およそ政策を立案する際に肝心なのは、
①現実を直視すること
②そこに山積する問題や課題の原因を的確に把握すること
③問題や課題をスピーディーに解決できる方法を選択し実行すること
という点です。
そこに私情や好き嫌いが入る余地はありません。
我が国を30年近くも苦しめてきた平成・令和大不況は、緊縮経済や資本・生産拠点の国外逃避等がもたらした『極度の需要不足』に起因するのは明白ですから、それを克服するためには弱体化するに任せてきた需要を再び強靭化させねばなりません。
とは言え、国民の誰もが長期の所得停滞や貯蓄不足に見舞われており、政府が「さぁ、みんなでカネを使おう!」とけしかけても、無い袖は振れません。
需要を過熱させ、消費や投資を勃興させるには、大元となる「所得(貨幣)」を国民全員の懐に十分捻じ込んでやる必要があります。
無い袖が振れぬなら、思い切り振れるだけの袖を与えてやればよいのです。
緊縮脳や構造改悪がお好きな論者の中には、日本の長期不況の原因を“生産性の低下”に求める意見も目立ちますが、はっきり言ってジャンクです。
大量生産・大量消費時代が終わりを告げたと言われる現代において、「生産性」とは、生産量/生産要素投入量ではなく、収益力/生産要素投入量という尺度で測るべきです。
生産・供給したモノやサービスが造った分だけすべて売れる時代なら、労働・時間単位の生産量で評価しても構いませんが、平成・令和大不況下のように需要がシュリンクして、モノやサービスの余剰体質が常態化し、そもそも大量生産の意味を為さない時代においては、効率よく大量に生産・供給することの優位性は失われてしまいます。
生産性向上や現場改善、QC活動云々といった効率的な大量生産方式が陽の目を見るためには、高度成長により需要や商機が溢れ返り、いかに素早くそれらを拾えるか、いかに生産コストを下げ競合優位性を保てるか、といった尺度で評価できる世の中でなければなりません。
「生産性が低下したから不況になった」なんてのは因果関係をまったく理解できないジャンク論者の妄想です。
「需要不足型の不況下で少ないパイを皆で食い合うから安値競争から抜け出せず、いくら頑張っても、いつまで経っても生産性が上がらない」というのが現実であり、真実なのです。
さて、近頃では珍しく“インフレ”の話題が飛び交うアメリカですが、個人消費を起点とする需要の大喚起策として継続型給付金(BI)が議論されています。
現実を直視する冷静な分析力。
このスピード感。
議論のボールを大遠投する度量。
国民の生活をもっと豊かにしたいという熱気と熱量。
いやはや、いまだに需要不足を置き去りにした“生産性信仰”から抜け出せない我が国の周回遅れぶりとは埋めがたいほどの差がありますね…。
『コロナ対策の現金給付はベーシックインカムへの道筋となるか』
「米国ではこれまで、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた景気刺激策として、現金給付が3回実施された。もしかしたら今後は、「現金給付」が毎月実施される時代が到来するのだろうか。
米誌『ワシントン・ポスト』の経済記者ジェフ・スタイン(Jeff Stein)がツイートしたように、米政府が景気刺激策として支給した現金給付は、次のような経済的好影響をもたらした。
・食料が不足している世帯:42%減
・経済不安を感じている世帯:43%減
・不安とうつの症状がある人:20%減
このツイートに、米連邦下院議員のイルハン・オマル(民主党・ミネソタ州選出)が反応し、3回の現金給付による成果は、「ユニバーサル・ベーシックインカム(UBI)」実施に向けたケーススタディになるとツイートした。
オマルは、パンデミックが終息するまでは米国民に毎月2000ドルの現金を給付すべきだと訴えてきた。今回のツイートではその点に触れていないが、2月のツイートでは以下のように述べている。
「パンデミックが終息するまで、毎月2000ドルの現金を支給する必要がある。私は、ティム・ライアン(下院議員、民主党)、マイケル・タブス(カリフォルニア州ストックトン市長)、ステファニー・ボーニン(Stephanie Bonin、毎月の現金給付を求めて署名活動を行った飲食店オーナー)、ナタリー・フォスター(Natalie Foster、Economic Security Project共同創業者)とともに、経済が完全に回復するまで米国民に2000ドルを給付するよう訴えたい」
オマルは2021年1月、ほかの民主党議員55人と連名で米大統領ジョー・バイデンに書簡を送り、毎月2000ドルの現金を支給するよう強く求めた。「一時的に2000ドルを配ったところで、どう考えても十分ではない」とオマルは述べた。「米国民は私たちに大変革を期待している。私たちはそれに応えるべく、毎月2000ドルを支給しなくてはならない」(略)」
アメリカのGDPは、昨年こそコロナ禍で躓いたものの、今年に入ってから再び力強い成長を見せ2021年のGDPは$22675billionと、ここ20年余りで2.2倍に拡大しています。
これは日本に例えると、今年のGDPが1177兆円に拡大するのと同じですから、アメリカの著しい成長ぶりが窺えますね。(本来、このくらいのペースで成長するのが当然なんですが…)
これだけ巡航速度で成長を遂げてきたアメリカでさえ、コロナ禍で負った内需欠損の傷を癒すために、国民に3回の現金給付を通じて、すでに9000億ドル超のカネをバラ撒いてきたのに、さらにこれを継続型にチェンジし、本格的なBI導入に踏み切るべきか?という議論に着手しています。
さらに、上記記事では、2020年米大統領民主党予備選に出馬したアンドリュー・ヤンが公約に掲げたBI論が紹介されています。
その内容は、
「毎月(しかも死ぬまで)のベーシックインカム支給であり、新型コロナウイルスの感染拡大や、何らかの経済危機と関係したものではない。「自由の配当(Freedom Dividend)」と称したヤンの計画は次のようなものだった。
・18歳以上のすべての米国民に、毎月1000ドル(年1万2000ドル)を支給する。
・受給資格は設けない。
・この給付金は政府が保証するもので、生涯支払われる。」
といったものですが、“毎月1000ドル&受給者に制限なし&生涯支給”というスケールの大きさは想像を遥かに超えており、我が国に跋扈する維新の連中や、BI嫌悪症のMMTerが聞いたら、青筋立てて激おこ必至の代物でしょうね。
「30年不況+社保負担増+消費増税+コロナ禍による需要の大シュリンク」という四重苦が積み重なり、不況脱却の僅かな糸口すら見えぬ日本経済や国民生活を救うためには、お行儀のよい弥縫策をいくら議論してもまったく無意味であり、誰もがアッと驚くような大胆かつ驚愕に値する思い切った積極財政策を提言せねばなりません。
いまこそ議論のボールを大遠投する勇気が必要です。
たとえそれが暴投であっても、仲間内でキャッキャしてダラダラと幇間稽古みたいな山なりのキャッチボールをやるより数百倍マシだと思います。
我が国のBI議論は、まだまだ緒に就いたばかりで、維新発の既存の社保制度解体と引き替えの筋悪なエセBI論が先行し、それを理由にBIに係る議論そのものを放棄・封印しようとする間抜けなBI嫌悪論が沸き起こるという、真に嘆かわしい状況です。
反緊縮派を称する一部の論者は、BIを指して、
「BIは社会保障を売り飛ばすための重要な布石であり、低賃金労働を構造化するための定礎になる」
「BIは財政政策の余地を無くすという実害に加えて究極のネオリベ政策だ」
「中央銀行に通貨を発行させて全住民の個人口座に振り込めば、政府そのものを民営化して解体し廃止できる。BIは国家をバラバラな個人に解体する極左革命運動だ」
などと妄想全開の批判を繰り返していますが、アメリカで本格的BI導入を試みるリアリストと見比べると、目を覆わんばかりの大きな落差に暗澹たる思いがします。
まさに「貧すれば鈍する」を地で行くというか、経済の貧困化は発想の貧困化に直結するものだとまざまざと思い知らされますね。
・別に社会保障を売り飛ばさずともBIは導入できるし、そうせねばならない
・BIは国民所得を名実ともに引き上げる政策であり、低賃金労働の改善に即効性がある
・BIであれ、消費税廃止であれ、公共投資であれ、それらが財政政策の余地をなくすことなどあり得ない
・国民が欲するBIを禁じ、JGPなる官製最賃労働の押し付けこそが「低賃金労働の構造化」であり「究極のネオリベ政策」だろう
・「BI=政府の民営化&政府解体」なる図式は統失の妄想か幻覚でしかない
まぁ、BI嫌悪が目的化し、既に信仰の域に達している頭の悪い連中に何を言っても無駄でしょうが、リアリズムを忘れ、私情や好き嫌い最優先でモノを考えがちな狂信者の言葉は、常に空虚で、苦境の渕に沈む国民生活を救おうとする熱意がまったく感じられません。
彼らには『経世済民』とは何か?ということを、改めて噛みしめてもらいたいですね。
そもそも、社会保障なんて無きに等しいアメリカと日本では、全く事情が異なる件
国民の収入が名実ともに減り続けるこの国において、いまだにBIに怯える小心ぶりは嘲笑に値します。
国民の懐を増やす政策に嫌悪感を抱く輩は、早々に”反緊縮”の旗印を降ろし、ネオリベの靴を舐める用意でもすべきだと思いますよ。