「国家の安全保障」というと、皆さんはどのようなものをイメージされるでしょうか。
何となく、マスコミが取り上げたり、新聞の見出しに踊るものとしては、主に対外的なもの、つまり戦争や武力行使などをイメージする方が多いのではないでしょうか。
ところが安全保障というものは、もっと幅広い分野を内包しています。
例えば、食糧安全保障と言う言葉を聞いたことはありませんか?
食糧を安定的に確保する、ということは、安全保障のうちに入ります。
なぜなら、食糧は人間が生存する上で必須の物であり、もし食糧が不足してしまえば国民が飢え、死んでしまうからです。
要するに、安全保障というのは国民の生存権・財産権のような、基本的人権を守る、すなわち国民の生命と生活の安全を保障するもの、ということです。
この安全保障は、政府の最も基本的かつ重要な役割です。
つまり、政治の最重要課題と言っても過言ではありません。
本稿では、国民が政治というものを考える上で、最も基本的で重要な事項となる安全保障について、説明していきたいと思います。
国家の階層構造
国家の安全保障を考える上で、極めて分かりやすい「国家の階層構造」モデルを提示したのが、三橋貴明氏です1)2)。
※ 使用するモデルは一部改変しています。オリジナルは下記<参考リンク・書籍>にある三橋氏のブログのリンクをご参照ください。
この図のように、国家の安全保障に関わる階層は、2~3層目に挙げられている部分です。
1層目 国土(領土)
1層目として国土、すなわち森林や平野、海洋、河川などが挙げられています。
国というのは、国土があれば成り立つわけではありません。
国土といっても、そのままではただの荒れ地です。
河川では洪水が発生し、海岸では高潮・津波も起こり、山では土石流が発生するような土地では、人が住むのに危険を伴います。
2層目~3層目、インフラストラクチャー
そのままでは、ただの荒れ地でしかない国土で人が生活するには、人が生活しやすいように、先人たちが公共事業などを通じて築き上げたインフラストラクチャーが必要です。
すなわち水害を防ぐダムや堤防、道路、橋などの交通インフラ、それを繋げる陸路や海路、空路などの交通網、そして電気・ガス・水道などライフライン、食料を生産する田畑や畜産設備(環境)、それらに水を運ぶ用水路などがこれに当たります。
それが2層目、ハードウェア的インフラストラクチャーです。
さらに、これらのハードウェア的インフラストラクチャー、すなわち道路や橋、トンネル、水道管、送電線、ダムや堤防などの設備は、適切に運営・管理・維持されなければなりません。
さらに、必要に応じて補強・増強していかねばなりません。
これを司るのが3層目、ソフトウェア的インフラストラクチャーです。
2層目を維持するための企業や組織、およびそれらが提供するサービスを示すものなので、ソフトウェアと称されます。
〇食料安全保障を司る農業・畜産・水産業、
〇山林を管理して土砂崩れなどの自然災害を防ぎ、資源を提供する林業
〇国民の健康と生命を司る医療
〇外国の軍事力から国民の生命・生活を守る防衛
〇2層目のハードウェア的インフラストラクチャーを直接メンテナンス・管理・補強を行う土木・建設業
〇生活や生産活動に必要なエネルギーとなる電力やガス、化石燃料の供給事業、行政が担う水道事業
〇戸籍の管理や各種の許認可や証明、手続き、治安、消防、社会を運営する上で必要なサービスを司る行政
〇そして、これら国家運営・安全保障に必須なサービス提供を行う人材を育成するための教育
これらの産業、もしくは業種・サービスは、国民生活およびその他の産業・経済活動の土台となるサービスを提供するインフラストラクチャーの一部として機能するモノであり、ソフトウェア的インフラストラクチャーと呼ばれます。
4層目~5層目、その他の産業活動と消費活動
4層目には、3層目以外の産業、自動車や家電製品、生活雑貨などや、その素材となる鉄鋼などを作る製造業、生産された製品を運ぶ運輸業、消費者に直接販売する小売業、銀行などの金融業などが入ります。
国民は、これらのサービスに従事することによって賃金等を介して所得を得、生活する糧とします。
そして、5層目に、国民生活・経済活動が位置付けられます。この場合の経済活動とは、いわゆる消費活動、生活必需品を購入したり、レジャーや娯楽を楽しんだりといった、生活においてなされる経済活動を指します。
このように、私たち国民の生活というのは、幾層もの階層に支えられて維持されています。
3層目、ソフトウェア的インフラストラクチャーの重要性
もちろん、インフラストラクチャー以外の産業、つまり第4層も極めて重要です。
ここが弱ってしまうと、私たちの所得が減り、生活が貧困化してしまうからです。
しかし、この4層目の産業の 中には、技術革新の歴史の中で消えて行ってしまうものもあります。
例えば、インスタントカメラ。
“写ルンです”という商品名で、ある一定以上の年代の方なら懐かしく思う品物ではないでしょうか。
一昔前までは、観光地や駅の売店など、至る所で販売されていましたが、スマホや携帯電話に写真撮影機能が付いてしまった現在では、ほとんど見かけなくなってしまいました(完全に、というわけでもないようですが)。
しかし、3層目の産業・サービスは、技術革新が如何に進もうとも決して無くならない、あるいは無くしてはならない産業です。
何故かと言えば、これらが機能しないと国民生活が立ち行かなくなってしまうからです。
つまり、3層目に位置するソフトウェア的インフラストラクチャーは、政府の名において、どのような事態になっても保護しなければならない不可欠な産業ということができるでしょう。
土台が脆弱化していく日本
日本は毎年のように台風が訪れ、大雨による水害に襲われ、近年では大規模な地震も多発しており、つい先日も台風による送電線の断絶、送電鉄塔の倒壊などによって大規模な停電が広範囲の地域に発生し、現在も完全復旧の目途は立っていません(記事執筆時点)。
こういった、国民生活の安全を確保する土木・建築のような業種・サービスも安全保障に含まれるのです。
政治を考える上で最も重要なことは、何を置いてもまず我々国民の生活の安全を保障することです。
改革改革と喧しい現在の政治ですが、この国民生活の安全保障をないがしろにした改革など、我々国民にとっては百害あって一利も無いのです。
逆に言えば、安全保障について何一つ発言しないような政治家には、票を入れてはいけないと言う事でもあります。
また、政策判断においても、国民の安全保障を損なう恐れのある政策については反対すべきであり、そういった政策を主張する政治家には、やはり票を入れてはいけません。
しかしながら、新自由主義者のレッテル貼りや、彼らの支配された主要メディアのバッシングによって騙された国民は、ここ30年ほどの政治において、改革を叫び安全保障をないがしろにする政治家ばかりに投票してきてしまいました。
その結果が、
南関東大停電の復旧の遅れであり、
西日本豪雨の復興の遅れであり、
北海道地震の復興の遅れであり、
東日本大震災の復興の遅れでもあるわけです。
政治の結果は、確実に出ているのです。
その結果を冷静に判断し、国民は自己の利益というモノをキチンと見極め、選挙権という絶大な権力を行使する必要があるのです。
※この記事は、アメーバブログ「門前小僧、習わぬ今日を読む」2017年12月6日投稿記事を加筆・修正したものです。
<参考リンク・書籍等>
1) 荒廃する日本、繁栄する日本:三橋貴明,アメーバブログ“新世紀のビッグブラザー”.2015-08-17.
2) 後戻りができない道:三橋貴明,アメーバブログ“新世紀のビッグブラザー”.2013-11-25.
3) Vol.35 「国家の階層」論と日本における「レントシーキング」:並木昭憲,Hatena Blog“「雑観」コラム”.2013-10-28.
4)三橋貴明(著):国富新論.扶桑社,2013.
最近、佐波さんと三橋氏でのフロントジャパンを観ていたら、自衛隊はトイレットペーパーすら自腹との話には驚きました。
それや武器兵器を修理するためには他の武器兵器から部品を採って使うしかない、共食い(なんとかと言う名称を忘れた)状態だと言うことにも度胆抜かれました。
もうインフラも自衛も風前の灯です。国際うんぬん(最近国際組織ってどうも可笑しい気がしてなりましぇん)に励むのならば国内政策にももっと考えろっちゅうねんっ!