インフレの種類① ~ 良いインフレと悪いインフレ ~

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物価が上昇、あるいは物価が上昇し続けている状態のことを、インフレ(インフレーション;inlflation)といいます。

つまり、インフレになる→物価が上がる→物の値段が上がることであり、あまり良いイメージを持っていない方も多いかと思いますが、前回寄稿させていただいた記事にてご紹介した通り、物価というのは労働者が生産・提供するモノやサービスの値段、つまり労働者の賃金の原資となるものですから、物価が下がると言う事は、すなわち労働者の賃金も下落する、ということになります。

もちろん、物価が上がればよい、というわけではありません。

例えば、1970年代に日本を襲ったオイルショックのような物価高のように、労働者の賃金上昇とは無関係な要因によって起こるインフレもあります。

つまりインフレには、良いインフレと悪いインフレがあるのです。

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物価の構成要素とインフレの種類

良いインフレと悪いインフレのお話の前に、物価を構成する要素について知っていただかなければなりません。
物価は、大きく分けて経費と利益の二つに分けられます。
経費とは、その製品を作るのに必要な原材料や、燃料などにかかった費用です。
利益は、そのままの意味で、作った製品が売れたことによって得られる利益のことです。

画像にもありますが、賃金に当たる人件費は、一般的には経費(コスト)として計上されます。
しかし、実際には人件費は利益に応じて変化してしまうモノなので、ここでは
企業の裁量で増減が決められないものを“経費”、
企業の裁量で増減が決められるものを、まとめて“利益”に分類します。

需要に引っ張られるインフレと、経費に押し上げられるインフレ

インフレには、大きく分けて二つの種類があります。
デマンドプルインフレ(demand pull inflation)と、
コストプッシュインフレ(cost push inflation)です。

文字通り、
需要(demand)に引っ張られる(pull)インフレと、
コスト(経費;cost)に押し上げられる(push)インフレです。

基本的に、MMT論者やケインズ派、PK(ポスト・ケインズ)派のような、反緊縮・積極財政派の方が“インフレ”という場合は、前者のインフレのことを言います。


両者は、物価を構成要素のいずれかの変化によって、つまり
・利益の部分が増えるか
・経費の部分が増えるか
で分かれます。

需要と供給の関係

需要>供給、つまり需要より供給の方が少ない場合、物価は上がります。
需要<供給、つまり需要より供給の方が多い場合、物価は下がります。

需要より供給が多い、つまりあるモノを欲しいと思う人よりモノの数が多い場合、値段は下がります。
例えばパン屋さんが、閉店間際に売れ残ったパンを値下げする場合。
閉店間際ではお客さんの数も減り、売れ残る可能性があります。
売れ残ってしまえば儲けは0ですが、安くしてお客さんが買ってくれれば、それだけ儲けが増えます。0よりマシ、ということですね。
つまり買ってくれるお客さんが少ない、あるいは減ってしまっているとき、お客さんが買いやすいように企業にはモノやサービスの価格を下げようとするインセンティブが働きます。

逆に、需要より供給が少ない場合、モノやサービスを買いたいと思うお客さんが多い場合、企業は価格を下げる必要が無くなります。
むしろ値上げしてもなお、お客さんが買ってくれるような状況では、儲けを増やすために価格を上げようとするでしょう。

一般的に、インフレの状況というのは、後者で挙げた例のような状況で起こります。
つまり、デマンドプルインフレです。

良いインフレと悪いインフレ

デマンドプルインフレは、一般的に“良いインフレ”と言えます。
なぜなら、企業の利益(儲け)が純粋に増えるからです。

図のように、価格の上昇分がそのまま利益に乗るため、値上がり分は全て企業の儲けになり、労働者の賃金も上がる可能性があります。

反対に、コストプッシュインフレは、経費の値上りによって強制的に物価が引き上げられてしまう現象で、利益ではなく経費が増えることによって物価が上がってしまうため、企業の利益は増えるどころかマイナスになる可能性もあるため、“悪いインフレ”ということができます。
特に我が日本国は、原材料や燃料を輸入に頼っているため、海外の紛争や自然災害、政治の混乱などによって輸入物価が高騰した場合などは、コストプッシュインフレに陥る可能性が高くなります。先に挙げたオイルショックにおける物価の高騰は、このコストプッシュインフレの典型例でしょう。

また、輸入先国の外交カードとしても利用される危険もあります。
尖閣諸島中国漁船衝突事件において、中国がスマホやハイブリッド車のモーターなどに使われるレアアースに輸入規制をかけ、外交に利用したことも記憶に新しい事件です。

インフレに関するデマとネガティブキャンペーンに騙されるな

さて、インフレには“良いインフレ”と“悪いインフレ”の二つがあることはお解りいただけたかと思いますが、前回の記事で述べたように、これは労働者としてモノやサービスの生産・提供に従事し、得た賃金で生活する“生産者・消費者両側面の視点”で物価を見なければならない、私たち多数派の庶民から見た視点で言えることです。

資産家やグローバル企業など、国内の物価を“消費者の目線”でしか物価を見ない人々から見ると、良いインフレも悪いインフレもなく、“インフレ=悪”と言うことになってしまいます。

世に流布しているインフレに関する言説には、この良いインフレと悪いインフレを混同して“インフレ=悪”と断じるデマやネガティブキャンペーンが、非常に多く見られます。

インフレには、その原因によって「良いインフレ」と「悪いインフレ」がある、という認識を持ち、こうしたデマやネガティブキャンペーンに踊らされないように、注意する必要があるのです。

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