日本は失われた20年を経て貧困化しています。1998年からデフレに突入し、2008年にはリーマンショックも経験しました。
1997年をピークに平均年収は数十万円ほど下落し、社会保障は次々と削られています。景気対策と銘打って規制緩和や構造改革が慢性的に行われてきました。
日本は窮状に追い込まれていますが、なぜか積極財政を採用しようとしません。かたくなに緊縮財政路線を守っています。1998年以降、積極財政が行われたのは小渕・麻生政権だけです。
どちらも短期政権で終わりました。次の政権はリバウンドで緊縮財政を実行しました。
なぜ日本は緊縮財政から抜け出せないのでしょうか? 3つの代表的な仮説を検証します。
なぜ日本は緊縮財政から抜けられないか
緊縮財政から抜け出せば日本は再生する。筆者がその考えを聞いてから10年以上が経ちました。緊縮財政から抜け出すのはなんと遠いことか。
3つの仮説が緊縮財政から抜け出せない理由として有力です。それぞれ、仮説を紹介します。
仮説① 財務省が均衡財政主義だから
「緊縮財政 なぜ」で検索するともっとも目立つのが「財務省が緊縮路線だから」という記事です。この仮説①を財務省悪玉論と呼びます
財務省は予算を握っている省庁です。何でもかんでも通す積極財政では、財務省の権限は弱くなります。通る予算が少ない緊縮財政だからこそ、予算を握っている強みを活かせます。財務省の権限強化には緊縮財政が都合がいい、というのが財務省悪玉論です。
また、財政法4条では「借金をしてはいけません」と定められています。財務省は法律に則って粛々と業務をしているだけ、とする議論もあります。
他にも、財務省設置法に問題があるとする議論もあります。財務省設置法の中には「財務省は財政健全化に努めなさい」とする条文があります。
こうした諸々の問題で、財務省が緊縮財政の諸悪の根源とされています。
仮説② マスメディアに国民が騙されているから
仮説②は「マスメディアが国民を騙している」説です。
「国の借金1000兆円! 国民1人当たり900万円!」という報道があります。こうした報道によって国民は「大変だ! 政府は無駄遣いしないで!」と騙され、緊縮財政を支持してしまうとする説です。
この説はもともと、マスメディアを敵視する議論から来ています。極端なものはネトウヨの「マスメディアは在日朝鮮人に乗っ取られている」とする陰謀論です。
他にも「マスメディアは左翼! だから反日!」とするバカバカしい議論などもあります。
こういった議論から発展したのが「マスメディアが国民を騙している」とする仮説②です。
仮説③ 世論が緊縮財政支持だから
緊縮財政が終わらないのは、単に世論が緊縮財政を支持しているからだという説もあります。これが仮説③です。
国民の多数派が支持しているなら、民主主義的に緊縮財政が採用されるのは当然です。なぜ国民が緊縮財政を支持しているのかについては諸説あります。
大戦の反省からという反戦平和主義論は、佐藤健志の名著「平和主義は貧困への道」で提唱されました。国債発行=戦争の図式から、平和主義では国債発行を控える論調になるというものです。
実際に財政法4条は上記の構図で作られたとのこと。
また、「税金から政府支出はされている」と考える均衡財政主義も大きな原因かもしれません。
緊縮財政の責任を主権者である国民に求めるのが仮説③です。
検証① 財務省は国民世論に逆らえるか?
それぞれの仮説を反論、検証していきましょう。なお、筆者は仮説③を支持しています。中立でも何でもありませんのでご了承ください。
財務省悪玉論は妥当でしょうか?
財務省とは会社で言えば経理部です。経理部が社長より強い会社ってありますか? 行政の長たる総理より強い財務省、という時点で無理があります。
くわえて、財務省を縛っている財務省設置法や財政法4条は法律です。法律は国会で立法、廃止されるものです。
財務省が法律やルールに違反して緊縮財政予算を通した、などという話は聞いたことがありません。法律の改正は国会がすべきことで、財務相に責任はありません。
仮に財務省悪玉論が正しいとしましょう。では、もし財務省が何らかの拍子に積極財政に目覚め「おっす! おら財務省! 積極財政を通すぞ!」と、積極財政を独自に通し始めたら大問題ですよね。
しかも、その積極財政は総理も国会も止められない。
積極財政に置き換えたら「財務省主犯論」があり得ないことがわかります。なぜ、財務省が独自に緊縮財政を続けられると考えるのか意味不明です。
財務省”も”緊縮路線の一要因かもしれません。しかし、主因と考えるのは無理があります。
検証② マスメディアにそんな能力ある?
仮説②を敵対的マスメディア論とでも呼びます。敵対的マスメディア論は「マスメディアが国民を騙している」とします。
その理由は「反日だから」「在日朝鮮人に乗っ取られているから」などが挙げられます。
まず、マスメディアが在日朝鮮人に乗っ取られているという事実はありません。
マスメディアが反日だから緊縮財政プロパガンダで国民を騙している、とする説もあります。なぜ反日なのかについては脇におきましょう。
なぜ財政論だけなのかについても脇におきます。
ついでに反日の動機についても脇におき――と、百歩譲ります。
日本が20年以上も抜けられない一大プロパガンダを仕掛ける能力が、マスメディアにあったとしましょう。その能力を使ってテレビや新聞の衰退を止められなかったのでしょうか?
また、ネット全盛の現在において積極財政が広まらず、相変わらず緊縮財政が強いのはなぜでしょうか? SNSですら積極財政は広がりを見せていません。
これはマスメディアのせいでしょうか?
敵対的マスメディア論は穴が多いですし、根拠も「借金記事をマスメディアが書いている」だけです。緊縮財政の記事が大衆受けするから書いているだけかもしれません。
書きやすいから、ということも考えられます。
国の借金記事ではマスメディアばかり責められますが、あの記事を権威づけているのは経済学者です。国の借金記事に経済学者が異を唱えた、なんて話は聞かないですよね。
少なくともマスメディアに「国民を騙す意図がない」のは明白だと思います。
検証③ 国民は緊縮財政を支持している?
世論調査で「景気対策」「社会保障」はいつも上位です。だから、国民が緊縮財政支持なんてあり得ない! と考えるのは短絡的です。
社会保障の充実は公共事業を削って行われるかもしれません。景気対策は規制緩和や金融緩和のことかもしれない。
「景気対策や社会保障の充実を求めている=積極財政支持」ではない、という点に注意が必要です。
多くの国民は景気回復や社会保障を望みつつ、消費増税も仕方ないと受け入れました。この点からも景気回復・社会保障がイコールで積極財政ではないとわかります。
国民は「税金で政府支出がまかなわれている」と信じています。政治家や経済学者、マスメディアも同様です。
「税金で政府支出がまかなわれている」と考えるのは、完全に均衡財政主義の考え方です。だからこそ「社会保障を充実したいから消費増税」「景気対策してほしいから消費増税」が成り立ちます。
「政府に何かしてほしいなら、その分、税金を払わないといけない」が日本の一般的な常識です。
このように、もともと日本国民は均衡財政主義なのです。均衡財政とは、緊縮財政です。世論は緊縮財政を「仕方のないこと」「当たり前」「常識」だと思っています。
マスメディアは常識を記事にしているだけですし、財務省は粛々と業務を遂行しているだけです。
このように考えると腑に落ちるのは筆者だけでしょうか?
まとめ
緊縮財政を「国民は悪くない! 財務省のせいだ! いやいや、マスメディアのせいだ!」とする議論に違和感があります。
もしマスメディアや財務省が国民の主権を歪め、壟断しているなら――日本の民主主義の危機です。
では、日本の民主主義は壟断されているか? 表現の自由は確保されていますし、世論で内閣が右往左往することもあります。日本の民主主義は全く危機的ではありません。
民主主義が正常なら、むしろ緊縮財政は国民のせいではないのか? そう考える方が自然です。現に「税金で政府支出がまかなわれている」と考えている国民が99%以上なのですから。
なぜ未だに緊縮財政が続いているのか? 筆者が思うに、国民が許容しているからに他なりません。
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