先日、安倍総理が辞任の意向を表明しました。とはいえ任期は2021年までです。多少、時期が前倒しになっただけとも取れます。
辞任の理由は持病の悪化とされています。
安倍政権は2012年12月26日に発足しました。実に7年と8ヶ月に及ぶ長期政権でした。
安倍政権を総括することは、7年8ヶ月の政治を総括することです。2010年代の大半を占めた安倍政権は、日本に何をもたらしたのでしょうか。
二つの視点から安倍政権は総括される
主に二つの視点から、安倍政権は評価・批判されることが多いです。経済的側面と、道徳や知性的側面です。
経済的側面とは、アベノミクスが成功したかどうかです。道徳的側面では「モリカケ問題などに代表される嘘やごまかしが、安倍政権で増えたのではないか」という道徳的劣化、知的劣化を問題にします。
一見して経済的側面と道徳的側面は、別個のように見えます。しかし総括していくと、奥底に同じ問題が横たわっているとわかります。
経済的側面からの安倍政権の成果
経済的側面では、アベノミクスに一定の評価が与えられることが多いです。一方で、2018年以降の尻すぼみが指摘されることも多い。
2018年以降は実質成長率が低下していきました。加えて安倍政権全般で、全要素生産性の伸びが他国より低いという問題もあります。
全要素生産性とは、イノベーションや技術革新による生産性向上を表わす数値です。
働き方改革、農協改革、水道事業民営化etc……。数々の規制緩和や構造改革は、イノベーションや技術革新に寄与しませんでした。
アベノミクスで最大の成果とされる景気拡大は、世界経済や海外景気と完全にリンクしていました。内需による主体的な景気拡大は、起きていません。
つまりアベノミクスによる景気拡大ではなく、外的要因による景気拡大でした。
安倍政権の経済的側面の評価は「有効な経済政策はほぼ皆無。世界経済の景気拡大局面で、運が良かっただけ」とまとめられます。
なお2014年4月、2019年10月の消費増税がなければ、さらに景気拡大していた可能性があります。安倍政権はむしろ、景気拡大にブレーキをかけたとすら言えます。
安倍政権への道徳的側面からの批判
道徳的側面から、安倍政権への批判は多いです。モリカケ問題や公文書改ざん、桜を見る会などに代表される嘘やごまかしです。
嘘やごまかしを個人が行ったのであれば、大きな問題ではありません。嘘やごまかしが、組織的に行われた疑義が大きな問題です。
この点について白井聡氏が、痛烈に「【1】安倍政権の7年余りとは、日本史上の汚点である – 白井聡|論座 – 朝日新聞社の言論サイト」で批判しています。
加えて嘘やごまかしは、政策的にも行われた疑義が濃厚です。
景気拡大は世界経済とリンクしただけですが、アベノミクスの成果として喧伝されました。
「働き方改革」「一億総活躍」「この道しかない」「瑞穂の国の資本主義」(順不同)など、安倍政権は次々とスローガンを打ち出しました。
しかし実際に実現したものは、ほとんどありません。
成果に乏しいので、スローガンやかけ声でごまかしていました。
検証する人は少なく、空気で「アベノミクスのおかげ! アベノミクスの成果!」と信じ込んでいました。
安倍政権の成果の総括「安倍政権は空っぽで爽快」
安倍政権は経済的側面で、功績はゼロです。道徳的側面では、多くの批判が噴出しています。外交では北方領土に代表されるように、大きく後退をしました。北朝鮮問題は、1mmも進展していません。憲法改正議論は、かけ声倒れでした。
安倍政権が成し遂げたこととは、何でしょうか。
もっとも大きな政策は、消費増税でしょう。2012年時点で5%だった消費税を、二度の増税で倍の10%にしました。
次に移民拡大政策も、大きな変化でした。2012年時点で65万人だった外国人労働者は、2019年に165万人を突破しました。
参照 日本の外国人労働者数は165万人:2019年10月時点、中国人とベトナム人でほぼ半数に | nippon.com
他にはTPP、農協改革、水道事業民営化、種子法改正、IR法案など規制緩和が主体です。
そして安倍政権を支持し続けたのは、日本国民です。
現実否認と空っぽと爽快
もう一度言いましょう。安倍政権を支持し続けたのは、日本国民です。移民拡大や消費増税を許容した、ないし支持したのは日本国民なのです。
安倍総理の支持率は任期中、常に40~50%以上を維持していました。支持率が下がった現在でも、30%ほどです。
国民の支持率が継続して高かったからこそ、憲政史上最長の長期政権化しました。
安倍政権は国民世論に応えるのが、非常に上手でした。国民世論に応えることが民主主義なら、安倍政権は間違いなく民主主義的でした。
では安倍政権が応え続けた国民世論とは、何だったのか?
消費増税許容の本質は「これ以上マズいことになりたくない」です。移民拡大や各種規制緩和は「改革したら何か変わるかもしれない」です。
奥底には「日本がマズという(無意識な)認識と、閉塞感」が存在します。これは現実から目を背けたい、という欲求につながります。
「凋落するという現実を見たくない」が、安倍政権が応え続けた国民世論の正体です。
中国に大きくGDPを追い抜かれ、一人あたりのGDPではアジア各国に追いつかれそう。2000年代には「日本はアジアのリーダーとして!」とか言ってたのが、もはやリーダー面なんてとてもじゃないができない。
2000年代にはまだ「日本は技術立国を目指す!」という主張が、現実味があった。2010年代に入って、日本の技術的優位はほとんど失われつつある。
だからこそ「日本すごいぞ番組」は、日本文化にしかフォーカスできません。
安倍政権が応え続けた国民世論とは「凋落する日本を見たくない、凋落したと認めたくない」です。
「これがアベノミクスの成果です!」とごまかしてあげると、国民が喜んだわけですね。
安倍政権が空っぽだったのは、国民が現実否認をする「空っぽで爽快な存在に成り果てたから」ではないでしょうか。
なお「爽快」とは「現実を否認し続ける限り、嫌な気分にならずに済むこと」です。
右派も左派も現実否認がお好き
左派は安倍政権批判で「安倍政権は独裁的! 安倍政権から民主主義を取り戻す!」などと主張しました。
ところが議論してきたとおり、安倍政権はむしろ世論に応え続けました。高支持率、長期政権化がその証拠です。
左派は「国民が騙されているんだ! 俺たちが目を覚まさせてやる!」と、辻褄合わせをします。
一方、右派は「目覚めよ! 日本人!」とよく言います。今の情けない日本人は、本当の姿ではない。目覚めると俺たちはすごいんだ! として、日本の凋落や情けなさの辻褄合わせをします。
共通しているのは、どちらも現実を否認していることです。
空っぽの安倍政権を支持し続けたのは、紛れもなく日本国民です。安倍政権は民主主義的でした。
現在の日本の凋落は、日本人が目覚めていないことが原因ではありません。単純に20年以上、経済政策を間違え続けるほど「愚かだったこと」が原因です。
日本は左派も右派も、すでになかなか爽快なのです。
なぜこんなに現実否認して、爽快になってしまうのか。「平和主義は貧困への道(著者 佐藤建志)」ではその構造を、しっかりと知ることができます。
まとめ
筆者が総括していて抱いた感想は「なかなか絶望的だなぁ……」です。
「積極財政をすれば、日本の多くの問題が解決する」というのは、正論です。しかし現実否認をしている人たちに、正論を説いても意味がない。
麻薬でラリっている人に、規則正しい生活を説くようなものです。
安倍政権は空っぽでした。だからこそ現実否認したい国民世論に、応え続けることができたのです。
「どうすれば良くなるか」ではなく「どうすれば(解決しなくても)解決した気になるか」が、2010年代の政治の空気でした。
解決した気になりたい人たちに、建設的な議論などできません。
2020年代はどうなるのか? 筆者には、あまり楽観的な未来は見えません。
以下の記事も、安倍政権の政策について網羅的に総括しています。よろしければどうぞ。
個人的に、安倍政権が長期政権たりえた理由として、日米同盟を重視したというのもその一つとしてあるのではないかとも、思いますね・・。
嘘で塗り固められた自衛隊という組織だけでは、現代世界では国防が成り立たないだろうと多くの国民が無意識化で認識しているからこそ、現世界最強国家・アメリカべったりの安倍さんに国民は安心感を得たのではないかと思います。
まず、日本は右派も左派も現実を見ていません。
それが革新的に急上昇したのは、村山内閣ができて左派が自衛隊を合憲と認めたところからだろうと思います。
これによって、左派は国政において嘘を言い続けなければならなくなり、右派は国政において嘘をつかなくてすむようになったのです。
(違憲組織である自衛隊を合憲と言わなければならなくなった嘘と、違憲組織を合憲とうそぶかなくてすむようになった安堵)
これによって右派も、違憲だとわかっているけど、合憲だとうそぶかなければならなかったのを、村山内閣の方針転換によって結果として右派がついていた嘘が本当になったので、その結果、現代では右派は、嘘をついているという自覚さえなくなってしまったのではないかと思うのです。わかっていて嘘をついていたのと、嘘を嘘だと認識さえできなくなってしまったのは認知においては大問題なのではないかと思います。
また、この時まで左派は自衛隊を違憲と言っていましたので、かろうじて日本の言論界隈は正気を保っていましたが、この村山政権から、誰も本当のことを言わなくなったので、日本の言論空間は完全に歪んでしまったのではないかと思います。
つまりは、自衛隊という組織の無理が、ここで完全に露呈してしまったのです。
(注・これは政策的に正しいかという話ではなく、言論的に嘘か真か、言論界隈的に嘘つきか嘘つきではないか、という話をしております)
この村山内閣の転向により、結果として、日本の言論界隈はオール嘘オッケイになったのではないかと思います。
つまりは、日本の言論空間はもはや文字通り右も左も嘘つきしか存在しなくなってしまったのですから、ならば現代の安倍政権が嘘つきだったとしても、それは不思議な話しではないのかもしれません。
また、ある意味ではこの契機が、野党が野党ではなく、今につながる第2自民党と揶揄される野党の最初の転換点ではなかったのではないかとも思います。
国会は基本、現実(与党)VS理想(野党)の戦いで成り立つのではないかとも思いますが、この94年を契機に、現実VS現実の戦いになってしまったのではないかと思います。
そりゃあ、野党も弱くなるし、嘘を認めた言論界隈は総合的に歪むと思います。
ある意味ではその歪みによって生み出された現時点におけるその極致が、安倍政権とも言えたのではないかとも思います。
歪みが是正されるまでは、爽快に生きなければならないのではないでしょうか。
ただ、歪みが是正される契機が来る時があるとすれば、日本はだいぶん危機的状況に陥っているのかもしれませんが・・・。(江戸幕府の鎖国政策という歪み、大日本帝国の不磨の大典である帝国憲法の歪み、その是正にかかわる混乱、外圧。)
ただ、歪みが是正されなければ、もしくは最低でも、歪みを歪みだと人々が正当に理解するようになるまでは、経済的にも倫理的にも、人々が現実を見るようにはなかなかならないんじゃないかとも、思ってしまいます。
なぜなら、歪んでることも認めない国民が、正確な発想ができる気がどうにもしないからです。
妄想(自衛隊を合憲)を事実だと思っている国民に、正しい判断ができるきが、あんまりしないのです。
(これは特に今すぐ改憲しろと言っているわけではありません。せめて最低でも、憲法違反の状態にあるということを、右派も左派も最低限認識しなければならないのではないか、という話です)
ただ、歪みを直視するためには酷い現実に直面しなければなりません・・。
そしてその酷い現実は、望む望まないにかかわらずだいぶん近くまで来ている気がします。
その時は、酷い状態になっていると思いますが、歪みを是正できれば生き残れる気ももしかしたらしますし、できなければ・・場合によっちゃあ滅びるんじゃないかと思います。
(この滅びるんじゃないかというのは、江戸幕府なら鎖国政策をやめることもなく、結果として列強に侵され続け、日本ごと滅びてしまったようなifの未来になります。もしくは鎖国を続けた結果、上記のような展開に実際になってしまった朝鮮王朝みたいな状況でしょうか)
とても興味深い分析です。
もし日本の言論空間が嘘つきしかいないとしたら――正解の可能性が高いですが――、むしろ正直者ほど疎外されることになります。
どこまで行くのか? わかりませんが、次の内閣も見物かもしれません。
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