最近、ロシアの侵略戦争に端を発する国防費増額や、食料品やエネルギー価格の高騰に伴う国民の困窮から、財政支出拡大や減税、給付金などを求める声が大きくなり、積極財政に対する世論の警戒心が弛み、これまでの緊縮思想一辺倒からやや風向きが変わりつつあります。
こうした地殻変動を敏感に察知したのか、増税緊縮派の連中はあちこちで財政破綻論や増税不可避論を振り撒き、世論の引き締めに奔走しているようですね。
早速、増税緊縮論や構造改悪論の巣窟である「言論プラットフォーム アゴラ」で、増税緊縮派の御大である池田氏が、政府債務を早急に削減すべしと吠えています。
『統合政府は540兆円の「債務超過」』(池田信夫)
池田氏は上記にご紹介したコラムで、高橋洋一氏が示した政府と日銀との連結B/Sを批判的に採り上げ、次のように主張しています。(※高橋氏のB/Sほかの図表はURLから直接ご確認ください)
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「本物の財務省の連結財務諸表では、資産が1121兆円なのに対して、負債は1661兆円。政府(一般会計+特別会計)は、540兆円の債務超過なのだ。」
「政府が債務超過になるのは大した問題ではない。ほとんどの国の財政は赤字だが、資金繰りには困らない。国債が消化できなくなくなったら増税すればいい。」
「今ではマネタリーベースの内訳は、日銀券120兆円に対して日銀当座預金が562兆円で、これが債務超過540兆円に対応する。その金利は今はマイナス0.1%だが、1%上がると毎年5.6兆円で、日銀は2年で債務超過になる。」
「日本人は政府を過剰に信頼しているから、このように大きな借金があっても、そのうち何とかなるだろうと思っている。これまで20年間、政府債務が膨張しても国債が暴落しなかったのは、このような政府への信頼でゼロ金利が続いたからだ。」
「膨大な政府債務は、その債務危機を増幅する。まず量的緩和をやめ、政府債務を削減する必要がある。」
いやはや、いかにも池田氏らしい言いぐさですね。
要は、
・日銀が保有する540兆円の国債は紙くず同然なんだから、統合政府(政府+日銀)はその分だけ債務超過なんだよっ!
・国債消化が困難になったら、躊躇せず増税しろ!
・日銀当座預金の金利が上がると日銀が債務超過に陥る!
・国債が暴落しなかったのは“(合理的な根拠は何一つないけど)日本人の政府に対する過剰な信頼感”によるものだ!
・いますぐ政府債務を減らして財政赤字を解消しろ!
ということなんでしょうが、この手の妄想はいい加減に聞き飽きました。
なにせ、彼らの論拠や言い分は、積極財政派の論者から散々論破され尽くされたものですが、積極財政論を親の仇以上に忌み嫌う彼らにとっては、いまさら積極財政論の前に頭を垂れるわけにもいかず、何度言い負かされても懲りずに持論を繰り返すしかないのでしょう。
私自身は、そもそも、通貨発行権を唯一所有する政府や、統合政府の一発券機関でしかない日銀にB/Sの概念を適用する発想自体が笑止千万な愚行であり、まったく無意味でしかないとい立場です。
B/Sなんてものは、民間企業や団体の財務状況を金銭的に把握するための指標ですから、その基準となる貨幣(=円)の創造主たる政府(日銀含む)に対して“財務諸表”の概念を当てはめようとすること自体が児戯にも等しい無意味な行為でしょう。
さて、増税緊縮派の面々は、財政支出の拡大や日本の国富増大を忌み嫌う立場から、何とか財出に箍を嵌めようと必死になり、あれこれと愚にもつかない屁理屈を持ち出すのが常です。
池田氏の駄文も、積極財政派の攻撃により合理的な論拠を失った増税緊縮派の悪足掻きというか、危機感が溢れる内容ですね。
彼が示す統合政府の負債額1661兆円のうち、太宗を占めるのは「政府短期証券93兆円」と「公債987兆円」ですが、そもそも国債はすべて円建てで発行されており、世界で唯一「円」という通貨の発行権を有する政府の償還リスクはゼロ未満です。
池田氏は認めたくないようですが、円を発行できる日本政府が、円建て債務の償還財源に困る事態なんて存在しません。
これは積極財政派の妄想ではなく、広く一般常識として通用する事実であり、現にエコノミストの論文にもはっきり明示されています。
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「自国通貨の発行権限は政府と中央銀行にあるので、政府に自国通貨が足りくなるということはありえない。一方、外国通貨建国債と共通通貨建国債は政府や中央銀行に外国通貨や共通通貨の発行権限がないため、返済資金が足りなくなるということはありえる。したがって、国債の償還ができなくなるという事態は、外国通貨建国債・共通通貨建国債を発行した場合しかありえないことになる。」
(日医総研リサーチエッセイ No. 104~『国債発行はどの程度まで可能なのか―社会保障との関連として―』(原祐一)より)
https://www.jmari.med.or.jp/download/RE104.pdf従って、統合政府は540兆円の債務超過だ、という池田氏の言い分は論拠ゼロのデタラメに過ぎません。
B/S上で負債勘定に計上されていても、円による償還で片が付くものであれば、円の無限発行権を持つ政府の性質上、その債務性はゼロカウントすべきです。(だから、政府や日銀のB/Sを作ること自体が無意味だと言ったのです…)
また、池田氏は国債が消化できない事態なれば国民に増税を課せばよい、といった趣旨の発言をしていますが、これはトンデモナイ暴論です。
彼にしろ、彼が批判する高橋氏にしろ、「徴税権や将来の税収」とやらを政府の資産に計上したがりますが、「歳入=税金」、「歳出=税収の範囲内」という小学生レベルの短絡的な発想から抜けきれないところが、増税緊縮派やリフレ派の限界なんでしょうね。
税というものは、特定の物品やサービスの普及を抑制するための懲罰的措置でしかなく、歳入のアテとしてカウントすること自体が間違っていますし、ましてや歳入の主軸に据えるなど以ての外です。
民間経済から税を取り立てれば、それだけ実体経済から購買力が奪われますし、民間経済主体が将来の増税を予想して徴税額以上に消費を抑制する“負の経済効果”による経済被害も甚大です。
徴税権を政府の資産として計上するなんて、実体経済の仕組みを解さぬ愚か者の所業でしかありません。
さらに、池田氏は、562兆円ある日銀当座預金の金利が1%上がると毎年5.6兆円で日銀は2年で債務超過になる、とバカなことを言っていますね。
日銀当座預金は「プラス金利・ゼロ金利・マイナス金利」の3階層に分かれていますが、日銀に限らず市中の金融機関では、インフレ云々に関わりなく、「当座預金=ゼロ金利」というのが常識です(ゼロ金利以外を適用する日銀の方が異常)から、すべてゼロ金利を適用するという常識に立ち返れば済む話でしょう。
彼は、日本国債が暴落しなかったのは国民が政府を頑なに信用している所為であり、インフレが加速する今後はそれが続くはずがない、という趣旨の主張を展開していますが、いつも政府に対して文句ばかり言ってる国民が政府を過剰に信用しているなんて、いったいその論拠はどこにあるんでしょうかね?
ちなみに、エデルマン・ジャパン社が世界11か国で行った自国の政府に対する信頼度愛の調査を行ったところ、日本の信頼度は38%(前回比▲5%Pt)で最下位という結果でした。
アレっ?たしか日本国民は、増税緊縮派が呆れるほど過剰に政府を信用しているんじゃなかったんですかね???
池田氏は、「膨大な政府債務は、その債務危機を増幅する。まず量的緩和をやめ、政府債務を削減する必要がある」と息巻いていますが、膨大な政府債務とやらは、裏を返せば“膨大な民間経済主体の資産”に過ぎませんから、それを無理矢理減らす必要はありません。
国債を減らせと叫ぶのは、「国民や企業の資産を減らせ」と言うのと同義ですからね。
池田氏は、相変わらず幼稚な財政再建ごっこにお熱なようですが、抜け穴だらけの財政破綻論や増税緊縮論を騙れば騙るだけ、自身の無知や不明を晒すだけです。
そもそも貨幣自体が統合政府の負債なんで政府が債務超過でないと国民が困るわけですよね。いまこそ積極財政を実行して赤字を拡大しろ!財政赤字こそ上等なのであります。
政府が債務超過でないと国民の資産が増えないというのは、仰るとおりです。
ただし、貨幣は統合政府の負債ではなく、国民共有の資産であると理解しています。
貨幣が国民共有の資産だとすると、例えばうずらさんの財布の中身を私が勝手に使っても全然問題無いことになりませんか?
また、たとえ政府が増税で国民から貨幣を召し上げまくったとしても、政府もこめた共有の資産であるとするなら、誰も文句の付けようがないのでは?(私は増税に反対ですが。)
政府にとっての貨幣は、バランスシート上の勘定科目で語るべきものではないという考えです。
他者の資産を勝手に盗むのは窃盗ですので、ご呈示のあった例えは適当ではありません。
返信ありがとうございます。
>政府にとっての貨幣は、バランスシート上の勘定科目で語るべきものではないという考えです。<
私はここでバランスシートの話をしているつもりは全く無いです。
>他者の資産を勝手に盗むのは窃盗ですので、ご呈示のあった例えは適当ではありません。<
むしろ誰にでも判りやすい、身近な例を提示したつもりです。もし仮に貨幣を「国民共有の資産」とするならば、日本国民の1人として私もうずらさんと財布の中身を共有している事になりますよね。幾らなんでも「他者の資産」を「国民共有の資産」と言い切るのは無理ですし、言葉を素直に解釈すれば、個人の財産権を否定する意味に受け取られてしまう可能性が高いと思います。
ご返信ありがとうございます。
国民共有の資産という表現は、「貨幣=負債」という妄想を断ち切るための比喩であり、所有者の消費欲を満たし国内の供給力に養分を与える貨幣の本質は、国民の誰にとっても資産であると説明するためのものです。
表現に対する受け取り方は人それぞれですので、当方の想像を超えた意味に解する方もいらっしゃるでしょうが、それはそれで致し方ありませんね。