左右される日和見型が多いからです。
選挙に落ちれば「ただの人」となる彼らは、どうしてもそうなります。
「財務省に洗脳された者」として、世論の変化と共に転向するのを待つ方が良いでしょう。
何といっても、財務省の金科玉条たる「財政法第4条」を変えられるのは政治家、国会議員です。
反対派は転向させよ
「全ての大衆運動には互換性があり、ある運動の参加者は別の運動に転向し得る。」
緊縮派・消極財政派の人々
世の中には、緊縮派・消極財政派もいます。
インターネットやSNSで、その手の発言をする人々もまだまだ大きな勢力です。
しかしそういった人たちも多くは、「自尊心を取り戻すために、政治に興味を持つ」面を持っています。
その点においては、積極財政を唱える人々と共通です。
何かのきっかけで、積極財政派に乗り換える可能性があります。
自尊心を傷つけないように
左派から右派へ変わった千葉麗子氏、逆の古谷経衡氏といった例もあります。
緊縮派・消極財政派と論争することもあるでしょうが、あまり彼らの自尊心を傷つけない方が良いでしょう。
追い詰めることで、意固地になられてはもったいない。
「積極財政派っていい人たちだな。一緒に言論活動できたら楽しいかも」と思わせたいものです。
こちらに転向する人が出てくる可能性が高まります。
最後に
大衆、平凡な人々の心理を利用する……少々邪道な感じもありますが、政治勢力を拡大し、世論を動かすには必要な面もあると思います。
危機に直面しっぱなしの現代日本。少しでも良い方向へ導くヒントとなれば幸いです。
トップ写真:People power by Quinn Dombrowski