全米大争乱の今こそ!再読したい 『現代のトマス・ペイン、佐藤健志のアジテート』コモン・センス完全版:書評

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 米ミネアポリスで警察官が黒人を殺害した事から、全米で人種差別反対の抗議運動が起きましたが、それを契機に、ウイルス感染症で自粛していた人々は暴徒化し、昨年公開された映画「ジョーカー」を想起させる暴動がアメリカ全土で広がっています。首都ワシントンは炎に包まれ、トランプ大統領は地下壕に逃げ込んだとも報道されています。一体アメリカは、どうなってしまったのか?それを知るには、米国の建国の歴史を紐解くのが良さそうです。佐藤健志訳「コモンセンス」完全版(2014年)の私が投稿したAmazonレビューをお届けします。

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『総ての保守言論人に捧ぐ』

 この本ほど、ある目的の為に書かれた本を私は見たことがない。訳者の佐藤健志氏の目論みは明々白々だ。それはズバリ、政府が進める『国民を貧しくする政策』を見て見ぬ振りし、安倍政権を支持している『保守言論人』を覚醒させるためだ。

『アメリカを創った過激な聖書』

 この著作は、米国が独立宣言を発表する直前に出版され、聖書並みの大ベストセラーとなった本の完訳である。この「コモン・センス(意味は常識)」に煽られてアメリカは独立を果たしたそうだが、全体を貫くのは徹底した反英主義と、聖書の構成を真似たキリスト教原理主義である。

『希代のアナーキスト、トマス・ペイン』

 私が驚いたのは、作者のトマス・ペインが、この本を出版するわずか数年前にアメリカにやって来た、生粋の英国人であるという事だ。アメリカ生まれのアメリカ人が独立を主張するならまだ分かる。本書を貫く徹底した英国への憎しみは、半端ではない。彼は生粋のアナーキストなのだ。

『希代のグローバリスト、トマス・ペイン』

 彼は英国では職を転々とし破産状態で渡米する。米国が独立を果たした後はイギリスに戻り、次にフランス革命が起きるとそれに熱狂し渡仏するが、危うくギロチン台に送られそうになり偶然に命拾いする。最後は米国に戻りNYで寂しく生涯を閉じるという、正に国境にこだわる時代は終わった、と云わんばかりのグローバリストである。

『いつやるの?今でしょう!』

 この完訳の面白いところは、佐藤健志氏の超訳にある。「清水の舞台から飛び降りる」や「鬼に金棒」など、まだ可愛い方だ。「やられたら、やり返す!倍返しだ!!」とか「偽装転向・・・・」や「いつやるの?今でしょう!」まで飛び出す始末である。

『英国VSアメリカ=米国VS日本』

 しかし佐藤氏の狙いはこうだろう。現代日本に溢れ返る表現を敢えて用いる事で、まるで平成の世に出た、民衆への独立への決起を促す檄文、として捉えられるのを期待したのである。つまり本書のイギリスが現代のアメリカであり、本書の独立前の米国が、現代の日本として描かれているのだ。

『植民地アメリカ=戦後日本』

 独立当時のアメリカは東部13州の植民地であり、現代の50州の超大国の姿とは異なる。しかし南北に細長く大西洋を介してイギリスと介する当時のアメリカの姿は、今日の太平洋を介した日米関係と瓜二つに感じられる。

『親米保守=親英アメリカ人』

 この著作の中でコケにされているのは、親英アメリカ人である。彼らの姿は、何から何まで平成日本の親米保守派とそっくりなのだ。やれイギリスは偉大な大国だから、それに付き従っていれば安泰だとか、英国議会にも新米派の議員がいるとか、最近の日本でもよく聞く話ばかりである。当時はアメリカもイギリスの一部だから当然であるが、それに比べると日本の親米保守の情けなさが際立つ。

『ジョージ三世=安倍総理』

 ここで気になるのは、当時のアメリカ人の英国王ジョージ三世に対するイメージが、今日の日本における安倍総理のイメージと重なるのである。ジョージ三世は悪くない、周りの取り巻きの大臣が悪いとか、安倍政権の政策には反対するが、安倍総理は絶対支持!なんてやっている、日本の保守論壇そのもの雰囲気と重なるのだ。本書は安倍ポリアンナ症候群の患者達を、トマス・ペインが論破しているようにも読める。

『アメリカという名の新興宗教』

 本書を貫く柱のひとつにキリスト教原理主義がある。旧大陸では各宗派に分かれて血なまぐさい争いが絶えなかったキリスト教に対して、各宗派の争いを根絶して、本来のキリスト教に帰ろうという姿勢を非常に強く感じる。国際社会における米国のはた迷惑な理想主義の原点が、キリスト教原理主義なのだ。

『アメリカという名のアナーキズム』

 そしてもう一つが徹底したアナーキズムである。私が本書で、気になったのは、社会と政府を分離している点である。王様は悪い事をするヤツだから政府はいらない!でも我々が生きて行く為の社会は必要、という考えなのである。これは日本のような自然国家とは全く相容れない思想だろう。

『結局は税金が払うのが嫌なヤツら』

 私は、米国の本質は、英国の重税に怒った植民地の住民が起こした暴動から派生した反税国家だと考えている。結局、彼らには税金を払うのが嫌という以外、何も大義が無いのだ。それに対しトマス・ペインは、宗派ごとに対立していたキリスト教の統合という大義を与えたのだと思う。アナーキズムと宗教原理主義の統合でもある。

『佐藤健志のアジ演説』

 しかしながら、本書の本質は、別のところにある。戦後日本の対米従属に対する姿勢に対する、佐藤健志のアジ演説そのものなのだ。トマス・ペインの語り口は、そのまま現代日本の保守も左翼もひっくるめて攻撃の対象となっている。特に、第五章のクェーカー教徒のパンフレット部分は、憲法九条を後生大事に奉っているサヨクをやり玉に上げているように感じられる。

『トマス・ペイン守護霊かく語りき』

 いわば、本書は、某宗教団体の教祖がよくやる守護霊に色々語らせる例の手法を用いた、徹底的な佐藤健志による戦後体制に対する批判なのである。戦後日本はアメリカの植民地に過ぎず、独立する実力と環境が整っていながら、保守も左翼も怖じ気づいて言い訳ばかりしている様をあざ笑っているのだ。佐藤健志の挑発にこれから我々が、どのように応えるか各人の覚悟が求められている。(了)

コモン・センス 完全版 アメリカを生んだ「過激な聖書」 Kindle版

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