いよいよ自民党総裁選が始まります。岸田文雄氏、河野太郎氏、高市早苗氏、3候補ともコロナ禍における財政出動は良しとしているようですが、その後の経済政策には大きな違いがあります。それぞれどのような問題点があるのか、考えてみたいと思います。
岸田文雄氏の経済政策
主な政策
自民党総裁選にいち早く出馬表明した岸田氏。その経済政策の看板は「新しい日本型資本主義」です。「新自由主義からの転換」「令和版所得倍増」といった言葉も注目されます。では、具体的にどんな政策なのか? 「岸田文雄公式サイト」から主なところを紹介しますと……
〇大胆な金融政策、機動的な財政政策、成長戦略でデフレ脱却(アベノミクス継承)
〇経済再生を重視しつつ、財政健全化の旗を堅持
〇「新しい日本型資本主義」とは、成長と分配の好循環によるもの
〇10兆円ファンドで科学技術研究・イノベーションを支援
〇研究開発・人材育成などの投資や賃上げを応援する税制
〇「経済安全保障推進法(仮)」で、戦略物資・技術の流出防止
〇企業の業績の四半期開示を見直す(企業の株主第一主義、短期利益優先の見直し)
〇医療・介護・保育で働く人の所得増のため、公的価格を見直す
〇「財政」に複数年度の視点を反映
〇5年間で15兆円の防災・減災・国土強靭化投資
岸田文雄氏の問題点
政府はカネを出さず、制度をいじって、民間でカネを奪い合わせる
岸田氏の記者会見の模様も見たのですが、残念ながらその印象は「ショボすぎる」でした。
財務省も認めるとおり、我が国に財政破綻はあり得ないのですから、大胆な財政出動で国民を救い、国力を増すことが可能。ところが、岸田氏の政策には、まともな金額が出て来ません。
米中に大きく溝を開けられつつある科学技術研究。
大いに予算をつけるべきですが、10兆円「ファンド」とは。
証券・株式投資の運用益を研究費にする……まだるっこしい話です。
素直に毎年国債を発行して研究予算を大いにつければよいのに。
これに象徴されるように、岸田氏の政策は「政府はカネを出さず、制度をいじって、民間でカネを奪い合わせる」路線と見えます。まさにアベノミクスと同じですね。
構造改革の継承と、力不足の国土強靭化
となれば、構造改革も継承することになってしまいます。
財政再建主義による消極財政下では、景気は良くなりません。
財界・大企業にもうけさせて、政治家が支持を得るには、構造改革・規制緩和や民営化、公共部門の切り売りであるPFI/PPPなどが求められます。
このような政策を推進していては、「分配」重視といっても絵に描いたモチ以下。
そもそも経済成長が妨げられるので「分配」のモチもふくらみません。
予算の数字が出ている国土強靭化投資を見ても、年額は3兆円です。
対して平成30年度の国交省試算では、インフラの維持管理・更新にかかる費用は年平均6兆円。
岸田氏による年3兆円は、インフラ「現状維持」に使われておしまいではないでしょうか。
激甚化する自然災害に対して、まったく力不足です。減ってしまった土木・建設業者等の復活維持もかないません。
「財政健全化の旗」と「経世済民の大旗」
せっかく、企業の四半期開示および介護等の公的価格の見直しといった良いものを掲げているのに、「財政健全化の旗」のせいでぶち壊しです。
全体としては、日本経済復活に足りるものではありません。実に残念に思います。
「財政健全化の旗」を持ったままでは「経世済民の大旗」は振るえない。
そのことに気づいていただきたいものです。
河野太郎氏の経済政策
主な政策
では、最有力とも言われる、河野太郎氏はどうでしょう。
その主な政策はこちらのパンフで確認できます。
経済関連で主なところは……
〇自然災害から命を守る、持続可能なインフラを次世代へ
〇デジタル、グリーンのイノベーションで稼ぐ力を伸ばす
〇産業界も安心の現実的エネルギー政策
〇イノベーションを担う人材と資金の好循環
〇持続可能な全世代型社会保障制度の構築
河野太郎氏の問題点
岸田氏以上に「政府はカネを出さず~」
パンフだから仕方ないと言えばそうですが、具体的なところがさっぱりわかりません。
出馬会見・質疑応答も見ましたが、何ともふわっとした現実味のないものでした。空虚そのものです。
政府支出についても、財政観の見直しについても、まったく触れていません。
そうすると確実なのは、岸田氏以上に「政府はカネを出さず、制度をいじって、民間でカネを奪い合わせる」路線であること。
「公助なしの自助・共助」の押しつけも菅政権と変わらずということです。
「持続可能な全世代型社会保障制度の構築」と言っていますが、年金制度の最低保障、その財源は消費税と明言しています。消費税増税は彼にとって既定路線と見えます。
河野氏では、日本経済・国力の破壊がさらに進みます。「改革」好きと言われる河野氏の本領発揮でしょう。
中国から歓迎される「アメリカかぶれ」
政策面から見て河野氏は落第ですが、
それ以上に問題を感じるのは、米中あるいは国際金融資本の言いなりになるのではないかということです。
河野太郎に好意的な中国――なぜなら「河野談話」否定せず
退陣する菅首相の渡米は米国の“呼びつけ” バイデン大統領「次は河野太郎だ!」と強行指名か
中国から歓迎される「アメリカかぶれ」。
父・洋平氏の河野談話を継承、靖国神社参拝は行わないのはもちろん、尖閣侵略や人材・技術流出なども等閑視。
一方で、菅総理の継承者として小泉進次郎氏とタッグを組んで、アメリカ・国際金融資本の求める規制緩和などをバリバリ推進するではないでしょうか。
さらには、かの竹中平蔵氏も河野氏にアプローチしているようです。
河野氏は出馬会見で「まんべんなく耳を傾けるのがリーダーの仕事」と言っていましたが、
米中・国際金融資本の声に耳を傾け、採用するのはそちらばかり、国民には「次の質問どうぞ~ブロック!」とならないか心配です。
高市早苗氏の経済政策
主な政策
高市氏の政策は、↓で見る事ができます。
「日本経済強靭化計画(サナエノミクス)」
「プライマリーバランス規律凍結」「財政破綻の心配はない」と明言したことから、積極財政派の支持を集める高市早苗氏。また、個々の問題に対し、具体的な対策を上げていることも評価を高めています。私も前々回の記事でご紹介したところです。
高市早苗氏の問題点
累進課税を破壊するのか?
しかし、高市氏の政策にも、次のような問題点が指摘されます。
●各種特別措置の廃止で法人税率を一律25%。5%以上の賃上げを実施した企業については5%の減税措置
⇒累進課税の破壊で、企業間の格差が拡大するのでは?
●将来的には、所得税課税最低限の引き下げとセットで所得税率を一律10%程度に
⇒増税、そして累進課税の破壊。これが実現すると格差が急拡大する。
確かに心配な点です。批判すべきとも言えます。
ただ、これは高市氏がわざわざ公表しているから指摘されるものです。
河野氏や岸田氏はこのような増税について公表していません。
しかし、財政再建の旗がある以上、いずれかが総裁~総理となった場合にも、増税の話は出て来るはずです。増税リスクに関しては、3氏の比較自体ができないのではないでしょうか。
国民が嫌う「超積極財政」をやって「サッチャー」になるべき
高市氏は、国民に嫌われても改革をやった、英国のサッチャー首相を尊敬しているそうです。
だから必要な増税もやる、ということなのかもしれませんが、実際に国民の大多数はまだまだ「緊縮財政/消極財政」に親和的。
どうせ増税されるんだから、国債発行~財政出動なんかするな!という心理です。
(もちろん、大間違いですが)
国民に嫌われても、と言うのなら、高市氏にはむしろ「積極財政」を大いにやってほしいと思います。
おすすめ1位:高市氏 2位:岸田氏 ×:河野氏
ということで現状、経済政策における自民党総裁選のおすすめ順は、
1位:高市氏 2位:岸田氏 ×:河野氏
となります。河野氏だけは絶対に避けていただきたいものです。
総裁選では多くの議論が交わされ、候補者も国民の声に注目します。
特に岸田氏は「#岸田BOX」としてツイッターなどで意見を募集しています。
人の考えによく耳を傾ける、という岸田氏らしいあり方ですが、これで彼が
「財政再建の基準は政府債務対GDP比。プライマリーバランス規律は破棄」
と打ち出してくれれば、面白くなりますね。
「国民を救う積極財政」への議論が加速します。
政治に注目が集まるこの時期。
積極財政派にとっても、考えを広めるチャンスです。
トップ写真 自由民主党本部_by_Joe Jones