俗に、“国の借金”と言われる政府債務のうち、政府にとって中心的な債務である国債。
国債は、どのように償還されるのでしょうか。
国債は、日銀法に基づいて、中央銀行である日本銀行が政府を代行して業務として取り扱っています。
日本銀行のホームページによると、
・国債の発行…入札の通知、応募の受付、払込金の受入れなど
・国債の登録・振替決済…国債の登録、振替など
・国債元利金の支払…国債の利払・償還、国債証券の利札・券面の回収など
とあり、
日銀の国債に関する業務として、国債の償還も含まれています。
市中銀行が保有する満期が到来した国債は、日本銀行の手によって償還され、現金、すなわち日銀当座預金にその代金が振り込まれることになります。
では日銀が保有する満期が到来した国債は、どのような取り扱いを受けるのでしょうか。
元富山大学経済学部教授、現名誉教授の桂木健次先生の研究ノート、およびSNS上での桂木先生とのやり取りと、SNS上での議論を元に、解説していきたいと思います。
<参考リンク>
・政府債務の償還と財源の通貨発行権(借換債と交付債 )について_桂木健次_研究ノート(PDF)
・【国の借金は返さなくていいらしい。】なんとなく分かるけど、もっと仕組みを知りたい方へのまとめ。
日銀が満期到来国債を保有するということは?
日銀が保有する満期が到来した国債は、金利が発生しないために同額の現金資産と同じ取り扱いになります。
つまり、満期到来国債は、現金(日銀当座預金、ベースマネー)と同じ扱いになるわけです。
しかし、ここで日銀にとっては困ったことが起こります。
日銀にとって、現金とは負債であり、資産ではありません。
国債は政府の負債ですから、日銀は国債を資産として保有できますが、日銀は自らの負債として現金を発行していますから、現金を資産として保有することができないのです。
つまり日銀を政府から独立した経済主体と捉えれば、現金は、マネタリーベースとして日銀以外の経済主体が保有していなければ、会計上の辻褄が合わなくなってしまうのです。
これが国、マクロレベルで見た会計の面白いところで、特に自国通貨建て国債の場合、満期が到来して金利支払いの必要がなくなってしまうと、それは同額の自国通貨(法定貨幣)の資産になる以外にありません。
何しろ自国通貨建てで発行されているわけなので、他国通貨の資産として取り扱うわけにはもちろん行きませんし、金利の抜けた満期到来国債と等価交換が可能なのは、自国通貨のベースマネー以外にないというわけなのです。
日銀保有の満期到来国債を会計的に処理するプロセス
こういう会計上、帳簿上のおかしな点を処理するために、日銀と政府は以下のプロセスを踏んで処理します。
①日銀は政府に、満期国債と同じ額面の借換債の発行を依頼する。
→同時に満期が到来して金利が抜けた国債は現金となり、国債整理基金特別会計に一旦預けられる
②政府は日銀の依頼を受けて、借換債を額面より安い割引債として市中銀行に発行する。
→借換債を売った代金として、市中銀行から政府が受け取った現金(ベースマネー)は、公債金として特別会計の国債整理基金に繰入れられる。
③市中銀行に売り出された借換債を、今度は日銀が額面通りの金額で買う。
→市中銀行は割引かれた値段分儲けることが出来る。
④日銀は、特別会計の国債整理基金に繰り入れられていた現金(=保有国債の満期到来によって生まれた現金)を市中銀行に渡すことで、帳簿の帳尻を合わせることができる。
つまり、日銀は新たに現金(日銀にとっての負債)を発行することもなく、借換債を償還していることになります。
さらに、政府は借換債発行が新発国債の発行にならないのはもとより、何の負債を負うこともなく、民間銀行から特別会計の歳入財源である公債金を引き出すことが可能です(しかも、民間銀行も損をしていない)。
このプロセスが、いわゆる国債の貨幣化(マネタイゼーション)と呼ばれるものです。
要するに、国債の発行とは、貨幣の発行と全く同じなのです。
財政法と国債の貨幣化
財政法5条では、
「すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを借り入れてはならない。」
と規定されており、公債即ち国債を日銀が直接引き受け(日銀が国債を直接買い取って現金を調達する)ことが禁じられています。
しかし、この満期到来国債の処理プロセスを見れば、財政法5条の規定には全く抵触せず、つまり日銀に国債を引き受けさせる必要もなく、政府は現金を調達できることになります。
その上、このプロセスの過程で民間銀行の現金資産(日銀当座預金)も増やしていますが、これはすなわち政府による借換債(国債)の発行自体が、政府による民間銀行への貨幣供給、すなわち通貨発行権の行使であると言えるでしょう。
そして何より重要なことは、国債の償還は税を財源としているのでは決してなく、自らの通貨発行権を行使して国債を償還しているということです。
つまり、国債(政府債務)を償還するのに税金は不要ということなのです。
国の借金問題と国債償還の実態
世間に流布している国の借金問題は、「政府債務(国債)の償還は、税によってなされるという前提が必要です。
しかしながらその実態を見てみると、日銀保有の国債償還は借換債の発行によってなされ、なおかつ市中(民間銀行等)の保有する満期到来国債の要償還債には、このプロセスで借換債の発行で市中から引き出した公債金を充てています(pp144,PDF5p)。
つまり、国の借金問題、すなわち「政府債務は税によって償還されなければならない」などというのは、その根底から全くのデタラメであり、妄言であると断ずることができるのです。
肝心なところ。日銀は、
日銀 ー / (-)発行銀行券【=(-)政府預金】
満期(決済期)国債(買戻し付売)①
をすることで、その分の政府償還になり、政府に担保渡し(現先)した満期債の買戻しを金融市場を介して行なう(政府側から見ると、買現先満期債の売戻し)ための「借換債」を政府に発行してもらい買上げる。このことで、
政府 現金(対市中償還財源公債金)
/ 借換債発行
市中銀行 借換債 / ー
(-)日銀当座預金
日銀 借換債② / 発行銀行券
∴借換債②は、売現先満期国債①と日銀会計で相殺されて消失する。
このブログにおきまして大変に丁寧にご説明頂きまして誠にありがとうございます。
と申し上げつつ、理解がついて行けてなくて本当に申し訳ありませんが、桂木先生の上の仕訳で、
>借換債②は、売現先満期国債①と日銀会計で相殺されて消失する。
とあるところ、国債①は日銀の最初の仕訳のところで日銀からから出ていっており、日銀の負債に計上されていないにもかかわらず、借換債②と相殺されというところが十分に理解できておりません。
私が理解に至らないことは間違いないのですが、大変に恐縮ですが、このブログのご説明の①から③までの絵でご説明頂いたところを、各段階毎に(いわばスローモーションのように)仕訳を起こして頂くことをお願いさせて頂けませんでしょうか。
厚かましく誠に恐縮です。
その「国債①は日銀の最初の仕訳のところで日銀からから出ていっており」は、日銀帳面では「日銀の負債に計上」となります。
日銀が買戻す国債整理基金特会発行(入札)の借換債は、それに先行してに日銀が買いオペ保有の「満期化」した国債の買戻しであるから、その借換債が相殺するのは、その先行する日銀の対特会現先渡しした日銀BSの貸方計上の満期到来債とでの相対である。
日銀 借)借換債こと買戻し満期国債 / 貸)売現先満期国債