「日本の労働生産性は低い! 先進国の中で最下位だ!」との言説は、もはや定説として日本に蔓延っています。これ、本当?
「日本はIT化が進んでないから」「日本人は合理性を嫌っているから」みたいなことを言いますが、フランスやイタリア、イギリスってそこまでIT化が進んでいて合理的でしたっけ?
労働生産性が世界一のルクセンブルクやアイスランドは、合理的で成果主義でITなんですか?
こう考えると途端にはてなマークが、頭に浮かんできませんか?
日本の労働生産性が低い理由について、じつは購買力平価GDPで算出している! というカラクリがありました。
なぜ日本の労働生産性が低く算出されるのか? その理由についてわかりやすく解説します。
購買力平価とは?
最初に購買力平価を説明してから、労働生産性の算出方法を解説します。
購買力平価とは簡単に言えば「iPhoneをいくらで買えるか?」です。例えばアメリカでiPhoneが600ドルとしましょう。そして日本では5万円。
とすると1ドルが120円で、ちょうど釣り合いがとれるはずですよね。
これを絶対的購買力平価と言います。本当はもう少し複雑で、消費者物価指数――つまりインフレ率を考慮して購買力平価は決定されます。
インフレ率を計算するのが相対的購買力平価と言います。国際比較などでは主に、相対的購買力平価が使用されます。
参照 購買力平価説の実証と問題点
為替は金融政策や国際情勢によって、大きく変化することがあります。よって価値比較をするときに、購買力平価を使用せざるを得ません。
ではこの購買力平価は、絶対値として正しいのか? 全くそんなことはありません。例えば消費税が高いだとか、売っているものの質が異なるだとか……実に様々な条件によって購買力平価は左右されます。
購買力平価説を絶対値として採用するなら、以下の前提条件が必要です。
- 完全な自由貿易
- 輸送コストゼロ
- 伸縮的価格調整→財やサービスの価格調整が伸縮的かつ”瞬時”に行われること
- 情報の完全性
- 財の同質性→日本の米もアメリカの米も、同じ味のはず! が財の同質性
あり得ない前提条件ばかりですよね。したがって購買力平価は、絶対値としては採用できない数字です。
しかし購買力平価以外に、比較として有力な指数も存在しません。よって購買力平価はトレンドとして捉えるのが、正しい見方です。
労働生産性=購買力平価GDP/就業者数
世間で言われている労働生産性とは「労働生産性=購買力平価GDP/就業者数」で算出されます。購買力平価GDPとは、為替ではなく購買力平価で算出したレートでGDPをドル換算します。
日本の1995年の名目GDPは502兆円で、これを当時の為替レート(94.0596円/ドル)でドル換算すると5.3兆ドルとなり、当時の購買力平価(175.684円/ドル)を用いて計算した購買力平価GDPは2.9兆ドルであった。
ITIコラム-なぜ日本は米国よりも一人当たり購買力平価GDPの順位を下げるのかより
このように購買力平価GDPと、実際の為替で換算したGDPには大きな開きがあります。そして購買力平価では、絶対値は算出できません。トレンドでみるのが正しい見方です。
それを踏まえて、労働生産性の国際比較推移をご覧ください。
バブルで多少上がっているものの、1970年代から日本はおおよそ20位前後です。
- 絶対値に意味がない
- トレンドでみるべき
ならば……日本の労働生産性は、国際水準とおおよそ同レベルで推移していると解釈できます。労働生産性が低くもなっていないし、高くもなっていません。
ランキングが下の方になってしまうのは、他国に比べて購買力平価が何らかの原因で円安に振れている、ないし国内の財の質が高めだからではないでしょうか。
少なくとも日本の労働生産性が、先進国の中で最も低いとは「言えない」でしょう。よって「他の国に比べて労働生産性が低い! 日本はIT化が遅れている! 非合理的だ! 国民性がでんで……云々!」という言説は、的外れです。
……どう考えたってドイツやアメリカはともかく、フランスやイタリア、イギリスが日本より合理的で成果主義でIT化が進んでいて……とは思えませんものね。
イタリアが7カ国中3位という時点で、気がつくべきでしょう。
※イタリアをバカにしているわけではありません。失業率などをみても、そのイメージがわかないというだけです。
労働生産性を上げる唯一の方法
「日本の労働生産性が低い説」でもっとも有力なグラフ、つまり先進7カ国中最下位! は「そうとは言えない」となりました。
つまり、労働生産性を上げる議論をしなければならない理由はありません。
それでも一応、どうすれば労働生産性が上がるのか? について述べておきます。
労働生産性は国内の場合、「労働生産性=GDP/就業者数」です。労働生産性を上げるには「就業者数を減らす」か「GDPを上げる」かです。前者は論外ですよね。
GDPとは何か? 国内で生産され”需要”された付加価値の総合計です。需要が増えれば生産量が一緒なら、価格が上昇します。したがってGDPは増えます。
つまり緊縮財政をやめて政府が需要創出をすれば、自然と生産性は上昇します。そこには合理化もIT化も労働時間を増やすことも、労働の質を高めることも必要ありません。
ただ需要を増やせば良いのです。
ね? 簡単でしょう?
まとめ
日本の生産性の議論は、すごくレベルが低いです。有識者ってこの程度で名乗れるのか! と、嘆息してしまうほどです。
彼らが使用する「先進国7カ国中最下位!」グラフは、購買力平価を元にしてるんですから絶対値で見ちゃいけないグラフでした。
それを絶対値であーだこーだと言ってるのですから、知的レベルの低さは自明です。
もしわかっててやっているなら、嘘つきです。
日本に労働生産性の議論は必要ない、が今回の結論でした。
日本のようにインフラが整備された先進国においてGDPはむしろ、反環境、非効率性指標の側面がある。
例えば軽自動車の販売は止めますので、大型車へ乗り換えて下さいとやった場合(アメリカでは大型車が売れている)、1台の車を5人でシェアします、とやった場合、など考えれば、GDPが増えても単純に良くないのは明らか。省エネ、省資源を日本人は追求しているが、その努力はむしろGDPにマイナスの面がある。
国際化、IT化と長期にわたる円高など日本が置かれた立場を見れば、デフレ、低賃金化、空洞化圧力は相当に強かった。
日本人が真面目にやればやるほど、それらはむしろ進みやすかった(だからといって単純に生活レベルが落ちたということでもないし、GDPが何分の一に縮小したわけでもない)。GDPという指標が日本人の努力を反映しないことは明らか。
だから生産性を測るのにGDPを割って計算するのはそもそも意味が無い。特にIT化が進んだ現代においては。
そのように意味の怪しいGDP指標を無理矢理使って、単に増やせばという議論は単純すぎるのでは。反環境、非効率さはどうでもよいということになりかねない。
GDPという指標の不完全さはあるでしょうね~。
しかしGDPだけではなく、1997年をピークに平均所得が数十万円も下落している、という現象はどうでしょう。
※就業者数が増えてGDPが横ばい、ということです。
※1997をピークに20年間で、平均所得が減少している先進国は日本だけです
日本人全体が貧困化している現状でなお「環境問題と市場の効率性が大事で、GDPや平均年収は重要じゃない」と主張されますか? それならそれでいいんですが。
価値観は自由です。
2012年まで40年にわたって続いた円高傾向、1980年代から中国がアクセス可能な生産地、マーケットとして台頭したこと(これは低賃金労働者の大量供給であった)、それに日本企業は外国、特に東アジアに大量に工場を作ることで対応した。
(低技術レベルの国ならこれでデフレ、低賃金化、空洞化となり、失業率増大も必死だったはず、日本企業はバブル崩壊以降の構造転換期に、これらとIT化が重なり、大変な環境の中で仕事を続けている)
それらの工場は今もあり、それぞれの国に波及効果も含めて多大な影響を与えている。
「生産性」の話に絞るなら、単純にこの(日本人が働いた)効果がGDPに取り込まれないのでGDP割り算は意味が無い。そう説明した方が異論は少ないか。
100円ショップで物を買うと、低賃金化圧力も込みでついてきます。
「平均所得が減少」しても貧困化は現状問題となっていないようです。
(異論はあるかもしれませんが、コロナと一緒で周囲に事例を見かけないので蔓延しているとは思えません。これが問題なら反政府傾向の強いマスコミも黙っていないでしょう)
デフレとの兼ね合いの問題で、ここ10年くらいはIT化(EC化)によっても実質デフレは進んでいます。
何十もの店から1円でも安い物を見つけたり、メルカリで服を買って、いらなくなったら売る、あるいはメルカリで不要品を売る。ECサイトも競争が厳しいのでポイントばらまきで集客、車はタイムズでカーシェアなど20年前なら考えれないことばかりです(統計にも載りにくい)。その上、消費者としてでなく、販売者として一夜にして全国販売網に商品をのせることもできる。節約するばかりで無く、増やすことも容易になりました。そのような対応をして乗り切っているのでしょう。
「貧困化」という場合、失業が大いに問題になると思います。収入ゼロは死活問題です。日本は他国と比べて失業率が低く、もし「平均賃金」から貧困を他国と比較したいなら、為替、インフレ、デフレ調整はもちろん、失業者も収入ゼロとしてカウントに入れて補正すべきでしょう。
政府ばらまき政策はバブル崩壊以降何度も行われてきました。その上で現状があります(効果を確認すべきでしょう)。途中、民主党による「箱物行政批判」などもあり、非効率行政は国民が認めません。中国ならゴーストタウンを作ろうが、採算の取れない高速鉄道を作ろうが、問題ないのでしょうけれど、負の遺産として残るのを日本人は知っています。
>「生産性」の話に絞るなら、単純にこの(日本人が働いた)効果がGDPに取り込まれないのでGDP割り算は意味が無い。そう説明した方が異論は少ないか。
海外部門の収支として、GDPに入っているはずでは?
なお海外工場をどうのと言い出すと、欧米も同じような条件です。
>「平均所得が減少」しても貧困化は現状問題となっていないようです。
いえ、なってますが。ざっと論じられるだけでも
1.世界GDPシェアにおける地位低下
2.貧困化に伴う晩婚化と少子化
3.貯蓄ゼロ世帯の増加や雇用の不安定化
>政府ばらまき政策はバブル崩壊以降何度も行われてきました。その上で現状があります(効果を確認すべきでしょう)。
以下、事実関係です。
1.1997年まで財政出動して、バブル崩壊後ながら経済成長(小渕政権)
2.1997年に消費増税(緊縮財政)で1998年にデフレ突入
3.それ以降、財政出動が行われたのは麻生政権のみ
「何度も」は2度のことですか? 特に1998年以降で財政出動を行ったのは、麻生政権のみと記憶してます。
一体いつ他の財政出動が行われたのか? ぜひご教授ください。
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