いま話題の高圧経済とは?意味や定義、問題点について解説

この記事は約5分で読めます。

 アメリカのイエレン財務長官は高圧経済を提唱しています。
 実際にアメリカでは、200兆円に及ぶ財政出動が行われました。

 アメリカでは高圧経済が盛んに議論されています。
 ところが、日本においてはあまり議論が進んでいません。
 日本の記事やニュースでは、高圧経済の解説がほとんどありません。

 いま話題になっている高圧経済とはなんなのか?
 今回の記事では、高圧経済の定義や意味、歴史、メリットなどについてわかりやすく解説します。

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高圧経済の定義とは?

 高圧経済は英語で「High-pressure economy」です。
 いま話題の高圧経済の定義とはなんでしょうか? 箇条書きで整理しましょう。

  1. 供給力を超える需要圧力をかけ続ける
  2. 財政政策と金融政策のポリシーミックス
  3. 負の履歴効果(ヒステリシス:hysteresis)の解消が目的

 上記3つの条件が高圧経済の定義です。

 高圧経済の「高圧」とは、タイトな需要で供給に圧力をかけることです。
 そのための手法が財政政策と金融政策のポリシーミックスとなります。

 ポリシーミックスとは経済用語で、2つ以上の政策を複合的に用いることです。

 そして、高圧経済は負の履歴効果を解消し、超克するために必要とされます。

負の履歴効果

 履歴効果とは経済用語で、経済の状態が変化して元に戻ったとき、必ずしもすべてが元通りになるわけではないことを指します。

 たとえば、2008年のリーマンショックが起こり、多くの企業が投資を控えました。
 リーマンショックが収まった後も、民間企業は投資を活発化させず、需要は元に戻り切りませんでした。
 これが負の履歴効果です。

 リーマンショック後は、負の履歴効果によって長期停滞と呼ばれる低成長期が訪れます。
 高圧経済は、こういった金融危機による停滞を打破することが目的です。

 なお、日本のデフレも負の履歴効果をもたらしていると考えられます。

高圧経済の歴史

 高圧経済は意外なことに、古い歴史を持ちます。

 1950年代にアメリカの政治家、ヘンリー・ウォーリックによって高圧経済は提唱されました。
 ウォーリックによれば、経済には高圧経済と低圧経済があります。

 ウォーリックは必ずしも高圧経済を推奨したわけではありません。
 むしろ、彼はインフレ抑制論者として知られています。

 その後、高圧経済はアメリカの経済学者、アーサー・オークンによって広められます。
 オークンは、労働市場の弱い立場の人々である女性や若者に、高圧経済が恩恵をもたらすと主張。
 また、高圧経済により経済全体の生産性が高まるとも考えました。

 「経済成長率が上がると失業率が下がる相関」はオークンの法則と呼ばれます。

 1970年代、オイルショックによりスタグフレーションが起こると、オークンの主張は忘れ去られていきました。

高圧経済のメリット・デメリット

 高圧経済のメリット・デメリットについて考えます。

格差解消に役立つ

 高圧経済では、完全雇用を達成してもなおタイトに需要創出を行います。
 したがって、非正規雇用や若者、女性などの労働市場弱者にとって所得向上のチャンスです。
 完全雇用の達成後、企業は労働力を求めて待遇改善を繰り返します。
 その恩恵は、若者や女性にまで及ぶでしょう。

 したがって、高圧経済は格差解消に役立ちます。

 リーマンショックやコロナ禍は人的資本を毀損させ、生産性や潜在成長率を低下させました。
 高圧経済では人的資本を最大限に活用し、潜在成長率を底上げします。

供給能力が伸びる

 高圧経済ではタイトな需要を通じ、供給力を引き上げます。
 企業は需要に応えるために設備投資や研究開発を通じ、イノベーションを生み出し、供給力を高めるでしょう。

 その結果、高圧経済は需要と供給の増大を繰り返し、経済成長を引き起こします。

インフレが昂進する

 上述した「格差解消に役立つ」「供給能力が伸びる」の2つはメリットですが、高圧経済にはデメリットもあります。

 高圧経済ではインフレが昂進する可能性があります。
 需要がタイトになっても積極財政を続けるのですから、インフレが高止まりする危険性は大きいでしょう。

 しかし、インフレが過剰になれば、政府の予算規模を前年程度に据え置けばよいだけとの指摘もあります。
 政府支出が拡大しなければ、いずれ供給能力が追いつくとのことです。

高圧経済・MMT・リフレ・ケインズ経済学

 高圧経済とMMTやリフレ、ケインズ経済学の違いはなんでしょうか?

 まず、ケインズ経済学とは主流派経済学(新自由主義)と対をなす経済学の思想潮流です。
 主流派経済学が自由市場を重視するのに対し、ケインズ経済学では景気変動への政府介入を認めます。
 政府が経済に介入するかどうかが、ケインズ経済学と新自由主義の大きな違いです。

 リフレ、MMT、高圧経済ともに政府による経済への介入を認めていますので、大きなくくりでケインズ経済学に近いと考えられます。

 その上で、リフレは金融政策によってインフレ目標を達成しようとする主張です。
 高圧経済は金融政策と財政政策のポリシーミックスです。

 MMT(現代貨幣理論)は上記2つとは異なり、貨幣や金融構造を説き明かそうとする理論となります。

日本で高圧経済を実現すべき理由

 日本は四半世紀近くデフレで苦しんでいます。
 デフレの負の履歴効果が積もり積もっており、軽いインフレに戻った程度で経済が正常化するとは限りません。
 実際に日本は、ディスインレフとデフレの間を行ったり来たりしています。

 デフレを完全に脱却するためには、これまでの負の履歴効果を超克する高圧経済が必要です。
 政府支出によってインフレ率が2~3%を超えてもなお、積極財政を持続しなければなりません。

 そうして初めて、負の履歴効果が徐々に解消されて日本経済は正常に戻るでしょう。

 高圧経済を本当に必要としているのは、アメリカではなく日本なのではないでしょうか。

まとめ

 高圧経済とは以下の3つの条件から成り立ちます。

  1. 供給力を超える需要をかけ続ける
  2. 財政政策と金融政策のポリシーミックス
  3. 負の履歴効果(ヒステリシス:hysteresis)の解消が目的

 高圧経済は人的資本を最大活用し、格差を解消に役立ちます。
 潜在成長率を底上げし、供給力を伸ばし、力強く経済成長を促すでしょう。

 一方、高圧経済でインフレが昂進する可能性も無視できません。

 アメリカでは高圧経済が議論され、200兆円の財政出動が行われています。
 しかし、高圧経済が必要なのは、四半世紀に及ぶデフレで負の履歴効果が積もりに積もった日本なのではないでしょうか。

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