なかなか刺激的なタイトルで申し訳ありません。中身はおおよそまっとうなベーシックインカム議論です。多分(笑)
日本で最初に広まったベーシックインカムの議論は、筆者の記憶が確かなら「AIの発達によって、人間の仕事が奪われて失業が出るから必要になる」でした。
ところがいつの間にか、社会保障として弱者保護から議論されるだけでなく、積極財政派からも大きな期待をかけられる政策となりました。
しかしベーシックインカムは理論的に「AIが発達しないと、ベーシックインカムが実現できない」というパラドックスに陥っているのではないか? という問題提起をしてみたいと思います。
ユニバーサルベーシックインカムとはなにか?
日本でベーシックインカムの議論は、非常に多岐にわたります。wikiで調べてみますとベーシックインカムは、本来「国民全員に一律給付する政策」を指すようです。したがって本来のベーシックインカムを、ユニバーサルベーシックインカムと呼称して区別するようです。
本稿で論じるベーシックインカムも、ユニバーサルベーシックインカムを指しています。
ベーシックインカムはもともと、新古典派経済学の議論から出てきました。小さな政府に細かい社会保障の項目は、非効率的と考えられます。したがって社会保障を一元化して、効率的にしたものがベーシックインカムの発端でした。
ベーシックインカムの目的といわれるもの
現在のベーシックインカムは主に、以下のような目的で語られます。
- 低所得層の救済や最低所得保障として
- AIが将来的に仕事を奪い、失業者が大量発生するから
- 積極財政を実現するために
目的1つとっても様々な議論が展開できます。しかし本筋とは異なるのでワキに置きます。
ベーシックインカムの問題点-インフレ制約
一般的にベーシックインカムの問題点は、財政問題といわれます。これは均衡財政主義の考え方の場合です。現代貨幣理論(MMT)で考えるのならば、明らかにインフレ制約こそが問題です。
インフレ制約とはなにか? 簡単に言えば「国債という赤字は問題ないけど、インフレが行き過ぎると問題だ」です。
ではインフレが過剰になる状態とは、どのような状態でしょう?
需要>>供給の状態です。
ベーシックインカムや公共事業の経済効果額の試算方法
社会保障費などの給付は、消費性向が約0.5ほどです。逆に公共事業等は支出された瞬間に消費されるので、消費性向は必ず1になります。
社会保障費やベーシックインカムのGDP押上効果
政府支出×0.5(消費性向)×2(乗数効果)=経済効果やGDP押上効果
公共事業などのGDP押上効果
政府支出×1(消費性向)×2(乗数効果)=経済効果やGDP押上効果
日本の潜在供給力は誰も知らない、分からない
日本で7万円/月のユニバーサルベーシックインカムを実現すると、政府支出は100兆円/年が増加します。GDP押上効果は上述した式に従えば、100兆円です。
では需要過多で過度のインフレにならないだけの潜在供給力が、日本に存在するでしょうか? この答えは「誰も知らないし、分からない」が正解です。
筆者の見解としては、20年以上に及ぶデフレでかなり毀損されているのではないか? と予想しています。少なくとも楽観的に「膨大な供給力が潜在している」と考えるより、悲観的に考えておいたほうが安全です。
ベーシックインカムでインフレ制約をかいくぐる方法
非常に単純な話ですが、ベーシックインカムでインフレ制約をかいくぐる方法は存在します。小さな額から始めればよいのです。月に2万円弱から始めれば良いでしょう。
なぜなら1万8千円だとすれば、25兆円の政府支出の増加です。したがってインフレ率は最悪でも、5%程度に抑えられるはずです。10%までのインフレは、高度成長期で経験していますので許容できる範囲かと思います。
残りの5%は消費税減税や、国土への投資に充てられるというわけです。
目的と相容れない給付額が足りないという問題と物価スライド
上記でベーシックインカムが、インフレ制約をかいくぐる方法を解説しました。2万円弱と書きましたが、正確には1万8千円ほどです。
仮に上記の額で、インフレ率が公共事業など含めて10%になったとします。翌年に1万8千円は、前年の1万6千円の価値に下落します。ただでさえ少ない給付が、さらにインフレにより目減りすることになります。
とすれば、物価スライド制を取り入れればどうでしょう。しかし供給能力が爆発的に増加しなければ、給付できる金額はいつまで経っても、初年度の1万8千円と同じ価値となりかねません。
供給能力を解決するかもしれない人工知能(AI)
ユニバーサルベーシックインカムの給付額が「正直しょぼくなる」という可能性を指摘しました。せめて月々5万円からじゃないと、話になりません。主に筆者が「それくらいはほしいでしょ!」と思う額ですが(笑)
インフレ制約の根本的な解決は、供給能力を爆上げすることです。
そのためにはAIが、役に立つかもしれません。
AIに仕事を奪われて失業するは大げさ?
2045年にシンギュラリティが起こり、AIは人間の能力を超えると囁かれています。そしてAIによって人間の仕事の大半は奪われ、多くの失業が発生するとも言われます。
本当に?
上記で解説しています。ポイントを引用しましょう。
総務省|平成28年版 情報通信白書|人工知能(AI)導入で想定される雇用への影響では、有識者27名中、16名が「AIの導入で、新しい市場が”創出”され、”雇用機会が増大”する」と答えています。
じつはAIによる人間の失業は「ショッキングでニュース性があるから、過大に取り上げられるだけ」です。じつはそう予測する有識者は、少ないのです。
ケインズは1930年代に「21世紀は1日3時間しか働かなくて良くなる」と予測しました。どうでしょうか? 仕事時間は全く減る気配を見せません。
ケインズの予測の誤りは「1930年代の水準の仕事なら、21世紀には3時間で終わる」と考えたことです。AIと失業も、おなじになる可能性は高いのではないでしょうか?
実際に未来のことは、不確実性に満ちています。もしかしたらAIが、爆発的な供給能力の向上を実現するかもしれません。そうしたらベーシックインカムは、実現するに違いありません。
ユニバーサルベーシックインカムとAIと失業まとめ
日本のベーシックインカム議論は「AIで失業だ! だからベーシックインカムを考えておかねば! 議論しておかねば!」という、意識高い系で広まったと記憶しています。
当初の筆者はBLOGOSで「ほーん、だから何?(ハナホジ)」でした(汗)
なぜなら「そんなん、その時代になってから議論したらええやん」と考えていましたから(笑)
正直なところ現在でも、ベーシックインカムに大きな興味があるわけではありません。賛成か反対かの前に、筆者が主張してきたことと整合性が取れるか? を最初に考えました。筆者の結論は「難しくね?」です。少なくともユニバーサルベーシックインカムは、筆者の持論(国土への投資や、弱者重点の社会保障、インフレ制約という理論)と並立しません。
以下の記事にも、その理由はまとめています。
余談 ベーシックインカムという社会実験
私は「革新的な政策がうまくいく」とは思っていません。大阪都構想然り、ベーシックインカム然り。EUだって1990年代には、バラ色の未来が語られました。それが今やどのような有様か。
ベーシックインカムは、まごうことなき「社会実験」です。「日本全体でベーシックインカムを実現するべし!」という主張は、あまりにも楽観的と筆者には感じられます。
このように言うと「しかしフィンランドや、他のところでもベーシックインカムは実験されている」との反論があるでしょう。
しかし筆者が目にした実験は、すべて数千人規模以下の小さなものばかりです。
他の国でうまくいってから、日本もやれば良いじゃない(´・ω・`)
地獄への道は善意で舗装されている、とは欧州の格言です。バークを父とする保守思想が理性万能主義を疑うように、ベーシックインカムへ警戒するのは自然な態度かもしれません。
あとがき
ベーシックインカムについて言及できることは、様々にあるでしょう。例えば「給付による需要増加と、公共事業による需要増加では、最終的に供給能力の伸びに差が出るだろう」という事実です。
これはスープラ(上部構造)かインフラ(下部構造)かが関係しています。
上記の議論は公共事業論が盛んであったとき、ごくごく当たり前に語られた議論だったかと思います。しかしベーシックインカムの議論になると、途端にどこかに飛び去ってしまいます。
今まで積み上げてきた知見を、ベーシックインカムの議論にも活かすべきではないか? と思いつつ、締めにしたいと思います。
おまけ。本稿を書くのに作った記事構成。