自民党総裁選! 高市早苗氏と積極財政

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前総務大臣の高市早苗氏が、プライマリーバランス規律の凍結と危機管理投資・成長投資の積極財政を掲げて、自民党総裁選への立候補を表明しました。積極財政派の間でも、高市氏に期待する声もあれば、安倍政権の二の舞になるのでは、と冷めた目もあります。果たして高市氏の立候補、どのように見ればいいのでしょうか?

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高市早苗氏、自民党総裁選に立候補の意志表明

『文藝春秋』9月号で、高市早苗氏が次期自民党総裁選への立候補を表明しました。

また、東京ホンマもん教室(7月10日放送)の藤井聡教授との対談で、インフレ目標2%達成までのプライマリーバランス黒字化目標の凍結について発言。積極財政・長期的展望に基づく危機管理投資を主張しました。


安倍政権~菅政権を経ても緊縮財政の転換ならず、相変わらずデフレ沼の我が日本。
積極財政派の間で高市早苗氏への期待が高まりつつあります。

衆院選前、総裁選は実施されるか

とはいえ、衆議院総選挙を前にして、自民党総裁選が行われるかどうかは不確定です。

新型コロナ対応の不手際からでしょう、菅総理の支持率が下落。
菅総理の看板では衆院選を戦えないと危機感を持った議員たちから、党員投票を含む総裁選を求める声が出ている一方、

幹事長の二階俊博氏は無投票での菅総裁続投を目論んでいるとか。
「国家と国民のため」でなく、議席と権力のための暗闘です。国民としては鼻白むところですが、現実政治としては仕方ないでしょう。

積極財政を争点にする観点からは、衆院選の前に総裁選がフル規格、すなわち党員投票込みで行われるべきと考えられます。

と思っていたら、以下のニュースが。良い傾向です。
菅首相、総裁選前の解散見送り コロナ感染拡大で困難に

「文藝春秋」の高市早苗氏の記事、副題は
「力強く安定した内閣をつくるには、自民党員と国民からの信認が必要だ。私の「日本経済強靭化計画」!」 

その中で、高市氏自身も衆院選前の総裁選を主張しています。

高市早苗氏、文藝春秋誌での主張の要点

では、その「日本経済強靭化計画」とはどのようなものか? 要点をまとめてみましょう。

〇基本路線は「ニュー・アベノミクス」
 「大胆な金融緩和」「機動的な財政出動」「危機管理投資・成長投資」の三本柱

〇危機管理投資では災害、サイバー犯罪、安全保障上のリスク最小化に資する研究開発、人材育成を行う

〇成長投資では日本に強みのある技術分野をさらに強化、新分野も含め成果の有効活用、戦略的支援
(産業用ロボット、工業素材、量子技術など)

〇インフレ率2%達成までプライマリーバランス規律を凍結
 戦略的な投資にかかわる財政出動を優先、災害対策や社会保障のため追加的な国債発行

〇日本は自国通貨建て国債発行国で、財政破綻の心配がない
 名目金利を上回る名目成長率を達成すれば財政は改善、強い経済は財政再建に資し、外交国防等にも直結

〇必需品は国内生産・調達が基本
 企業への国費支援、研究開発拠点・生産拠点の国内回帰支援、医薬品研究開発への大型投資

〇情報通信機器の省力化、電力供給体制強化
 AIやデータセンターの電力効率化、電力供給体制強化に国費投入、太陽光パネル設置規制

〇土木・建築技術の研究開発、防災対策への大胆な投資
 防災対策は、10年間で100兆円規模の中期計画で継続

〇中国リスク対策
 「国家安全保障・投資法」と「経済安全保障包括法」の制定で、外資による買収・合併規制と技術流出の防止を図る

評価できるところも多いが、従前の自民党政治の反省がない

「反緊縮・反グローバリズム・反構造改革」の「進撃の庶民」としては、

〇積極財政、国債発行増による投資を打ち出している
〇かつての「成長戦略(構造改革)」から「成長投資」への転換
〇プライマリーバランス規律凍結と、財政破綻論の否定
〇生産の国内回帰、中期計画による防災対策

といった点はうれしいところ。

もっとも、まだまだ不十分、不満な点もあります。
▲消費税減税~廃止に言及なし。デフレ圧力・雇用環境悪化・逆累進性という消費税の悪影響を放置するのか?

▲なぜプライマリーバランス規律の撤廃でなく凍結なのか? インフレ率2%達成したら緊縮財政復活か?

▲財政出動が「機動的」では足りない。「危機管理に」「成長分野に」という「選択と集中」路線は捨てて、痛み切った国民経済復活のため、大胆・大規模・長期で財政出動すべきではないか?

▲緊縮財政、構造改革、グローバル化(大企業、株主優先主義)の反省が見られない!

このように、私たちが望む積極財政、国民誰もが豊かに安全に暮らせる日本経済には道遠し、です。

とはいえ、これらの不満を払拭する政策は、これまでの自民党政治をひっくり返すこと。
それを訴えることは、総裁選にあたって、党の大物たちの機嫌を損ねる行為にもなります。 

撫子になれるか? 高市氏の立ち位置

高市氏の政治家としての立ち位置を確認しましょう。

選挙区:奈良県 当選回数:8回 所属派閥:なし
大臣経験:内閣府特命担当大臣、総務大臣(いずれも安倍内閣) 

「安倍チルドレン/安倍ガールズ」という呼称がありますが、高市氏もそれにあたります。

安倍前総理に引き上げられて、実績を積んできたわけです。
そんな高市氏が、党内で国会議員20人以上の推薦人を集め、さらに総裁選で勝利する。
そのためには、

〇安倍氏の顔を立て、後ろ盾を得る
〇政策を、党内の多くが許容できるものにしておく

という必要がありますから、超積極財政的なことは主張しづらいでしょう。
そういう計算をした上での「日本経済強靭化計画」のはずです。

また、消費税増税については従前より賛成でしたので、この姿勢を転換することはなさそうです。
この点、実に残念に思います。

「進撃の庶民」の理想の女性首相像といえば「幸村撫子」。
高市氏には「リアル撫子」になってほしいものですが、現実的には極めて厳しいですね。

他の候補者との比較~積極財政競争へ

他の候補者はどうでしょう。
8月20日時点で立候補を表明しているのは、菅総理、下村博文氏。
さらに岸田文雄氏、石破茂氏、野田聖子氏も出馬が取り沙汰されています。

が、いずれも緊縮派・財政健全化派。
少なくとも「国債発行増で積極財政だ!」という主張は聞いたことがありません。

(岸田氏の「公益資本主義」「株主優先見直し」は評価したいですが……)

彼らに比べれば、高市氏は相対的には「優良」と言えましょう。
安倍氏のように、総理になった途端、増税・緊縮に走る懸念もありますが、他に選択肢がなさ過ぎます。

高市氏には、総裁選で堂々と積極財政・政府支出増を語ってもらいたい。
その主張が国民に広まることは大きな一歩、積極財政OKの空気をつくることにつながります。

そしてぜひ勝利して、続く衆院選で野党と「積極財政競争」、「どっちが国民のためにおカネを発行して使えるか対決」を繰り広げてほしいと思います。

トップ写真は、平成18年(2006)シドニー・ブレナー氏と高市早苗氏_by_OIST

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雷蔵ファン
2 years ago

対中強硬派で積極財政派なら菅政権と正反対だから、よろしいと思ひます。
かういふ骨のある自民党議員は、今や貴重です。
いづれ彼女では物足りなくなる程、自民党も野党も揃つて「対中強硬・積極財政」路線に転換して貰ひたいです。
しかし、現実には「媚中・緊縮財政」路線が主流ですし、今後も続きさうですが、
取り敢へず明日の22日、横浜市長選で小此木を落選させて菅政権を退陣に追ひ込めれば一歩前進だと考へてをります。

阿吽
2 years ago

まあ大事なのは、積極財政の議論を大いに公論化してもらうことなので、そういう意味では高市さんには頑張ってもらいたいですね。

2 years ago

サナエノミクス三本の矢(私案)
①聖域なき財政拡大
②消費税廃止
③社会保険料の徴収免除

上記がイマドキの政策でインパクトがあります。「ポピュリズムだ! 財源はどうするんだ?」という疑問から、貨幣や租税や財政に対する国民的な議論への発展に繋げてもらいたいです。

あとは日本をどのような国にしたいか、総理大臣を目指す人は長期的なビジョンを国民に語るべきでしょう。たとえば私なら、「日本国や日本人が世界で最も尊敬される対象でありたい。評価ポイントはいくつかあるが、大きなウエイトを占めるのは国内総生産(GDP)。これを30年後に世界一とするために逆算していくと、毎年のインフラ投資や防衛費はこれくらい必要で……」といったことを語ります。

或いは、「シンポジウムを開きましょう。市民の皆さん、『わたしの考えた政策』をそれぞれ発表してください。日本国内に油田でも発見されたと想定して、好きなこと言ってもらって大丈夫です。私の政権では、それ全部やっちゃいます!」みたいな、それこそ漫画みたいな新しい展開を期待したいですね。

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当ブログは2019年5月に移転しました。旧進撃の庶民
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