公正世界仮説のメリット・デメリットと自己責任論や犠牲者非難

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 公正世界仮説とはメルビン・J・ラーナーが発見した心理学上の現象です。多くの人が公正世界仮説を信じています。

 しかし、公正世界仮説は信じすぎると認知バイアスを引き起こしたり、犠牲者非難や極端な自己責任論につながったりします。

 公正世界仮説にはメリット、デメリットの両方があります。公正世界仮説とは何か? そのメリットやデメリットも含めて解説します。

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公正世界仮説とは

 公正世界仮説とは、人間の行いに対して公正な結果が返ってくるという信念、ないし思い込みです。メルビン・J・ラーナー1960年、実験によって公正世界仮説を発見しました。

 公正世界仮説の詳しい概要や、その発見経緯について紹介します。

公正世界仮説の概要

 公正世界仮説とは「いい行いをすれば、いい結果が返ってくる」「悪い行いをすれば、悪い結果が返ってくる」と考えること、思い込むことです。
 さらに言えば「すべての正義は最終的に報われ、すべての悪は最終的に罰せられる」という勧善懲悪な世界観が公正世界仮説です。

 公正世界仮説は「お天道様が見ている。だから、悪いことはしない。いいことをしよう」に似ています。

 「正義=報われる」「悪=罰せられる」という世界観は誤謬も起こします。「何らかの被害者になった=きっと自業自得に違いない」という誤謬です。
 たとえば、女性が深夜に歩いていて襲われたら「深夜に歩いているのが悪い(だから襲われても仕方ない)」となります。
 この心理には「悪いことが起きる(罰せられる)のは、悪いことをしたからに違いない」という公正世界仮説の働きかけがあります。

公正世界仮説の発見経緯

 公正世界仮説はメルビン・J・ラーナーが発見しました。温厚な医者がしばしば病気になった患者を軽蔑したり、自分の受け持つ学生が構造的暴力の犠牲者である貧困者をさげすんだりすることを、ラーナーは不思議に思いました。

 そして、ある実験でその疑問はますます深まりました。
 実験は2人のうち、ランダムに1人に仕事の報酬を与えるものでした。報酬を与えられた被験者は、実験者が自分のことを好意的に評価していると考えました。
 最初に「ランダムに与える」と通知していたにもかかわらず。

 この結果は従来の心理学では説明できません。

 そこでラーナーはさらに実験を行います。72人の女性被験者を集め、被験者の1人(じつはサクラ)が電気ショックを与えられて苦痛を味わう姿を見せたのです。
 被験者たちは見続けることしかできません。

 そうすると、不思議なことに被験者たちはサクラをさげすむようになりました。サクラの苦痛の度合いが大きいほど、さげすむ度合いも大きくなったのです。
 サクラが後で報酬を受け取ると聞かされたケースでは、さげすむことはありませんでした。

 これは「電気ショックで罰せられているのは、きっと何か悪いことをしたからに違いない」という公正世界仮説が働いた結果でした。

公正世界仮説のメリット・デメリット

 公正世界仮説は犠牲者非難に注目されることが多いです。しかし、メリットもデメリットも両方あります。

公正世界仮説のメリット

 公正世界仮説のメリットについてまとめます。

ポジティブになれる

 公正世界仮説を信じていればポジティブになれます。なぜなら、正しい行いをすれば報われるはずだからです。正しい行いに対して、悪い結果が返ってくるとは考えません。

 さらに、自己奉仕バイアスも重ねがけすれば完璧です。
 自己奉仕バイアスとは成功は自分のおかげ、失敗は状況のせいにする認知バイアスのことです。

 公正世界仮説を信じればポジティブな行動、思考が可能になります。
 要約すると「努力すれば、必ず報われる」と考えられます。

未来予想ができる

 公正世界仮説は大半の人が、多かれ少なかれ信じています。「いい行いは報われ、悪い行いは罰せられる」ことを多くの人が信じることで、不確実性が減少します。

 不確実性とは、何が起きるかわからないことです。多くの人が「いい行いは報われる」と信じ、いい行いをすることで秩序が保たれます。
 秩序は不確実性を減少させ、未来予想を可能にします。

 たとえば、いきなりトラックが突っ込んでくることなど心配せずにすむのは、トラックが突っ込んでこないと未来予想しているからです。
 公正世界仮説はある意味、共同幻想的な作用があるのです。

自分の理想に向かって努力できる

 公正世界仮説はあくまで、その人自身が信じる”いいこと”が報われる世界です。何が”いいこと”なのか? それは、その人自身の理想が左右します。

 新自由主義的な価値観を持っている人なら、金銭的な成功こそが”いいこと”です。フェミニスト的な価値観を持っている人にとって、それこそが善です。

 そして、公正世界仮説を信じている人にとって善=理想です。つまり、理想に向かって迷いなく努力できます。

公正世界仮説のデメリット

 公正世界仮説にはもちろん、デメリットも存在します。

犠牲者を非難する傾向がある

 公正世界仮説では「いい行いは報われ、悪い行いは罰せられる」と信じられます。逆説的に「罰せられたのは、悪い行いをしたからだ」となります。

 たとえば、深夜に歩いていた女性が襲われれば「深夜に歩いていたのが悪い」という批判が起きます。この批判は、山口敬之が伊藤詩織を強姦した疑義で噴出しました。
 被害者側とされる伊藤詩織がSNSで激しくバッシングされたのです。

 公正世界仮説を信じる人たちにとって、何の罪もない人が不条理にあうことは「あってはいけないこと」です。したがって、何らかの罪があったと信じることで矛盾を解消しようとします。

自己責任論が過大になる

 公正世界仮説では「いい行いは報われ、悪い行いは罰せられる」とされています。つまり、悪いことが起きたのはすべて自己責任と換言できます。

 公正世界仮説は自己責任論を過大にする作用があります。

 正社員になれないのも、貧困なのも、公正世界仮説に則れば「努力が足りないからだ」「怠けているからだ」「普段の行いが悪いからだ」となります。

認知バイアスを起こす

 認知バイアスとは、客観的事実と異なる風に思い込んでしまうことです。

 たとえば、正常性バイアスは自分にとって都合の悪い事実を無視、過小評価します。確証バイアスは、自分に都合のいい情報ばかり集めます。後知恵バイアスは何か起きたときに、後から「予測可能だった」と訳知り顔で言います。

 公正世界仮説を信じ込むと認知バイアスを引き起こします。それは犠牲者非難や自己責任論という形で噴出します。

公正世界仮説の例

 公正世界仮説の例をいくつか挙げます。

お天道様が見ている

 「お天道様が見ている」は日本古来の公正世界仮説です。お天道様が見ているから悪いことはしちゃダメ、いいことをすればきっと報われるという思想です。

 お天道様は太陽のことを意味するほか、神様や仏様を表している場合もあります。古今東西「お天道様が見ている」に似た教えは日本に限らず存在します。

 公正世界仮説はポジティブに働くこともあるのです。

伊藤詩織・山口敬之事件の犠牲者非難

 2010年代半ば、山口敬之による伊藤詩織への強姦疑惑が報じられました。伊藤詩織は顔出しして会見に臨み、大きな話題となりました。

 この強姦疑惑において、TwitterなどのSNSでは伊藤詩織へのバッシングがありました。バッシングの内容は「枕営業だった」「女として隙があった」などが有名です。

 このバッシングは典型的な、公正世界仮説における犠牲者非難です。

 リンダ・カーリがレイプと公正世界仮説に関する実験を行っており、その実験でも物語の中の女性被害者への非難が起きたそうです。
 なお、その非難は女性のキャラクターや性格に関わりなく起こりました。

行き過ぎた自己責任論

 公正世界仮説は突き詰めれば自己責任論に行き着きます。「いい行いが報われ、悪い行いが罰せられる」とし、その報いや罰は世界が下すと信じられます。

 公正世界仮説の世界観では不条理は存在しません。不条理と感じられる状況は、その人が悪いことを行った結果だと考えられます。

 たとえば、シリアで拘束された安田純平の事件では、日本中で自己責任論が巻き起こりました。危険地域――つまり、シリアへの渡航という”悪いこと”に対して、拘束されたという結果が返ってきたと考えられたのです。

 日本人は特に自己責任論が強い可能性があります。

 大阪大学が2020年に行った調査によれば、「コロナに感染したのは自業自得」と考える人は日本人11.5%、アメリカ人1.0%、イギリス人1.49%、イタリア人(2.51%)、中国人4.83%でした。
 日本人にとって特に、公正世界仮説は馴染みが深いのかもしれません。

まとめ

 公正世界仮説を多くの人が信じています。公正世界仮説は共同幻想的であり、秩序を形作る作用を持ちます。その一方、思い込むと非常にやっかいです。自己責任論や犠牲者非難に転ずることもあります。

 公正世界仮説を知識として得ることで中庸を得られます。中庸とはバランスの取れたものの見方、考え方、態度です。
 過ぎたるは及ばざるがごとし。バランスよく世界を見るようにしてくださいね。

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阿吽
22 日 前

>公正世界仮説を信じていればポジティブになれます。なぜなら、正しい行いをすれば報われるはずだからです。正しい行いに対して、悪い結果が返ってくるとは考えません。
 
ただまあ、善因善果・悪因悪果を全否定もできないんですよね。ある意味一見、オカルトみたいな話ですけど・・。
 
例えば、Aさんという人がちょっと困ったことがあって困窮してる時に、ある人物が近づいてきて「おまえの親父さんには俺が若いころ散々世話になったし(Aの親に恩義がある)、なんか困ってることがあったら言ってくれ」・・なんてことがおこる可能性もあります。
 
逆に例えば、また同じような境遇のBさんがいて、その人にある人物が、「おまえの親父さんには俺が若いころ散々世話になったし(Bの親に苛められた)、子供のお前にも恩返ししてやらなきゃあなあ(意味深)」・・なんてことになる可能性もあります。
 
この場合は、親の善行(もしくは悪行)が遠回りして子供に帰ってくるということですね。
 
もちろん、どちらのケースでも帰ってこない場合もあります。しかし帰ってくる可能性も、良いにしろ悪いにしろ高くなっていくんじゃないかと思います。
 
こう言う感じで、善因も悪因も、遠回りにしろ直接にしろ、帰ってくる可能性がある場合があるわけですね。
 
また、ソースはラジオかなんかで聞いただけなのでうろ覚えなのですが、幼児を複数集めた空間での心理学的な社会実験で、その中で他の幼児をよく助けたり手伝ったりする幼児というのは、同じように自分も他の子供らになにかしら助けてもらえるようなケースがその他の子供に比べて増えるという結果になったとのことでした。
 
こういうことからも、「情けは人の為ならず」とか、「渡る世間に鬼はない」などという慣用句が生まれる社会が成り立っていく要因にもなっていくんじゃないかと思います。
 
.
日本国は、現状ではありがたいかもしれませんが、島国根性(まだ比較的移民が少ない閉鎖社会)のおかげで、仲間(同族)意識が強くなり、チームワークが他国よりも成り立ちやすい環境なのかもしれません。
 
その狭い枠内の世界では、大陸よりも他からの干渉が少ない分、善行も悪行も、ダイレクトに自分に比較的帰ってきやすい社会なのかもしれません。他国に比べれば、ですが。
 
しかし逆にそのデメリットとして、集団性ばかり重視されるので、集団から外れた行動に対する風当たりが諸外国よりも強いのかもしれません。
 
メリットとしては、今度のコロナで言えば、国民の自発的相互監視によるコロナ蔓延の防止でしょうか。(他のG7国に比べればですが)(手洗い・うがい・マスクの徹底もあるかとは思いますが)
 
デメリットとすれば、集団性維持のための自粛警察みたいな私刑を行おうとする人の率が少し目立つことでしょうか。
 
しかし、これらのおかげで、他のG7の国とも違って政府の大規模な規制がなくてもコロナ蔓延はある程度阻止できたのではないかとも思います。しかし、結果として少し窮屈なご時世になりましたし、結局、物事には良い点も悪い点もあります。
 
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ただ1つ言えるのは、日本政府が初期から今にかけて、まともにコロナ対策で財政出動をしていれば、もう少し日本の現状も全体的にましになっていたはず。・・というのが、また残念な話しではありますが・・。

Last edited 22 日 前 by 阿吽
阿吽
Reply to  阿吽
22 日 前

>例えば、Aさんという人がちょっと困ったことがあって困窮してる時に、ある人物が近づいてきて「おまえの親父さんには俺が若いころ散々世話になったし(Aの親に恩義がある)、なんか困ってることがあったら言ってくれ」・・なんてことがおこる可能性もあります。

追記ですが、こういうことを、日本の古い表現で『恩送り』とも言いますね。
恩送り – Wikipedia

当ブログは2019年5月に移転しました。旧進撃の庶民
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