資本主義は聞き慣れた言葉です。日本、アメリカ、中国――世界中が資本主義で動いています。では、資本主義とは何か? こんな簡単な質問に真正面から答えている記事はほぼ皆無です。
なぜなら、資本主義を経済学者もエコノミストも定義できていないからです。
近年登場した現代貨幣理論(MMT)は貨幣の本質を明らかにしました。それまで、貨幣の本質は明らかにされてこなかったのです。灯台下暗し、です。
資本主義と貨幣は切っても切り離せません。
つまり、現代貨幣理論(MMT)が貨幣を明らかにしたからこそ、資本主義の定義もまた明らかになりました。
資本主義の本質についてわかりやすく端的に解説します。
一般的な資本主義の定義と特徴
検索して出てくる記事によれば資本主義とは「自由な市場」「私有財産を認めている」「資本家が労働力を買い、付加価値を生産して利潤を得る経済制度」などと解説されています。
どれも的外れです。
資本主義の芽生えはイギリスの産業革命です。では、産業革命まで自由な市場はなかったのでしょうか? そんなことはありません。もし自由な市場=資本主義とするなら、織田信長の楽市楽座は資本主義のはずです。でも、違いますよね?
自由な市場は資本主義の一面です。
では、私有財産を認めているから資本主義なのでしょうか? 資本主義と共産主義の対比でこの解説はよく使われます。
しかし、イギリスの産業革命以前は私有財産は認められなかったのか? 当然、認められていました。辻褄が合いません。
資本家が労働力を買い、付加価値をつけて利潤を得るのが資本主義という説明も眉唾です。資本主義以前にも地主はいました、小作農や農奴の労働力を使い利潤を上げていました。
商人だってそうです。
一般的な資本主義の説明は、資本主義が始まる以前もそうだったのでは? という単純でわかりやすい疑問に耐えられません。
みんな資本主義をわかった気になっていただけで、じつはわかっていなかったのです。
資本主義の本質をわかりやすく言うと
資本主義の本質は「中央銀行制度によって、負債が無限に拡大し続けられる金融構造」です。換言すれば「中央銀行制度を持ち、負債を拡大し続けることで経済成長する経済形態」が資本主義です。
もっとわかりやすく言いましょう。「中央銀行制度があれば資本主義」です。
資本主義以前、世界経済の成長率は1%未満でした。経済とは成長するものではなかったのです。イギリスの産業革命以降、経済が急激に成長し始めました。
産業革命はどうしてイギリスで起こったのでしょう? オランダやドイツ、アメリカ、中国ではなかったのでしょうか? その答えは、イギリスが中央銀行制度を世界で最初に設立したからです。
中央銀行制度によって国家は自国通貨建て国債を発行できるようになりました。通貨発行権を持つ国家が自国通貨建て国債を発行するとは、自分で自分から借り入れるようなものです。
理論上、無限の負債拡大が中央銀行制度によって可能になりました。
だからこそ、イギリスはインフラ整備をしたり、公共投資をしたりして産業革命が起こったのです。巨大な負債を抱えられるからこそ、巨額の投資が可能になりました。
資本主義の資本とは突き詰めれば負債という意味です。資本主義とは負債主義と換言できます。
現代貨幣理論(MMT)によれば貨幣=負債です。中央銀行制度によって無限に貨幣=負債を拡大し続け、負債拡大によって経済成長し続ける経済形態が資本主義です。
わかりやすく「中央銀行制度があれば資本主義」と覚えておきましょう。
社会主義も資本主義の一種
資本主義の解説記事で、社会主義は資本主義の対義語のように扱われます。しかし、これは間違いです。また、共産主義すらも資本主義の一種でしかありません。
社会主義の定義は、資本主義による弊害を修正しようとする運動です。例えば、修正資本主義や公益資本主義も社会主義の一種です。
社会主義は決して資本主義の対義語ではありません。
共産主義は私有財産を認めず、自由な市場を認めません。したがって、資本主義と対立するものとして描かれます。
けれども、解説してきたとおり資本主義の本質は中央銀行制度であって自由市場ではありません。自由市場を重視するのは新自由主義です。
新自由主義と共産主義の違いは、自由経済か統制経済かという違いです。
1991年に崩壊したソ連にも中央銀行がありました。当初、ソ連は真面目に中央銀行と貨幣を駆逐しようとしました。脱資本主義を目指したのです。
しかし、本当に脱資本主義をしてしまうと負債が拡大できず、巨大投資が不可能になり、国力が衰退してしまいます。
ソ連ですら脱資本主義はできませんでした。
整理すると野放図な資本主義が新自由主義、統制経済の資本主義が共産主義、中間が社会主義となります。
民主主義と資本主義はセットではない
資本主義=自由市場という勘違いから、資本主義=民主主義と勘違いされてきました。東西冷戦は共産主義vs資本主義の対決であり、専制主義vs民主主義の対決として周知されました。
ですが、この構図も印象論に過ぎません。中国は未だに一党独裁の専制主義ですが、資本主義を取り入れて大いに台頭しています。
中国の例を見る限り、資本主義=民主主義という構図は幻想でした。
資本主義の問題点を簡単に言うと
最後に資本主義の問題点を簡単におさらいしておきましょう。現在の資本主義は新自由主義に傾き過ぎ、自由競争の行き過ぎが問題になっています。
自由競争とは言い換えれば弱肉強食です。
シャッター商店街ができてイオンが一人勝ちするのも自由競争の行き過ぎです。
自由競争=弱肉強食は富の偏在や格差をもたらします。富が偏在し過ぎると需要が減少します。なぜなら金持ちほどお金を使う割合が少ない=消費性向が小さいからです。
消費性向とは所得のうち、どれだけの割合を消費に回すかという指標です。金持ちほど所得に対して消費の割合が小さい傾向にあります。
つまり、富が偏在すると全体的に消費に回されるお金が少なくなります。
需要が減少するとデフレになります。野放図な資本主義は需要の減少を招き、最後にはデフレとなり自壊し始めます。
他にも、資本主義はフロンティアを失ったのではないかとの説もあります。第1次産業革命、第2次産業革命などと比較して現在のイノベーションはインパクトを失い、影響を与える期間も短くなっています。
また、中国の経済も成熟し始めました。
科学的、地理的にフロンティアを失いつつあり、それが世界経済の長期停滞につながっているのではないかと考えられています。
なお、筆者はこの説は信用していません。単に格差拡大による需要縮小が発生し、フロンティアがなくなったように見えるだけだと考えています。
まとめ
資本主義には問題点もありますが、代替する妥当な経済形態は存在しません。である以上、資本主義を深く理解してより良く付き合っていくしかありません。
現代貨幣理論(MMT)によって貨幣の本質が明らかにされました。それに則った資本主義の定義は、今回の記事で述べたようなものになります。
貨幣が正しく説明されてこなかったように、資本主義もまた、正しく説明されてきませんでした。
正しく資本主義を認識し、政治や経済を考えてくださいね。