「少子高齢化で日本は経済成長しない」「高齢化によって社会保障が大変になる」と囁かれています。
その割に、日本では高齢化社会問題への対応は遅々としています。
「少子化対策!」のスローガンだけが先行し、ほとんど実施されていないのが実情ではないでしょうか。
今回の記事では高齢化社会の問題点や原因、対策について解説します。
くわえて、なぜ日本が対策してこなかったのかについても言及します。
高齢化社会とは
「高齢化社会」という単語には明確な定義がありません。
日本政府では1956年の国連報告書にて、高齢化率が7%を超えた社会を高齢化社会と呼びました。
そのため、現在では高齢化率7%で高齢化社会、14%で高齢社会、21%以上で超高齢社会と呼んでいます。
高齢化率とは、0~14歳の年少人口と15~64歳の生産年齢人口に対し、65歳以上を高齢者人口として割合を算出したものです。
日本の高齢化の現状
日本の人口は2019年時点で1億2617万人です。うち、65歳以上の高齢者人口は3589万人で、総人口に占める高齢化率は28.4%となりました。
65歳以上を男女別に見ると男性が1560万人、女性が2029万人でした。男女比はおよそ3対4となっています。
高齢化率は2045年まで上がり続け、38%で高止まりになると予想されています。
総人口も減少をはじめており、2060年には9000万人ほどになります。
高齢化社会の国際比較
日本は1990年代から急激に高齢化し、現在では世界一の超高齢社会です。
一方、日本ほどではないにしろ、先進国では高齢化が進んでいます。
たとえば、高齢化率ではイタリア22.4%、ドイツ21.2%を筆頭に、フランス19.1%、イギリス17.8%と続きます。
先進地域の高齢化率平均は17.6%で、近い将来に21%を超えて超高齢社会になります。
日本だけがクローズアップされがちですが、高齢化社会問題は先進国共通の問題です。
高齢化社会が進む要因
高齢化が進む要因は2つです。
1つは医療の発展、生活の変化による平均寿命の延伸です。
平均寿命が延びたことによって65歳以上の割合が増えました。
もう1つは少子化です。
少子化の進行によって年少人口が減少したことが高齢化の原因です。
先進国になると高齢者の寿命の延伸、少子化が同時に起こります。
教育費の高騰、晩婚化、子供の生存率の向上といった複合要因によって少子化は引き起こされます。
高齢化による問題
高齢化による問題は大別すると経済と社会保障です。
経済
高齢化は経済にマイナスです。
ですが、マイナスの影響を大きく見積もりすぎることには注意が必要です。
1997年の日本のGDPは543兆円で、2020年は539兆円です。
日本経済はこの四半世紀で停滞していました。
日本ではこの経済停滞の原因を高齢化に結びつける傾向があります。
高齢化が経済に対しマイナス要因であることは確かです。
しかし、高齢化していても経済成長は十分可能です。
たとえば、日本同様高齢化率の高いドイツやイタリアは同時期、GDPが1.5倍になっています。
高齢化が進んでも経済成長している国はあります。
2020年の日本の人口は1億2622万6568人で、2015年から86万8000人減少しました。割合にすると5年間で0.7%です。
人口減少率は1年に0.1%程度です。
したがって、経済がそれ以上成長すればGDPは増加するはずです。
高齢化は経済成長にとってマイナスですが、覆せないほどのマイナスではありません。
日本の四半世紀に及ぶ経済停滞の主因は、経済政策の失敗によるものと考えられます。
高齢化による経済へのマイナスの影響は、過大に見積もるべきではありません。
社会保障
1950年には高齢者1人に対し、12.1人の現役世代がいました。高齢者は56歳以上、現役世代は15歳~64歳のことです。
2015年には高齢者1人に対し、現役世代2.3人となっています。
さらに、2065年には高齢者1人に対し、現役世代が1.3人になると予想されています。
一方、出生数は減少を続け、2065年には56万人になると推計されています。
年少人口は2056年に1000万人を割り込み、2065年には898万人と現在の半分程度になると予想されています。
このため、社会保障の負担がアンバランスになると懸念されています。
供給制約
高齢化率の上昇とともに、生産年齢人口の現象が起きると需給バランスが崩れます。
高齢化社会は供給が小さくなる社会です。
現在の日本はデフレないしデフレギリギリの状態です。
しかし、高齢化社会が進むにつれてデフレの需要<供給の状態はやがて解消され、インフレに転換すると予想されます。
AIなどの大きなブレークスルーがない限り、日本は供給制約に苦慮するかもしれません。
少子高齢化問題への対策
日本の少子高齢化社会問題は1990年を起点としています。
1970年代をピークに合計特殊出生率は減少しはじめます。
しかし、1990年代の合計特殊出生率は1.5程度で下げ止まっていました。
1995年に武村正義元大蔵大臣が財政危機宣言を出します。
その頃から緊縮財政が始まり、2000年以降の合計特殊出生率はジワジワと下げはじめます。
1.5程度で安定していた合計特殊出生率は、2019年に1.36にまで下がりました。
少子高齢化問題は先進国に必ず発生する問題です。
ですが、少子高齢化問題をさらに悪化させたのは経済政策の失敗と考えるべきでしょう。
緊縮財政に舵を切ったことが、少子高齢化を悪化させました。
したがって、少子高齢化対策には積極財政を用いるべきです。
安定した雇用
結婚するには安定した雇用が必要です。
安定した収入が期待できるからこそ、所帯を持つことが考えられます。
さまざまの調査によれば、晩婚化の原因の上位に「経済的理由」が挙げられます。
日本の雇用は不安定化し続けました。
1989年の非正規雇用の割合は20%でしたが、現在では40%にまで増加しています。
一方、1989年の正規雇用は3805万人でしたが、2017年には3423万人と減少しています。
労働者の保護と雇用の安定化こそ少子化対策になります。
雇用の流動化などはもってのほかです。
所得の向上
所得の向上も必要です。
日本の平均年収は1997年の467万3000円から、2019年の436万円へと減少しています。
これも、1990年代を起点とした緊縮財政政策が原因です。
所得が向上するメカニズムは簡単です。
需要が増加し、企業が労働者を必要とする環境になればよいのです。
企業が労働者を必要とすれば、労働市場は売り手市場化します。
そうして、労働環境の改善や所得の向上が起きます。
そのためにも、需要創出を行う積極財政が少子高齢化社会に必要です。
子供や結婚への手当
個人的には、子供や結婚への手当をもっと厚くしてもよいと思います。
少子高齢化に本気で取り組むなら、子供の教育費や生活費を国が全額負担するくらいの勢いでもよいのでは。
たとえば、フランスは少子化対策に成功した国として知られています。
フランスの少子化対策は「産めば産むほど有利になるシステム」と表現されます。
家族手当や3人以上子供のいる世帯に対して大幅な所得減税、子供を産んだことによる年金加算、出産費用が無料etc……。
日本は財政にばかり興味を持ち、いまいち少子高齢化に危機感がありません。
フランスやオランダの少子化対策を見習うべきです。
まとめ
社会の高齢化は2つの要因によって進みます。
1つは先進国になったことで生活・医療が変化し、平均寿命が延伸することです。
もう1つは少子化です。
平均寿命が延びたことによる高齢化は歓迎すべきことです。
したがって、対策はもっぱら少子化に向けられます。
先進国が少子化になるのはさまざまな理由があります。
教育費の高騰や子供の生存率の改善などです。
併せて、日本では雇用の不安定化、所得の下落といった晩婚化要因がありました。
雇用の不安定化や所得の下落は、1990年代から続く緊縮財政が原因です。
高齢化社会は先進国共通の問題ですが、さらに悪化させたのが緊縮財政によるデフレと経済停滞でした。
高齢化社会の問題を解決するためには積極財政への転換が必要です。