安倍政権の実績と自民党積極財政への道

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安倍晋三元総理が藤井聡教授とテレビ番組で対談。自身の政権での経済政策の実績と反省点、そして財政政策の今後について語りました。本稿では積極財政推進の観点から、その発言内容を検証してみます。

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安倍元総理、藤井聡教授と対談

安倍元総理が、テレビ番組で藤井聡教授と対談しました。テーマは主に経済と防衛。

散々に批判された相手との対談に応じる安倍氏は、さすが器が大きいですね。
(まあ、「空虚な器」かもしれませんが……)

もっとも、対談というより、藤井氏は「聞き手」という感じです。
藤井氏には、安倍氏の認識についてもっとツッコんでほしかったとも思いますが、いろいろ事情があるのでしょう。

安倍元総理の語る自身の成果 ①雇用

安倍氏は自身の政権の成果として、賃金所得を増やしたこと、雇用を増やしたことを挙げました。

雇用者報酬の増加

確かに、雇用者報酬の総額は名目、実質ともに増えています。
↓の図を見ると、安倍政権誕生前の平成24年(2012)~平成30年(2018)で、
名目は約13%、実質は約9%増えています。

総雇用者所得・労働分配率(2020年11月版)

就業者数の増加

また、就業者数は安倍政権誕生前の平成24年(2012)~令和元年(2019)で、6280万人⇒6724万人と7%増、有効求人倍率も大いに上がりました。

安倍氏はこれについて、大胆な金融緩和によって円高が是正された効果と述べました。

雇用が増えた原因

しかし現実は違います。

内閣府の白書『日本経済 2018-2019』によれば、

●高齢化によって働き手が不足(生産年齢人口の減少)
●可処分所得の減少~伸び悩み

といったことから、女性・高齢者の比較的低賃金での就業が増加しました。
その結果、雇用が増え、総額の雇用者報酬も増えたのです。

働く人の収入は伸びてない

本来、「高齢化による働き手の不足」という状況は、「労働力の需要>供給」ですから、働く人一人あたりの報酬は大きく増えていくはずです。国民にとっては、所得向上の大チャンスと言えます。

ところが「常用労働者1人平均月間現金給与額」を見ると、実際はほぼ横ばいです。

独立行政法人 労働政策研究・研修機構

世帯当たりで見ても、ほぼ横ばい。
共働き世帯の増えた子供のいる世帯でも、20年以上前、平成8年のピークを超えられていません。

安倍政権が、収入の伸びを邪魔した

これは、財界の「安い労働力がほしい」という要望に乗り、
「女性活躍、女性が輝く社会」「生涯現役」「国境にこだわる時代は終りました」として、
女性・高齢者・外国人という働き手を労働市場に送り込んだせいです。

すなわち、安倍政権が足を引っ張ったということです。

さらに、消費税増税・社会保険料負担増・政府支出抑制といった「緊縮財政」で経済成長を抑制しました。株主利益・配当金を優先して人件費を抑制する、昨今の企業体質もそれに拍車をかけています。

こうして、国民の所得向上は阻害され、貧しいながら働かざるを得ない者が増やされたのです。

安倍氏は、財政出動が力不足であったと反省の弁を述べていました。が、実際には力不足どころか逆噴射でした。猛省して、力強い財政出動/異次元の積極財政に向けて政治力を発揮してもらいたいところです。

安倍元総理の語る自身の成果 ②防衛費増

防衛費は増えた

安倍氏は、自身の政権下で防衛費を大いに増やしたことを述べていました。

確かに、平成24年(2012)4兆7845億円⇒令和2年(2020)5兆2469億円と、約4600億円の増。1割弱の増加です。中国の軍事力増強などの情勢を見るとまだまだ力不足ではあるものの、増えたこと自体は良いでしょう。

また、令和元年度(2019)で高速滑空弾の研究予算に139億円、極超音速ミサイルのエンジン研究に58億円が計上されたのも評価できます。
(参考:文春新書『兵器を買わされる日本』p.47)

国内の研究機関、自衛隊、関連企業でお金が使われ、研究が進められれば、国民経済にも安全保障にも大きなプラスとなります。

アメリカ政府からの購入

一方で、アメリカの対外有償軍事援助(FMS)による兵器購入が拡大されていることには注意すべきです。ステルス戦闘機のF-35や早期警戒機E2Dなどの取得費ですね。防衛装備品の多くをアメリカ政府から買っています。

例えば平成29年度、防衛省による防衛装備品契約額の第1位は、アメリカ政府で3807億円です。2位の三菱重工業の2457億円、3位の川崎重工業の1735億円を大きく引き離しています。
(参考:前掲書 p.23)

確かにアメリカの兵器は強力でしょうが、あまりこれに頼るのは考え物です。国内企業にも大いにお金を使い、防衛産業を発展させるべきでしょう

自衛隊員にもっと多くの予算を

また、これらの最新兵器に支出が偏り、自衛隊員の待遇改善がなおざりになっている懸念もあります。日本戦略研究フォーラム上席研究員グラント・F・ニューシャム氏の次の言は、重要な指摘です。

「日本は戦争のためではなく、ショーのためにハードウェアを購入する。F35戦闘機や無人偵察機グローバルホーク、イージス・ミサイル防衛システムなど、潜在的なライバルをただちに脅かすような、きらびやかな防衛装備品(shiny objects)を好むようだ。日本政府は脅威から自国を守るために必要なものが何か、包括的に評価しないまま、装備品を購入している」
「重要なことは自衛隊員にもっと多くの予算を費やし、日本の軍隊の仕事を尊重しなければいけない。経済的に魅力的な仕事にすることは、防衛能力を向上させ、欠員の補充にもつながる。十分に訓練された隊員なしに、過分なハードウェアは効果的ではない」

前掲書 p.50-51

超積極財政に向って

安倍氏の認識不足

安倍氏が財政出動の不足を認め、矢野論文の矛盾を指摘するのは、政治的にたいへん評価できます。積極財政派にとっては喜ばしいことです。

しかし一方で、安倍氏は消費税増税や移民政策については述べません。自身の「もはや国境や国籍にこだわる時代は過ぎ去りました」発言も正しいと思っているのでしょう。

まったく物足りないところです。我が国が米中に負けぬ成長をし、国民生活を豊かで余裕あるものにするためには、消費税減税や社会保険料負担減、移民政策転換などを行う必要があります。

自民党積極財政派の認識も不足

自民党の積極財政派筆頭とも言える、西田昌司議員ですら、その認識に至っていません。

自身の動画チャンネルで、視聴者からの社保費の国債負担についての質問に回答していましたが、無税国家の話にすり替えています。社会保険を国債で支え、国民負担を減らすという論から目をそらしているようです。

財政政策検討本部で積極財政が議論され、財政破綻論が駆逐されつつあるのは良いですが、まだまだです。自民党内で積極財政論が盛り上がるのは、竹中平蔵氏ら政商や財界の要望に応えている面が大きいのではないかと勘ぐってしまいます。

国民からの大きな圧力が必要

やはり、国民からの財政観の転換、超積極財政への大きな圧力が必要です。
現代貨幣理論(MMT)等によって説明される以下の事実の共有を広げ、与野党問わず超積極財政へ動くよう求めていかねばなりません。

〇自国通貨発行・国債は自国通貨建て・変動相場制の我が国に財政破綻の懸念なし
〇国債発行はすなわち通貨発行、返済するものではない
〇国債発行残高(政府の負債)は増えていくのが正常
〇政府支出を拡大すると、経済が成長し、国民の所得が増える
〇税収の範囲でしか政府支出を行わないことは亡国行為
〇インフレ率の高騰しない範囲で、政府は国債発行により支出を拡大できる

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