最近ネットでもテレビでも、自称保守の有識者や、自称保守を名乗るブログが大量に存在します。Twitterでも自称保守のアカウントは、大概は日の丸かアニメアイコンだったりするのはなぜでしょう。
彼らは本当に、保守思想を理解して保守と名乗っているのでしょうか? 結論から申し上げると”否”であることがほとんどです。
保守思想を知らずに、保守を名乗る人が多いことを、私は「保守のアイコン化」と呼んでいます。
保守思想の基礎の基礎、根底部分をできるだけ平易に解説したいと思います。
保守思想の3大要素を知っていますか?
保守思想には絶対に欠かせない3大要素があると、私は理解しています。それはなにか?
「えっ? えーっと……伝統、文化、愛国心?」
完全に外れではないですけど、当たりでもありません。
- プラグマティズム
- 社会有機体論
- 漸進的姿勢
上記の3つになります。それぞれ、簡潔に解説していきます。
プラグマティズムとは?
日本語では実用主義などと訳されますが、実践主義という訳があっているように思います。
例えばあなたが起業するとしましょう。その場合に役に立つのは、合理的な理性で導き出した業務形態でしょうか? それとも経験から得ているノウハウでしょうか?
私は自営業をしていますが、基本的にはノウハウのほうが役に立ちます。喫茶店でアルバイトをしたこともないのに、喫茶店が立ち上げられるでしょうか?
立ち上げ自体はお金さえあれば可能です。しかし持続するとなると、ノウハウの積み重ねが必要になります。
個人でいえばノウハウの積み重ねとは経験です。では国家でいえば? それは伝統や、日本に根づく慣習や習俗などの常識と呼ばれるものです。
理性は必ずしも万能ではないし、人間は理性だけで行動するわけではありません。
理性は全てに届くわけではない、と考えるのがプラグマティズムです。
社会有機体論とは?
新古典派経済学や新自由主義は、社会を静的なものとみなします。機械論哲学や唯物論のような価値観です。古典力学とも似ています。
一方で保守思想やケインズ経済学の系譜では、社会は動的なものとみなされます。複雑系に気象学や量子力学にも似ています。
社会は動的なもの=有機体である、1つの森や山のようなものだ、とみなすのが社会有機体論です。
複雑であるがゆえに、バタフライエフェクトだって起こらないとは限らない=理性だけでは測れない、というわけです。
漸進的行動
漸進的とは「物事を進めてみて、ダメだったら取り消して反省する」というような行動原理です。PDCAサイクルとも似た発想です。
理性が万能でない以上、計画しても上手くいかないことだってあります。その場合、うまくいかなかったという評価を下し、どうすればうまくいくのか? を考えねばなりません。
そして政治は1つの失敗が、数万人以上に影響を及ぼすことはザラです。
したがって何かを変える際には、非常に慎重になるのが保守思想の特徴です。
解決主義、改革主義、新自由主義が保守と呼べないわけ
保守思想では、すべての物事が解決できるというような態度を取りません。なぜなら、理性は万能ではないからです。
現実には、処方箋のない問題も多く存在するのです。
つまり理性によって「これは解決できる”はず”」という解決主義、改革主義に対して保守は警戒します。
実際に失われた20年は勇ましい改革の連続でした。しかし状況は良くなるどころか、悪化しているではありませんか!
利口な者たちがあれこれと、改善案を実行した結果、悪化したのです。
新自由主義も保守思想では、考えられない選択肢です。なぜなら、新自由主義はまさに、改革主義の権化なのですから。規制緩和、構造改革、小さな政府を世界は選択しました。
その結果は経済学者が”大停滞”とよぶ、世界経済の成長率の鈍化でした。
そこそこ上手くいっていたシステムを、主流派経済学という理性で変えた結果がこの有様です。
勇ましいことが保守の条件ではない
毎日、目まぐるしくあなたの仕事が変わったら、あなたはどう思うでしょう? おそらくしんどくなるでしょう。
いつもの日常を大切にするのが、保守的ということであり、保守思想の原点です。
一見すると、ダイナミックな生き方をしている成功した起業家に比して、地味と思うでしょう。新鮮味もないでしょう。
保守思想とは「新たに得られる喜び」より「失くしてしまう悲しみ」に重点を置いているといえます。
ネット上でもメディアでも、自称保守は勇ましいことこの上ありません。マッチョな議論をしています。しかし保守思想とは本来、「失くさないための配慮の思想」であり、どちらかというと女性的な思想でもあります。
端的に表現すれば、専業主婦のお母さん、でしょうか。
ナショナリズムのほんとうの意味
保守思想では共同体を大切にします。共同体の最小単位は家庭、最大単位は国家となります。
なぜ共同体を大事にするのか? 続いてきたものであり、歴史があるからです。
歴史があるということは、その制度が過去のどの時代にも受け入れられてきた、ということです。それをいち時代の、多少の人間の理性のみで変えてよいはずがない、というわけです。
ナショナリズムというと、日本では国家主義と訳されます。なにか危険なもののようにいわれることも、しばしばあります。
しかし国家とは共同体です。であればナショナリズムは、共同体主義と訳するのが適当かと思います。
保守のほんとうの意味
実践主義で伝統や慣習といった「共同体内のノウハウ(経験)」を重視し、社会有機体論で動的に世界を捉え、改善するときには畏れをもって漸進的に進める。
これが保守思想の根幹かと思います。
一方でネットやメディアで先鋭化する自称保守たちに、上記のような態度が見られるでしょうか? 見当たらない、としか申し上げられません。
本日はいささか、簡単に解説しました。より深く保守ってなんだろう? と思われた方は、拙ブログの以下の記事をご参照ください。