ベーシックインカム給付金から国民を守るMMTと、ケルトンの魔法のシンク

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  給付金やベーシックインカム(BI)の問題については、過去二度のエントリーで詳細に論考しましたが、読者の皆様の誤解の中に「合成の誤謬」がある事に気づきました。8月末には、レイのMMT教科書の翻訳本の出版され、表現者クライテリオンのMMT特集が書店に並ぶなど、タイミングよくMMT(現代貨幣理論)の情報が出ておりますので、ベーシックインカムに否定的な経済学派であるMMTを思想的な背景として、最後のネオリベ政策と呼んで良いベーシックインカム給付金の問題点について論考します。

給付金ベーシックインカムBIは、ナゼこの世の地獄なのか?

京アニ事件からベーシックインカムをMMT的に論考する

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公的部門の巨額投資と、細やかな個人給付の対比

 公的部門の費用で、ステルス戦闘機が1機あたり約140億円とか、エアコン無し屋根ナシの新国立競技場が建設費1670億円とか、国際リニアコライダー整備費用が5000億円とか、東京から名古屋までのリニア新幹線の建設費が5.5兆円などは、一般庶民の感覚からも巨額の費用だと認識できます。その上で、必要だとか無駄だとかの議論は可能でしょう。それに比べると国民一人当たり、月3万円の給付金とか、年間10万円の給付金とかは、なんとなく大した金額では無い気がしませんか?これこそが、ベーシックインカム(BI)や給付金の落とし穴です。

合成の誤謬としてのベーシックインカム

 フルタイムの労働で月収3万円の日本人もいませんし、フルタイム労働で年収10万円の日本人もいません。財布の中に1万円札があと1枚多ければ助かると感じる方は多いでしょうし、年収があと10万円多ければ、少しは生活が楽になると思う方も多いでしょう。

 しかし実際には、全国民月3万円の給付金なら年間45兆円もの巨費となり、月々僅か1万円を全国民に配る給付金でも、年間15兆円もの巨額の財政出動となるのです。この個人でも頑張れば何とかなる数字つまり、月1万円とか、年間10万円程度のカネであれば、政府なら何とかなるだろうとの、素朴な感覚に対して付け込んでいるのが、ベーシックインカムや給付金の思想的な問題点です。

BIでは無く、既存の福祉制度の充実では駄目なのか?

 ベーシックインカムは、新自由主義者の始祖のミルトンフリードマンが提唱したものですが、元々は既存の福祉制度を全廃を前提に構想されています。しかし、これでは、プラスマイナスゼロで、冷静に考えれば何のメリットも無い事が分かるのですが、本稿では、既存の福祉制度は残し、その上で給付金をバラまくユニバーサル・ベーシックインカムについて論考します。

 しかし、ここで、大きな疑問として浮かぶのは、給付金論者は、なぜ既存の福祉制度の充実ではダメで、なぜカネを全国民に配る事に固執するのか?という点です。年金、失業保険、生活保護、児童手当、障碍者年金の充実など、既存の福祉制度の充実では、駄目なのでしょうか?

ベーシックインカムは僅かな金額でも巨額になるのが特徴

 上図は日本政府の支出内訳ですが、社会保障が最も大きな支出で34兆円に達します。ところが、僅か3万円を全国民に月々給付するベーシックインカムですら、年間45兆円となり、社会保障の国家予算を遥かに超えてしまうのです。

 生活に貧窮するシングルマザーや障碍者や高齢者や失業者など、社会的な弱者を救済したいとの気持ちは大切だとは思いますが、給付金として月3万円を配るより、既存のさまざな政府支出を45兆円増やして、手厚い福祉を実現する方が、遥かに弱者救済になると考えるのが普通の感覚です。

MMTは、財政政策こそ金融緩和なのを明らかにした

 現代貨幣理論(MMT)が、明らかにした事実の一つに、政府支出は民間銀行預金を増やすという点が挙げられます。現代行われているリフレ理論に基づく日銀の金融緩和も、民間銀行預金を増やす事が狙いですが、全く効果が見られません。実は、財政政策こそが金融緩和なのだという事実が、既存の経済学派にとって都合が悪いのです。

 ベーシックインカムなどの給付金に一部の経済学者が異様に拘るのは、政府が銀行を経由して、直接カネを配ることによって、金融政策の財政政策化、あるいは、財政政策の金融ビジネス化が図れる事が目的なのです。

ケルトン教授作成のシンクの図

MMTは、無制限の財政出動を認めるものでは無い

 添付した二つのシンクの図は、来日したステファニーケルトン教授の作成した、政府支出と税金の関係を示したものです。蛇口から出される水は、政府支出をイメージし、排水口から出される水は、税金や社会保障の国民負担を示します。水がシンクからこぼれる状態は、過剰なインフレ状態であり、シンクに水が少な過ぎる状態は、今の日本と似た20年続くデフレ状態を示します。

MMTの魔法のシンクは、徐々に成長する

 MMTは、無制限に政府支出を拡大すべきと主張する経済学派ではなく、適切な国民経済の実現の為に、政府支出を行うべきと主張しているのであって、シンクの図は、その説明を最も端的に表しています。

 この図表に私が解説を付け加えるとすれば、このシンクは、財政出動という水を、シンクに溜める事によって、シンク自体が成長する魔法のシンクだという点です。このイラストでも、人が小さく描かれていますが、徐々に供給能力が高まり、水が以前より多く溜められるようになるのが特徴です。

MMTは、インフレ対策に熱心な経済学派

 MMTに対する批判として、インフレがコントロール出来なくなるとの指摘がありますが、当のMMTの学者は、MMTほどインフレ抑制に熱心な学派は無いと反論します。その意味で、ベーシックインカムは、マクロ的には供給能力を高めるか不確定であり、インフレを引き起こすとしてMMTは反対の姿勢を示しています。MMTが、BIの代わりに主張しているのは、JGP(ジョブ・ギャランティ・プログラム)です。カネの代わりに仕事を配るべきとの考えです。

ケルトン教授作成のシンクの図

今必要なのは、BIでは無く消費税の廃止

 20年もデフレ状態が続く日本は、異次元の財政出動の余地があることが知られています。その点、この10月から10%に増税される消費税など論外であり、廃止すべき税制です。国税と地方税と合わせると消費税は8%でも、22兆円余りの税収となりますが、この程度であれば、政府債務を増やしても全く問題ないでしょう。特徴的なのは、消費税の減税や廃止は、短期的には物価を下げる点です。8%分の物価が下がれば財政政策の欠点であるインフレを抑制する利点があります。

徐々に政府支出を増やし、国民負担も軽減すべき

 消費税廃止で物価を下げれば、貧困層に対してもケアにもなります。その上で、必要な政府支出を徐々に増やせば、極端なインフレになる危険性は、殆ど考えられません。仮に政府支出を拡大しても全くインフレにならなければ、社会保険料の負担を軽減したり、高速道路の無料開放など、行うべき財政政策は、無限に存在します。むしろ、ベーシックインカムや給付金の導入は、必要な財政政策の政策的な余地を狭める事となり、緊縮財政の口実を与える事になるでしょう。

増税と給付金は、相性が良いネオリベ政策

 ベーシックインカムは、元々は、金融政策の財政政策化を目指して、考案された政策であり、財政拡大よりは緊縮財政と相性が良いのです。この10月に予定されている消費税増税の対策の、殆どが給付金系の政策なのが、動かぬ証拠です。増税と給付金は、相性が良く、国民国家共同体の解体に繋がる給付金やベーシックインカムは、現代貨幣理論を正しく理解すれば、到底、推奨できない政策です。正しくMMTを理解し、BIの問題点を指摘する正しい言論空間が広がる事を期待します。

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黄昏のタロ
4 years ago

>ベーシックインカムは僅かな金額でも巨額になるのが特徴

経験しないと弱者がどんな事に困るのかが判らないと思うです。

おいらだって経験していなければ「BIは素晴らしい」って言ってたはずです。

そう言ってるおいらも家族の立場しか経験がないのです。
当人の苦悩は判ってあげられてないです。

あなたん
4 years ago

これは少子化対策の話でもあるのですが、個人的に社会保険料の逆進性の高さというのは非常に大きな問題だと考えていまして、低所得者層に対する社会保険料の負担軽減は今すぐにでも必要な政策だと思っています。そのためには累進性の強化というのも当然必要ですが、それだけでは賄いきれないと思いますので、国庫の負担率を増やす必要があると思います。この政策は実質的な低所得者層への減税=給付金にもなると思いますが、いかがお考えでしょうか?

名無し
4 years ago

ベーシックら皆さんそれぞれで全然違う形を考えていてベーシックインカムの概念が自分とはかけ離れて感じます。まず現状の福祉強化では駄目かとのお話ですが自分が感じるのは細かい制度があり過ぎ知っている人はまだ良いのですがわからない人そこにかかわる人権費お金を配るので調査も必要なので後は年金問題になるのですが年金廃止の為にって考えてです。自分は年金払ってますが年金を足りない額を税金で出すなら額は変われど皆さん払ってるんじゃあ?って思います、それに払ってなくてもじゃあその人達が困ってたら政府的に見捨てるのですか?そこを考えてベーシックインカムを出すかわりに税金を上げ年金、子供手当て廃止、生活保護の削減をして老後を心配無いような国をと思ってます。実際与える人を年収で縛るとこれ以上稼ぎたくないとか偽装と不正に繋がるのでそこの調査費削減の為にも国民全体に払い税金を上げバランスを取るのが良いと思ってます

当ブログは2019年5月に移転しました。旧進撃の庶民
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