プライマリーバランスの黒字化には意味がない。
これが本日の結論です。
日本は小泉政権の時代にプライマリーバランス黒字化を掲げました。
報道によれば、2025年にプライマリーバランスの黒字化が達成される見通しとのこと。
多くの国民が一般常識として、プライマリーバランスの黒字化が必要だと思っています。
しかし、理論的にプライマリーバランスの黒字化に意味はありません。
なぜ、プライマリーバランスの黒字化に意味がないのか?
今回の記事では、基本の「き」から解説します。
プライマリーバランスとは?
プライマリーバランス(Primary balance)とは、日本語で基礎的財政収支のことです。
「Primary」が「基礎的」と訳せます。
プライマリーバランスとは、財務省によれば「政策経費を税収でまかなえるかどうか示す指標」です。
政策経費とは行政サービスにかかる費用のこと。
プライマリーバランスは、政策経費より税収が多いと黒字になり、税収が少ないと赤字になります。
国家経営と企業経営が異なるポイント
企業経営において、収支の赤字は深刻な事態です。
しかし、国家経営では異なります。
自国通貨建て国債を発行している政府にとって、プライマリーバランスは意味がない指標です。
国家経営と企業経営の違いと、その補足を解説します。
政府の通貨発行権
一般的な政府には通貨発行権があります。
通貨発行権とは、読んで字のごとく貨幣を増刷する権利です。
一方、企業には通貨発行権がありません。
通貨発行権の有無が、国家と企業の大きな違いです。
企業は通貨発行権がないので、収支の赤字を防がなければなりません。
赤字を垂れ流していると、いずれ利払いや債務の返済で首が回らなくなります。
ところが、国家経営の場合は当てはまりません。
利払いや返済は、通貨の増刷でまかなえばよいからです。
なお、通貨の増刷と国債発行はほぼ同義となります。
長期金利の低下
「そんなバカな! 国だって借金を増やしていいはずがない!」と思うかもしれません。
では、市場はどのように判断しているでしょうか。
通常、企業が過剰債務を抱えた場合、企業の社債には高い金利が設定されます。
返済できないリスクがあるからです。
返済できないリスクが高いと、利息は高くなります。
ところが、現在の国債の長期金利は0.1%です。
市場は国債の返済リスクがないと判断していることになります。
なぜか? 政府に通貨発行権があるからです。
共通通貨ユーロと金融主権
国家経営と企業経営は異なると解説しましたが、例外もあります。
EUです。
EUは共通通貨ユーロを発行しています。
ユーロはECBによって発行されており、ECBは国家からほぼ独立しています。
したがって、EUのユーロ使用国には金融主権がありません。
だから、EUは国債発行に制限をかけています。
金融主権のないEU諸国の運営は、ある意味で企業経営に近いのです。
財政問題は存在せず、プライマリーバランス黒字化に意味はない
日本の国債は100%、自国通貨建て国債です。
通貨発行権のある政府にとって、自国通貨建て国債でデフォルトすることはあり得ません。
日本に財政問題は存在しないのです。
財政問題が存在せず、プライマリーバランスが意味のない指標であることを解説します。
自国通貨建て国債を制約するのはインフレだけ
通貨発行権を持つ国家にとって、自国通貨建て国債はいくらでも発行できます。
インフレさえ無視すれば――ですが。
通貨発行権を持つ国家の自国通貨建て国債とは、ソシャゲのポイントのようなものです。
ソシャゲの運営がいくらポイントを発行しても、そのポイントで倒産するなんてことはあり得ません。
したがって、自国通貨建て国債である限り、プライマリーバランス指標は意味がないのです。
プライマリーバランス指標とは単なる数字。
それ以上の意味はありません。
なお、国債を発行して積極財政を進めると需要が大きくなります。
需要が過多になるとインフレが昂進し、いずれは過剰インフレが起こることに。
よって、国債発行はインフレに制約されます。
国債は増え続けるもの
いくらプライマリーバランスを守ろうとしても、国債は増え続けるものです。
一説によれば、明治の頃の国債残高は3000万円だったそう。
※2200万円との説もあり
現在の国債は1000兆円を超えていますから、300万倍以上に増えています。
ここまで古くなくとも、ほかにも例があります。
アメリカの政府総債務残高(国+地方)は2001年に5兆6000億ドルでした。
2021年には30兆5000億ドルに達しています。
わずか20年間で、なんとほぼ6倍に膨れ上がりました。
明治と現在の日本、2001年と2021年のアメリカの両例を見れば、プライマリーバランスに意味がないのは一目瞭然です。
無税国家が実現しない理由
「自国通貨建て国債がいくらでも発行できるなら、無税国家だってできるはず!」といった反論があります。
しかし、無税国家は2つの点で実現不可能です。
- インフレ制約
- 租税貨幣論
まず、徴税や緊縮財政はインフレ対策です。
増税すれば可処分所得が減り、個人消費が減少してデフレ圧力となります。
税をなくすとデフレ圧力が減少し、過剰なインフレになる恐れがあります。
次に、租税貨幣論です。
租税貨幣論とは「徴税という国家権力の行使によって、貨幣は通貨として通用している」という理論です。
通貨とは「法定流通貨幣」の略称で、国内のどこでも通用する貨幣を指します。
通貨を通貨たらしめているのは、徴税という国家権力の行使である。
これが租税貨幣論の概要です。
つまり、徴税をやめて無税国家にすると、通貨が通貨として機能しなくなるというわけ。
プライマリーバランス指標も意味ないですが、無税国家論も意味がありません。
プライマリーバランス黒字化なんて意味ない
通貨発行権を持つ国家にとって、自国通貨建て国債とはソシャゲのポイントと一緒。
運営がいくらポイントを発行しても、倒産するわけがありません。
ただし、ポイントをばらまきすぎるとインフレし、ポイントの意味が失われます。
実際に長期金利は0.1%で、市場は国債を「返済リスクなし」と考えています。
また、上述したとおり、どこの国家でも国債残高は増え続けています。
プライマリーバランスを守り続けている国家などありません。
企業経営では赤字にならないことが重要ですが、国家経営ではプライマリーバランス指標には意味がないのです。
プライマリーバランスの黒字化議論は無意味。
なぜ、こんな無意味な政策に血道を上げているのか理解に苦しみます。
まとめ
プライマリーバランスとは、政策経費と税収のバランスです。
それ以上の意味がないことは上述してきました。
なぜなら、企業経営と異なり、国家には通貨発行権があります。
自国通貨建て国債はデフォルトの恐れがなく、国債発行を制約するのはインフレのみです。
その証拠に、市場では国債金利が0.1%です。
市場は国債が返済できないリスクを「ほぼゼロ」と見積もっています。
諸外国の例を見ても、国債は増え続けるものです。
プライマリーバランスを長期的に守っている国家などありません。
プライマリーバランスの黒字化は意味がないどころか、デフレ圧力となり有害です。
プライマリーバランスの凍結が求められます。
・_・。)._.。)
お邪魔致しますです。
ビルトインスタビライザー痕跡かなって思ったです。
(。ー_ー。)ノ MMTは脇において。
(。・_・。)ノ 自然に税収が増えたら、経済は好調と言えそうです。その増えた税収で国債返済で貨幣を消滅させたら、バランスが取れてる状態になりそーです。
そんな感じで制度説計されてるんじゃないか?って思ったです。
(。ー_ー。)ノ MMTのレンズを通せば、大間違いでしかないんだけど。
「プライマリーバランスの黒字化(政府負債の縮小)=民間負債の拡大」
上記になるので、PBが黒字化すると金融危機が頻発する説があります。
黒字化はあまり望ましいことではないような。
個人的な所感ですが、国債を発行して政府支出を行う際の制約には、インフレ率の他に予算の未執行額の増加があるように思われます。
東日本大震災の際に復興に係るインフラ工事を発注しても対応できる事業者がいなくて予算の未執行が生じてしまった例などが典型です。
政府が支出をしようとしても、民間事業者の供給能力がないために支出(=貨幣供給)出来ない事例も考えられます。
政府の支出制約を考える際はインフレ率だけでなく、その時点の供給能力も勘案すべきと思いますがいかがでしょうか。
予算の未執行が一分野の場合、それ以外の分野では支出拡大が可能です。
例:公共事業は拡大できないが、社会保障は拡大できる
だから、全体の制約にしてしまうのはちょっとどうなのかなぁと思います。
もちろん、勘案すべきだとは思いますが。