「自国通貨建ての国債では、財政破綻(この場合はデフォルト=債務不履行、借金が返せなくなること)はあり得ない」と言われますが、実は自国通貨建ての国債でも財政破綻する場合があります。
無論、「絶対に財政破綻はあり得ない自国通貨建て国債」というものも存在しますが、その違いは一体何なのでしょうか。
政府債務と通貨発行権
政府は通貨発行権というチートなスキルを持っているため、お金を無限に発行できます。
ゆえに、政府が借金をする場合、その借金が自国通貨建てであれば―――例えば日本なら、政府が日本の通貨である円を借りた場合、円を発行できる日本政府は、いくら借金をしても返済に困ることはありません。
なぜなら日本政府は、円を発行できる権限、すなわち通貨発行権を持っているからです。
つまり理論上、日本政府は自国通貨建てであれば、無限に借金をすることが可能なわけです。しかし、外国通貨建ての債務―――例えば外国の通貨であるドルを借りる場合、あるいはイギリスのポンドを借りる場合などは、無限に借りるというわけにはいきません。
なぜなら、日本政府にはアメリカの通貨であるドルを発行することも、イギリスの通貨であるポンドを発行することも出来ないからです。
自国通貨建ての国債(日本で言えば円で借りる借金)を内国債(内債)、
外国通貨建ての国債(日本で言えばドル建て債など)を外国債(外債)
と言います。
通貨発行権のない国や外国債はデフォルトの可能性がある
例えば、債務不履行で財政破綻したギリシャは、ユーロ加盟国で共通通貨のユーロを採用しており、自国通貨を持っていません。
つまり、ギリシャ政府には通貨発行権が無いので、政府の債務を返済できず財政破綻してしまったのです。
メキシコの場合はペソという自国通貨を持っていますが、政府の債務が外債、つまり外国通貨建ての債務でデフォルト(債務不履行=借金が返せなくなること)になりました。
自国の通貨発行権を持っているとはいえ、外国通貨建ての国債なら外国通貨で返済せねばなりません。
外国の通貨発行権を持っている国はありませんから、当然デフォルトリスクはあるわけです。
自国通貨建て国債で破綻したロシアは、固定相場制を採用していた
これに対して、ロシアは自国通貨建て国債で債務不履行(正確には対外債務の支払い停止)宣言をしました。これは、当時のロシアが固定相場制を採用していたことに、その理由があります。
固定相場制とは、自国の通貨を別の国の通貨と同じ価値に固定する制度で、ロシアであれば、例えば1ルーブル=1ドルに固定するということです。
※実際は、1ドル=
1995年7月~11月:4,300ルーブル~4,600ルーブル
1995年12月~:4,550 ルーブル~5,150 ルーブル
1998年1月~:6.2ルーブル(デノミによって新1ルーブル=旧1,000ルーブル)
>ロシアの為替政策 内閣府経済社会総合研究所
こうすることで、変動相場制における為替相場の暴落や急騰に左右されず、安定した貿易が可能になるわけですが、もちろん条件があります。
それは「相場を固定した外国通貨と自国通貨が、いつでも交換できる状態でなければならない」ということです。
つまり、相場を固定した外国通貨、この場合はドルを、ロシア政府は“外貨準備”という形で保有し、ルーブルとドルの交換を要請されたときは、固定された相場に応じてルーブルとドルを両替しなければならないわけです。
なにしろ、ルーブルとドルを固定相場でいつでも両替できるからこそ、ルーブルはドルと同等の価値(相場)を持つことができるわけですから。
つまり、自国通貨の価値=自国が保有する外国通貨(この場合はドル)ということで、自国通貨価値の裏付けを外国通貨に依存している、ということも出来ます。
ゆえに、固定相場制の国では、常に一定以上の外貨準備高を持っていないと、自国通貨の価値(相場)を維持できなくなります。
例え自国通貨建ての国債を発行しても、外貨準備高が無くなる=ドルとの両替が不可能になると、借金の返済が困難になってしまうのです。
なぜなら、固定相場でドルと等価交換ができると言っても、誰でも一番信用できるドルを持ちたがるからです。
固定相場制では、自国通貨発行で借金返済しても、その後の“外国通貨との両替”がネックになる
自国通貨建ての国債は、自国通貨を発行して返済ができます。
しかし、その後の外国通貨と自国通貨の交換は無限にはできません。
つまり、外貨準備高がゼロになってしまえば、自国通貨で借金の返済はできても、ドルに両替できなければ、結局支払い不能になってしまうのです。
要するに、“固定相場制の自国通貨建て国債は、実質的に外国債とほぼ同じ”というわけですね。
貯金箱(外貨準備高)がいっぱいなうちはいいですが、外貨が無くなってくると、途端に財政破綻の足音が聞こえてくるというわけです。
つまり固定相場制とは、金が他国通貨に置き換わっただけの金本位制とも言えて、自国通貨の価値・信用の裏付けが、自国のドル保有残高で決まってしまうのです。
固定相場制、外貨準備高が無くなってきたらどうなるの?
固定相場制の国が、自国保有の外貨準備が無くなってきたらどうすればよいのでしょう。
以下の三つの方法が考えられます。
①自国通貨の価値を対ドルで切り下げる
例えば1ドル=1ルーブル→2ルーブルにすると、政府が交換しなければいけないドルが減るので、外貨準備減少の抑制が可能です。
しかしこの場合、自国通貨安になってしまうため、供給を輸入に頼っているとインフレを招く要因になってしまいます。
だからやり過ぎるわけにもいきませんし、下手をするとルーブル売りが加速して、保有ドル減少を抑制どころか加速しかねません。
②外債発行で調達する
外債、つまり自国通貨以外のドル建てなどで国債を発行し、ドルを調達する方法。
無論自国通貨建てというわけではないので、デフォルトリスクがあります。
③変動相場制に移行する
これが最後の手段になります。
しかし、外貨準備もない状況では通貨価値を安定させるための為替介入もロクにできないため、自国通貨の暴落を招きかねません(実際に招きました)。
いずれにせよ、固定相場制で外貨準備が無くなると、国家財政としてはほぼ“詰み”となり、経済的な混乱は避けられない、と言う事になります。
無論、財政破綻(デフォルト)したからって、その国が消滅してしまうわけじゃありませんけどね。
破綻する自国通貨建て国債、破綻しない自国通貨建て国債
ここまで見てきたように、例え自国通貨を持っていても、外国通貨建ての国債を発行していればデフォルトリスクがあるのと同様、自国通貨を持ち、自国通貨建ての国債を発行していても、固定相場制を採用していると外貨準備高が無くなった場合にはデフォルトリスクがある、ということです。
逆に変動相場制を採用し、自国通貨を持ち、自国通貨建て国債が100%を占めるような我が国日本では、無論インフレや通貨安といった問題を生じる可能性はありますが、デフォルトリスクはありえないのです。
※この記事は、破綻する自国通貨建て国債、破綻しない自国通貨建て国債 門前小僧 アメーバブログを加筆・修正したものです。
なるほど、大変分かりやすい説明です。
よく、自国通貨建てでも財政破綻したケースはいくらでもある、だから日本も財政破綻すると言っている者がいますが、この記事を見て理解できました。
日本は自国通貨建てで、外貨準備のドルの保有も豊富で、更には変動相場制と、世界で最も財政破綻にしにくい国だと改めて確信致しました。
財政破綻論者に対する反論として、使用させて頂きます。
かつてのアジア通貨危機も、ドルペッグ(固定相場)が耐えきれなくなって起きたようですね。今の日本は変動相場制ですから、あまり関係のない話ですね。
筆者の言う通り内国債の場合デフォルトしないとしても、仮に将来財政リスクが顕在化した場合には、国債並びに円通貨の信用が揺らぎ、かなりの円安に振れると共に輸入物価高騰により激しいインフレに見舞われる事になる。その結果政府(国)が救われる代わりに国民が犠牲になるのです。通貨安によるインフレを甘く見ない方が良いですよ。国債の信用リスクを甘く見てはいけません。現在日本国債の格付けはA~A-ですが、2ランク下がればBaとなり投機的部類に入りますので、金融取引でかなりのリスクプレミアムを要求される事は間違いないでしょう。コロナショックと同様に過度な楽観論は禁物だと思います。
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