
生産性向上!の掛け声がビジネス界を席巻し、それをテーマにした研修なども数多く実施されているようです。政府もデジタル化推進でそれを大いに後押ししていますが、政府支出が拡大しなければ絵に描いた餅。それどころか、国家としての生産性は逆に下落するでしょう。実体験をもとに、わかりやすく解説します。(臨時投稿です)
研修会での質問「生産性低迷」の原因は?
先般、職場のマネジメント研修とやらを受講しました。
講師はコンサル/人材教育会社の人とか。
講話のテーマが生産性に及んだところで、
講師
「生産性は、成果÷資源投入量で表せます。
資源は、人・モノ・カネなどです。
この生産性が日本は世界主要国の中で最低です。
そもそも国家としての生産量、GDPが日本はこの20年でまったく伸びていません。
アメリカもイギリスも80%増、ゆったり働いて夏にはしっかりバカンスのフランスだってしっかり増えています。
それなのに日本はまったく成長していない。
一人あたりGDP、つまり生産性は韓国に追いつかれそうで、まったく危機的状況です。
なぜだと思いますか? わかる方いますか?」
私
「はい」
講師
「おお、どうぞ」
私
「政府が支出をまったく増やしていないからです。
他国は増やしていて、GDPの増え方に比例しています」
講師
「なるほど、政府支出……
………………………………
日本ではデジタル化が遅れているんです。
アメリカの博物館では産業遺物として展示されているFAXがいまだに現役だなんて、日本に来た欧米人が驚くくらいです」
質問に挙手して答えたのに無視するなアアァァァッ!!!
(まあ、予想どおりなんですが)
日本の生産性が伸びない理由

GDP=民間の消費+民間の投資+政府の支出+輸出-輸入
他国は順調に、分けてもチャイナは爆発的に政府支出を増やしているからGDPは増えて当然(増えすぎてて、チャイナの位置は上記グラフのはるか右上)。乗数効果といって、政府支出をきっかけに民間の消費や投資も増えるので、なおのことGDPは増えます。
政府が公共事業でお金を使うと、それを請け負った業者が重機を買ったり、従業員の給与を払う。給与をもらった従業員は飲食したり買い物したり、消費をする。よって民間の消費や投資も増える。
そして、
国民経済生産性=GDP÷就業者数(または就業者数×労働時間)
一人あたりの平均年間総実労働時間は減っていますが、非正規雇用増で就業者の人数は増えています。
分母はさして変わらず、分子のGDPも変わらず。
ということなら当然、国民経済生産性も変わりません。
GDPの各項目の中で、国家が唯一コントロールできるのが政府支出。
増やせば必ずGDPが増え、さらに民間の消費、投資を喚起し、GDP増を継続させるもの。
世界各国がこれを増やす中、日本はまったく増やしていないのだから、GDPは停滞して当然。
足し算・割り算の算数ができれば理解できるはず……
という私の心の声もむなしく、
講師曰く、デジタル化の遅れで生産性が低迷……
講師
「国が今、デジタルトランスフォーメーションを急ピッチで進めようとしていますが、
まさに危機感の表れですね。日本ではいまだに紙とファックスが幅を利かせています。
企業などの上層部がまったくデジタル化についていけてなくて、どこでもムダな仕事がすごく多いんです。
一昨年、経団連の会長室についにパソコンが導入されたっていうニュースが話題になりましたが、ことほどさように日本のデジタル化は遅れています。
そのせいで生産性が低いままなんですよ。
日本人の仕事はムダだらけなんです。
皆さんの仕事、職場にもムダがあるんじゃないでしょうか。
これからそのムダをシートに書き出して、解決策を考えてみてください」
こんな研修受けさせれられるのが一番ムダだわ!
と思いつつ、仕方なく私も自分の職場のムダ作業を書き出し……
グループ毎に発表。曰く、
ア 出張しての会議/解決策:Web会議にする
イ 係長⇒課長⇒部長と、上司一人ずつ順番に紙で資料を作って根回し説明/解決策:業務システムの機能で同時に見てもらう
ウ 電話やファックスの手間/解決策:メールやラインの活用
エ 音声記録の文字起こし/解決策:音声のまま保存 ……など
正直、研修で時間を使ってまで考えることとも思えませんが、それはともかく。
ムダをけずればGDPもけずれる
これらのムダをけずって、徒労感が減り、仕事はやりやすくなるでしょうが、
国家としての生産性はまったく増えません。それどころか減るかもしれません。
出張を減らせば、交通費や宿泊費としての「民間消費」が減り、紙の印刷をやめれば事務費としての「民間消費」が減って、GDPにはマイナスです。
ムダ作業の減で労働時間も多少減るかもしれませんが、それで残業代が減るなら、やっぱりGDPにはマイナス。
国家的に生産性を上げなければ!と言っておきながら、生産性を下げる指導をする研修講師。
詐欺ですね。もっとも、政府の示す方向性にはピッタリ合っている。
政府主導の国家的詐欺としか言いようがありません。
生産性を上げるには、まず政府が公共投資で支出を増やす、そして民間企業も設備投資・人材投資を増やさなければなりません。カネを使わねば生産性は上がらないのです。
ともあれ、こんな研修のせいで本来の仕事は滞り、まったく憤懣やる方なしでした。
価値観の遷移に期待したい
ただし、その後の講話の中では興味深い話も。
若年世代は、「競争」ではなく「共創」を重んじる傾向とのこと。
アラフォー以降の世代と違って、
彼らは他人と張り合ったり、蹴落として優越感を得たり、
利益を奪い取ったりすることより、力を合わせて成果を出すことに喜びを見出す。
デフレ不況で競争なんかしてたら生き残れない、とうこともありそうですが……
この傾向は、競争第一の市場主義/新自由主義の忌避、共同体重視の方向に親和的と言えましょう。
これを共同体意識/国民意識の強化につなげていければ、と思うところです。