ラドヤード・キプリングの海山物語 「ジョーンズ青年の寓話」その1|青年は自意識過剰

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『ジャングルブック』『少年キム』で有名な英国のノーベル文学賞作家、ラドヤード・キプリングの短編集『海山物語』の全訳をお届けしております。

 今回からは、「ジョーンズ青年の寓話」。舞台となるのはサセックス州ロッティンディーンの射撃場/ライフルクラブ。これは、ボーア戦争での英国軍の苦戦を見たキプリングが、予測されるドイツとの戦い、ヨーロッパでの大戦争に向けた民間義勇兵の育成のため、1900年に設立したものです。(ちなみに、『シャーロック・ホームズ』で有名なコナン・ドイルも、同様の射撃場を設立したようです。)

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ジョーンズと友人、ライフルクラブを訪れる

 皆さん自身にもおわかりのように、この物語は大戦の数年前に書かれたものである。事実に基づいており、たとえ不愉快で不都合な場合でも、人は事実を知ろうと努めるべきだということを、この物語は示そうとするものである。

 村のライフルクラブの長い倉庫から、無煙火薬と機械油、停止装置のクレオソートによるタマネギ臭が漂っていた。男たちが連なって横たわり、60フィート先の小型標的を撃っているせいである。

 波型鉄板の屋根の下、指導員の声がこだまする。

「引き金をひけ、マシューズ、ひくんだ! 肩を動かしたら当たらんぞ……
ゴードン、銃が左に傾いてる……標的が来たら息を止めろ……
フェンウィック、あれは戯言か? じゃあただのまぐれ当たりだな、最前、二時に撃ったのは外れだよ。どこを撃っているのかもわかっとらんようだ」

「これ退屈だぜ」とジョーンズ青年。友人に連れられて、この催しを見に来ていたのだ。
「どこが面白いんだよ?」

初めてのライフル

「君も撃ってみませんか?」と指導員がたずねた。

「あ~~、どうも」とジョーンズ。
「散弾銃なら、もちろん撃ったことあるんですけど、これは」
――小型のライフルを見て――
「散弾銃っぽくはないですよね?」

「少なくともそうじゃあないな」と友人。

 指導員はジョーンズに弾を手渡した。
 射撃を止めた隊員たちが、こっちを見つめる。
 ジョーンズは赤くなって銃をいじくった。

「やあ! 弾丸のヤツ、どうにか入ったぜ!」と彼は叫んだ。
 ちっぽけな22発の弾が弾倉口を滑り落ちてそこで引っかかり、枠にはまり込んでしまった。
 銃口がふらふらと地平線をさまよう。隊員は一斉に、ほこりっぽいセメントの床へ腰を下ろした。
「ヘアピンを貸してやれ」と仕事中の庭師がささやく。

「銃口を上に向けてください」と指導員が言う。
(銃が床上の男たちの方へ向いていたのだ。)
「弾を込めてあげましょう。
さあ――銃を的の方へ向けておいてください――200ヤード先を撃つんです。
照準は付けましたか? 大丈夫。私が付けましょう。
撃つ時まで引き金には触らないでください」

 ジョーンズはいらいらして汗をかく。指導員が彼を50フィート離れた小さな的へ向けたのだ。

「よく狙って! 的の真ん中を照星の真上に置くんですよ」と指導員が注意する。
「ああッ!」
 ジョーンズ青年はぶつぶつ言いながら肩をグイッとひねって、引き金をひいた。

 的の6フィート上、倉庫の右側の窓に穴が開いてヒビが入る。 牧師館でナイフを磨いていた少年は両手に顔を埋めた。レンガ職人の助手、ジェヴォンズはブーツのひもを締め上げる。王立地理学協会員は屋根を見上げ、村の床屋は軽く口笛。

 ジョーンズは22歳、体重80キロ。こういう青年は逆境に立たされた場合、自分のうまくやれないゲームを受け入れようとはしないものである。

「何だよ、くだらねえ」とジョーンズは言い、顔をぬぐった。

魚のしっぽ

「いやいや、まあまあでしたよ」と指導員。
「とにかく始めてみたわけですからね。もう1回どうです?」

 しかしジョーンズはそれ以上やってみることはしなかった。彼は落ち着きたかったのである。

「でかい射撃場に行こう」と友人が言った。
「向こうじゃあ名人技が見られる。ここは子供や初心者向けだよ」

 ジョーンズが倉庫から離れると、12歳から16歳までの村の少年たちが、射撃用マットの場所をめぐって取っ組み合っていた。風の強い丘を横切って射撃場へ向かう途中、彼はその陽気な性格と裏腹に、沈黙を保ったままだった。

 レンガ職人助手のジェヴォンズと王立地理学協会員の男が小走りに彼のそばを通る――ライフルを運んでいた。

「やっかいな風だ」とジェヴォンズ。
「魚のしっぽだな!」

「魚のしっぽだって?」とジョーンズ。

「ああ! 魚みたいに、とらえどころがないって風さ」と友人。

 落ち着かぬ北東風が向きを変え、遠くの軍用ライフルの悲しげな音が彼らのもとに届く。

「若いうちに一度くらいは」と友人が続ける。
「自分の理解できないゲームでもやってみようってわけだな」

「オレがまたやらかすだろうってのかよ――」
ジョーンズはそう言って立ち止まる。

「心配ご無用! 今回はこの僕、優しいジェヴォンズさんが軍曹にちゃんと言っておくから。
さっきの倉庫での君の腕前をね。撃つのにプレッシャーを感じなくていいんだよ」

距離500ヤード

 彼らの前に、吹きっさらしの裸地が広がった。時折響く銃声がはっきりと聞こえてきて、ジョーンズ青年は耳をそばだてた。

「あのキュンキュンとかウォンって、うっとうしい音は何なんだ?」
 凪の中で彼が言う。

「キュンキュンいうのは谷を横切って飛ぶ弾丸。
ウォンっていうのはそれが的に当たる音さ。的
は白いフタっぽいもので、丘に向かって出たり引っ込んだりする。
あっちで横になってる人たちは、500ヤードの距離から撃ってるんだぜ。
それを見に行くんだ」と友人が言った。

「ここは、雷鳴とどろくゴルフ場ってところだな」とジョーンズは言い、きれいに短く刈られた芝生を大股で歩く。
「どこにボールを置いても悪くない」

「ああ、そうだな」と友人が答える。
「クロッケーとかバスケットボールのコートにだって良さそうだ。
ただピクニックするだけでもな。ま、残念ながら射撃練習場なんだが」

 ジョーンズは疑わしげであったが、何も言わないまま、五百ヤードの射撃場に着いた。

 軍曹は、胸の前の双眼鏡を目に持っていってうなずいたが、それは訪問者たちに対してではなかった。
「どこを狙ってるんだ、ウォルターズ?」と彼は言う。

「的の九時の辺りです」という答えが、太って青ざめた男から返ってきた。
 彼は山高帽をかぶり、ズボンを膝までたくし上げている。
「クサレた風が吹いてやがる!」
 彼はピンと伸びきった吹き流しを指さした。それらは丘陵を巡ってきた旋風にとらえられ、あらゆる角度を指してはためいている。

本職は肉屋です

「俺がやってみよう」と軍曹は言い、後ろのライフルに手を伸ばす。

「ちょっと待った!」と地理学協会員が言う。
「それは六番だ。弾が高めに浮く」

「六番は僕の愛用だ」とジェヴォンズが手を伸ばした。
「九番を取りなよ、軍曹」

「ライフルってのはバットみたいなもんだ」と友人が説明する。
「それぞれ全然違う」

 軍曹が狙いをつける。

「しっかり狙うもんだな」とジョーンズ。

「彼は大抵そうさ」と友人。
「白い皿の的が出たと思ったら、見事命中するよ」

「1クリックじゃ不十分だ」と軍曹。
「低過ぎるし、右に寄り過ぎだ。思い切り大目に見てやっても、だ。
風が谷間をひどく突き抜けて来ている。
照準器をもう三クリック動かせ、ウォルターズ」

 太った男の大きな指が、側面の照準器を繊細に調整する。それまで彼は、訓練された自らの判断力でもって射撃していたが、ライフルの中には風力計が備え付けられたものがある。それを試してみようというわけだ。

「あれは、何をやってるんだ?」とジョーンズ。

「ちょっとわからないかもしれないが」友人が言う。
「このライフルを持ってみなよ。500ヤード先の的がどう見えるか試すんだ。
弾は入ってないけど、おれのどてっぱらには向けるなよ」

「言ってろ! そんな気はねえよ!」とジョーンズ。

「誰もそんなことはしないさ」と友人が答える。
「どんな殺しもそうやって起こるんだからな。
ライフルはオモチャじゃあない。
ただ照準器で見てみるだけだ。大した的じゃあない、だろ?」

「冗談じゃねえ、何てこった!」とジョーンズは言い、畏敬の念をもってウォルターズを見る。

今の射撃を審判が確認する前に、彼は雌牛みたいにヤワな的だと言い放った。(彼の本職は肉屋である。)実際、ど真ん中に命中していた。

「一体、どうやりゃこんなことできるんだ?」

(続く)

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