先日、以下の記事を目にしました。
所々に論理の飛躍があるものの、なかなか面白い考察です。
本稿では租税貨幣論を解説し、租税貨幣論に対する批判を検討しつつ精査します。加えて租税貨幣論で見落としがちな、国家権力の行使についても触れます。
できる限り平易に、わかりやすく解説します。
租税貨幣論とは?
租税貨幣論の概要に触れる前に、通貨の定義だけしておきましょう。
通貨とは国定流通貨幣ないし法定流通貨幣の略語。国が決めた貨幣を通貨と言う。なお仮想通貨は本来、仮想貨幣とでも言うべきである。
租税貨幣論の大本は、ゲオルグ・フリードリヒ・クナップの貨幣国定説です。どちらもほぼ概要は一緒です。
国が定めた通貨がなぜ流通するのか。この問いへの答えを、徴税という国家権力の行使が原因とするのが租税貨幣論です。
徴税とは国家が、強制的に国民から貨幣を徴収する行為です。この租税の支払いを日本ならば円と定めることで、円が通貨として人々に受け入れられているとするのが租税貨幣論です。
なお「税が貨幣価値を担保している」という言説がチラホラ見られます。これは租税貨幣論ではありません。どうもにわかMMTerやMMTerもどきも増えてきており、議論が混乱しているようです。
批判や拒否や肯定、賛成などをするにせよ、せめて多少調べてからしましょう。
租税貨幣論の要旨は「税が国定流通貨幣を駆動する」です。わかりやすく言えば「税が通貨を通貨たらしめる強制力として働いている仮説」が租税貨幣論。
租税貨幣論への批判と反論
租税貨幣論への反論や批判の代表的なものを、いくつか検討してみましょう。
通貨は慣習で通貨たり得る
「通貨は租税として徴収されなくても、みんなが使っているから通貨として受け取られるのだ」との主張があります。
教科書的に言えば「あなたが通貨を受け取るのは、他人がそれを受け取ることが分かっているからだ」です。
この説明は通貨の説明として、かなり一般的なものです。
しかし論理的に上記の説明は、無限後退に陥っています。突き詰めれば上記は「受け取られるから、受け取られるんだ」と言っているに過ぎないからです。
無限後退 – Wikipediaを、無限後退を知らない人は参照。無限後退に陥った論理は一般的に、正当性の証明に失敗したと見なされます。
通貨が受け取られるようになった後に、「受け取られるから、受け取られる」という力学は、確かに働き始めるでしょう。しかし通貨が最初になぜ受け入れられたのかの、説明はできません。
国家が徴税しない貨幣だって流通した
冒頭に取り上げた記事では、租税貨幣論に対して「国家が徴税しない貨幣だって流通していた。よって貨幣の流通に、租税は関係ない」と反論しています。
確かにプライベートマネーと呼ばれる貨幣が、租税と関係なく流通していたことは事実です。でもそれ、通貨じゃないですよね? という話。
近代資本主義国家は、中央銀行制度を必須としています。中央銀行制度のためには、国家が定めた通貨が流通する必要があります。
市場で勝手に信任を得た貨幣が流通しても、国家に発行権はありません。よって中央銀行制度が成り立ちませんので困っちゃうわけです。
つまり歴史として「市場競争で勝利した貨幣が流通したこと」と、近代国家で「国家が定めた通貨を人々が受け入れる理由」には何の関係もありません。
徴税に頼らなくても政府は人々に通貨を受け入れさせられる
冒頭の記事では「徴税に頼らなくても、政府は人々に通貨を受け入れさせられる」と書きます。
③通貨単位を定める
租税貨幣論は不要|Prof. Nemuro🏶|noteより
②貨幣の購買力を維持する(←放漫財政を防ぐ)
①最大のユーザーになる(→ネットワーク外部性)
③の通貨単位を定めるのは何か? 法律です。法律を人々に守らせるのは、国家権力の行使に他なりません。そして法律には、整合性が必要です。
したがって「通貨単位を定める」ならば、自動的に「政府は租税を定めた通貨単位で受け取る」ことになります。
法律で定めた通貨単位で、人々に支払いを強制することが「通貨単位を定めるという行為」です。
……要するに上記記事で「こうすれば通貨が人々に受け入れられるんだ!」とした条件は、租税貨幣論と同一だったという皮肉な結果に終わっています。
まとめ
租税貨幣論への批判的検討をしてみました。現在のところ、論理的に有力な批判が見つかりませんでした。
とはいえ、租税貨幣論はあくまで仮説です。主流派経済学や教科書の「通貨がなぜ人々に受け入れられるのか」の説明は、あまりに杜撰でした。
なぜなら「受け入れられるから、受け入れられるのだ」としか、言っていなかったからです。
よって租税貨幣論が、今のところは有力な仮説だと筆者は判断しています。
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