財政赤字は問題だ! そのように言われて数十年が経ちました。しかし日本は一向に財政破綻する気配がありません。
財政赤字は一体何が問題で、どう解決しなければならないのか? それを考えるときに必要なことは、当たり前ですが「財政赤字を正しく知ること」以外にありません。
財政赤字を正しく知ることが諸問題を解決する一歩です。
財政赤字がダメだと言われる理由
財政赤字がダメだと言われる理由は4つあります。「GDP比200%以上」「財政の持続可能性」「負担の先送り」「財政の硬直化」です。
日本の公的債務残高はGDP比200%以上
日本の公的債務残高、つまり国債発行額の残高はGDP比で200%以上に達しています。したがってギリシャのように財政破綻する! という議論があります。
自国通貨建て100%の日本と、ユーロという外貨建て100%のギリシャを比較する議論は意味がありません。
身内の貸し借りと、萬田銀次郎からの借金を比べるようなもの。
閑話休題。
とにかく公的債務残高がGDP比200%以上は危険なのだそうです。
財政持続可能性の信認が毀損する
財政赤字が増えると、財政の持続可能性への信認が毀損すると言われています。
信認が毀損すると日本国債は売り一色になり暴落、長期金利が高騰してハイパーインフレになる! のだそう。
――日本の長期金利は下がり続けています。持続可能性への信認は高まるばかり。
どうしてでしょう?
将来世代への負担の先送り!
財政赤字は将来世代への負担先送りだそうです。なぜなら「財政赤字は税金で返済されるべき」だからだそうです。
自国通貨建て国債で発行しているのですから、通貨発行権を使って返済してはいけないのでしょうか? 実際にはすでにそうしています。
果たして将来世代に負担は残るのか? 疑問です。
国債費が増えて財政が硬直化する
国債費とは「国債の新規発行や借り換え、利払いに必要な予算全般」です。
国債費が増えることで余裕がなくなり、財政が硬直化するのだそうです。しかし現在、長期金利は0.1%以下です。
そして多くの国債は固定金利です。つまり今のうちに借りるだけ借りておかないと、むしろ損です。借りるだけ借りられれば柔軟な財政政策が可能です。
とにかくダメだからダメ!
「理由はどうあれダメなものはダメ!」と言われて、納得する人はいません。財政赤字がダメな理由は基本的に「財政赤字はダメだから、財政赤字を出すべきではない」という無限後退です。
無限後退とは無限ループのようなものです。
参照 無限後退 – Wikipedia
「ダメだからダメ」では、財政赤字を正しく知っているとは言えません。
財政赤字は解決されるべき問題か?
財政赤字をまずは正しく知りましょう。そのために「本当に財政赤字は解決されるべき問題か?」を解説していきます。
日本で財政破綻の可能性はゼロ
日本が財政破綻する可能性はゼロです。これは単なる事実であり、経済学者たちも認めるところです。
自国通貨建て国債ではデフォルト”できない”
日本の国債は100%、円建てです。円の発行権は誰が持っているのか? 日本政府です。
日本政府は民間銀行を通して円建て国債を借り入れ、最終的には日銀が引き受けることでファイナンスしています。
超簡略化すると「自分で自分に貸している」と言えます。自分で自分に貸しているのに、債務不履行で倒産できますか? 絶対無理です。
日本はどうやってもデフォルトしません。
通貨を発行して日銀に国債を引き受けさせれば、返済は終わりです。このオペレーションは一般的に、金融緩和と呼ばれています。
財政破綻しないのに財政の信認は毀損するか
財政破綻とはデフォルトのことです。日本はデフォルトしませんし、できません。
では財政破綻しないのに財政の信認は毀損するでしょうか? するはずがありません。その証拠に財政への信認を示す長期金利は0.1%以下です。
財政破綻しないなら公的債務残高の多少は関係ない
「公的債務残高がGDP比200%以上!」という主張も、財政破綻しないなら何の問題にもなりません。問題でない以上、解決する必要もありません。
赤字国債の増加は負担を増やさない
では赤字国債増加は、将来世代への負担を増やすのでしょうか。将来世代は1000兆円を超える莫大な赤字を、税金で返す必要があるのでしょうか。
当たり前ですが答えは「ノー」です。
返済の必要性がないなら負担はゼロ
そもそも返済は通貨発行権で事足ります。日本の国債は税金に依存せずに返済できます。なぜなら「自分で自分に貸しているだけ」だからです。
したがって将来世代への負担はゼロです。
なおこれは自国通貨建て国債のケースです。外貨建て国債の場合はその限りではありません。
赤字国債は仕事を増やす
赤字国債の増加は民間の仕事を増やします。社会保障など所得移転系の政策であれ、インフラなど公共投資であれ。
赤字国債による政府支出の拡大は需要を増加させます。需要が増加するとは、仕事が増えることです。
仕事が増えることを負担だとするなら、なるほど確かに赤字国債は負担を増やします。「現役世代の」ですが。
インフラや治水など将来世代への資産を残す
赤字国債で建設された道路や橋梁、水道、治水、鉄道などは将来世代への負担でしょうか? むしろ将来世代へ資産を残す行為です。
逆説的に赤字国債を恐れて公共投資を減らすことは、将来世代に残すべき資産を減らしていることになります。
資本主義下で健全な国家は財政赤字
そもそも我々が生きている世界とは、どのようなものでしょう。ざっと考えても「資本主義」「民主主義」などが浮かんできます。
じつは資本主義国家において財政赤字は健全です。
資本主義とは何だろうか?
そもそも資本主義とは何でしょうか? 正しく定義できている人は少数です。
資本主義とは「負債を拡大しながら経済成長していく経済形態」です。
イギリスの産業革命以前、世界はほとんど経済成長していませんでした。なぜなら中央銀行制度が整っておらず、負債を拡大することができなかったからです。
イギリスの産業革命以降、世界は爆発的に資本主義で経済成長しました。それは中央銀行制度が整い、負債を拡大できるようになったからです。
赤字を増やすべきは民間か国家か
「負債拡大は国家ではなく、民間でもいいじゃないか!」という意見もあるでしょう。
しかし民間が負債を増やした結果、起こることは自明です。バブルと金融危機、景気悪化です。ならば国家が負債拡大した方が、賢明であることは言うまでもありません。
アメリカの赤字は1900年比で3000倍以上
実際にアメリカの公的債務残高は、1900年と比較して3000倍以上に膨れ上がっています。しかし、アメリカが財政破綻したと聞いたことはありません。
これは資本主義下で財政赤字は健全である、という何よりの証左でしょう。
財政赤字を解決した後に起こること
ここまで読んでもまだ、財政赤字を解決したいですか? では実際に財政赤字を解決するとどういったことが起きるのか、シミュレーションしてみましょう。
①財政赤字ゼロ=民間赤字増大
「誰かの負債は誰かの資産」であり「誰かの赤字は誰かの黒字」です。この原則は絶対です。
では政府が財政赤字をゼロに縮小したとします。経済規模をそのまま保ちたいなら、他の誰かが赤字を増やすしかありません。
政府以外の経済主体は個人か企業、つまり民間です。
政府の財政赤字を解決すると、民間の赤字増大が問題になります。
②民間赤字増大でバブルと金融危機発生
民間の赤字増大は何をもたらすか? バブルとそれに伴う金融危機です。
民間の増大した赤字の多くは投資や投機に向かいます。よってバブルが発生してはじけ、金融危機が起こります。
③景気が悪化して税収が低下
金融危機が起きると景気は悪化します。
税収の原資はGDPです。景気悪化でGDPが縮小すると税収も低下します。
④税収の低下の穴埋めに歳出削減
税収が低下すると予算規模を維持できません。つまり赤字国債を出さないようにするなら、歳出削減が必要です。
――だんだんイヤな予感がしてきましたよね。
⑤①か③に戻る無限ループ
歳出削減は景気を悪化させるか、民間赤字を増大させます。
よって①か③に戻って無限ループが繰り返されます。
アルゼンチンは真面目に財政赤字を解決しようとした
じつは上述した循環は歴史上、実際に発生しています。アルゼンチンはデフォルトした後にIMFの管理下に入り、真面目に財政赤字ゼロ・プライマリーバランスの黒字化を目指しました。
その結果どうなったか? 再度デフォルトしました。
急激な歳出削減は民間の負債増加すらもたらせず、③の景気悪化に一直線。景気が悪化して税収が下がり、さらに歳出削減をするという悪循環です。
その結果……デフォルト! 圧倒的デフォルト!!
――すいません、やってみたかった。
財政赤字の解決は日本を凋落させる
財政赤字を本気で解決しようとすると、金融危機や景気悪化が確実に起きます。結果として税収が減少し、さらなる歳出削減が求められ景気が悪化。これに対して税収が減少しさらなる歳出削減が……と無限ループします。
日本が凋落するのは明らかです。
これでもまだ財政赤字を解決したい?
今回の記事で言いたかったことは「財政赤字は解決するべき問題ではない」です。
財政赤字がダメだとする主張の、曖昧でよくわからない論拠を紹介しました。そして実際に財政赤字は誰の負担にもならず、解決するべき問題が存在していないと示しました。
さらにはもし解決しようとすると、とんでもない事態が引き起こされると解説しました。
これでもまだ、あなたは財政赤字を解決したいですか?
「財政赤字を正しく知ること」は「財政赤字は解決が必要な問題ではない」と知ることです。
まとめ
- 財政赤字がダメだと言われる根拠は意味不明
- 財政赤字は解決されるべき問題ではなかった
- 財政赤字を解決しようとすると、もっと深刻な問題が起きる
- それでも財政赤字を解決したいですか?
この箇条書きが本稿のまとめです。財政赤字を正しく知ることで「財政赤字に問題がないのに問題視されているという問題」が理解できます。
しっかり知って賢く考えてくださいね。