格差拡大問題の本質

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 格差問題、あるいは格差拡大問題とよく言われますが、はたして格差の何が問題になるのでしょう。
 格差は、完全な共産主義社会にでもならない限りは必ず生まれるもので、「最も成功した社会主義」と言われた昭和日本の修正資本主義下でも、当然格差はありました。

 格差自体を無くすことは極めて困難なわけですが、では格差はいくらあっても良いのでしょうか?

 ベーシックインカムを支持する人々は、「格差がいくら開いても、底辺層が最低限度豊かならば(所得を得ていれば)良いのだ」という風に言ったりするわけですが、果たして本当にそれで良いのでしょうか?
 今回は、格差拡大とその問題点について検討していきます。

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格差拡大型の経済構造とは

 まず、格差が拡大していくような経済構造とは具体的にどのようなものかというと、要するに金融経済が肥大化して実体経済が疎かになってるような社会のことです。

 労働者は低賃金でコキ使われ、経費は削られ利益に回り、企業の内部留保や株主利益、金融機関の利子所得が膨れ上がるような経済構造、つまり利益保全が優先されるような社会ですね。

 そのような社会では、潤沢な資産を持つ富裕層は、資産運用と称して保有する資産を投資や投機に回したり、債権を買い漁って利子所得を得るなど濡れ手に粟のような不労所得を得ます。
 保有資産が多ければ多いほど、その資産は指数関数的に増えていきます。

 反対に、資産を持たない層はというと、雇用・自営問わず自らの労働によって所得を得るしかないわけですが、利益保全、すなわち利益最大化が優先あるいは善とされる社会では、被雇用者ならば賃金は上がらず、自営業ならば経費として顧客企業が使うお金が減るために、所得あるいは資産を増やすのが困難になり、富裕層との格差はドンドン開いて行ってしまいます。

利益最大化圧力と物価(価格)

 また利益保全(利益最大化要求)圧力が強いと、例えば賃金を増やす、経費を増やすとなったとき、それが価格に転嫁されやすくなります。
 利益をなるべくそのままに、コストである賃金や経費を増やそうとするわけですから、当然そうなりやすいですよね。
 そのような社会では、物価が賃金上昇と同じレベルで上昇したり、設備投資分が価格に転嫁されて、設備投資による物価抑制効果も減衰しやすくなってしまう、つまり物価抑制効果が働きにくい状況になるのです。

海外の株主資本主義に追い付いた日本

 しかしながらこのような社会において、賃金が上がらず経費も増えなければ、物価も上昇しづらくなるので物価は安定します。
 これは、30年近く日本が経験してきたデフレディスインフレ経済そのものです。
 そしてその裏側で、格差はドンドン拡大していくのです。

肥大化した企業利益と低迷する賃金

 このグラフは、日本と他国の実質賃金の推移について比較したものですが、これを見るとき“日本の実質賃金が海外に追い付いてない”と読むことも出来るわけですが、実は“日本の株主至上主義的経済構造が海外に追いついて来た”という見方をすることもできる、というわけです。

グローバル経済の混乱から国民を守る“経済の強靭さ”

 また一国のことのみ考えるだけでいいならばともかく、世界と繋がってる以上、海外のどこかで物価上昇が起こっていれば、必ず物価は上昇基調になり、慢性的なスタグフレーションのような状況になってしまうわけで、ここにも格差拡大が助長される要因ができてしまいます。

 特に今のように非常事態でグローバルサプライチェーンが混乱して輸入コストが上昇すると、その煽りをダイレクトに受けて物価が不安定化、つまり物価が高騰しやすくなるのは今まさに我々の生活を見た通りです。
 輸入コストに加えて賃金まで上げてしまうと、利益を圧迫して株主投資家の利益が減ってしまいますから、おいそれと賃金を上げるわけにもいきません。
 当然そうなると、賃金は上がらないから国民生活は困窮するし、経費も増やせないので世の中にお金が回らず、経済活動も停滞、あるいは混乱します。

 こういう時に、余剰利益を賃金や経費に回せるようなら、経済や国民生活へのダメージを軽減できますが、常に利益最大化圧力が強いとその効果が弱まらざるをえません。
 要するに、格差拡大型の経済構造や社会というのは、緊急事態や非常事態において、物価の上昇や所得減少を防止するメカニズムが働きづらく、国民生活にダメージを与えやすい極めて脆弱な経済・社会構造、と言えるのです。

本当にヤバいのは格差そのものではなく、格差拡大型の経済構造

 つまり、格差自体がヤバイと言うより、格差が拡大してしまうような社会、あるいは経済構造がヤバイ、ということなのです。
 格差自体は、資本主義社会である以上、多かれ少なかれ存在するものではあります。
 しかし、格差が際限なく拡大していってしまうような社会は、緊急非常事態に脆弱な、物価が不安定化≒高騰しやすい社会の証左でもあるわけです。
 逆の言い方をすれば、格差の拡大が緩やかな、あるいは抑制された社会というのは、非常事態にも強く、物価も安定した社会であると言うことができるでしょう。

ベーシックインカムは格差問題の解決策足りうるか

 ベーシックインカムは、全国民一律に同額の現金を継続的に給付する政策です。
現金が直接貧困層に配られれば、確かに一時的には貧困層はお金に困ることは無くなりますが、格差拡大という問題は解決しません。
 消費性向の高い貧困層は、給付されたベーシックインカムを消費に回さざるを得ませんが、消費に回った現金は、利益最大化圧力に曝されて人件費(労働者の賃金)や経費(他の企業、あるいは自営業の所得)に回ることなく、利益として株主企業の配当や内部留保に消えてしまい、貧困層の手元に残ることも、戻ってくることも無いからです。

 格差拡大型の経済構造の本質が利益最大化という風潮、あるいは圧力にある以上、この問題が解決されない限りベーシックインカムは格差拡大を助長し、物価の不安定化に拍車をかけ、せっかく給付した現金の価値もインフレによって損なわれてしまい、無意味なものになってしまいます。
 ベーシックインカムが貧困層を救う手段になるためには、何よりもまずこの格差拡大型の利益最大化経済構造を打破するしかないのです。

 しかし、これが打破される頃には、全国民一律継続的現金給付策であるベーシックインカムを導入する意義は薄れ、むしろ生活保護や就業補助のような公共事業の重要性が増していくことになるでしょう。

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