「日本が「安い国」になった」
そうした記事をときどき見かけます。
「安いんだからいいじゃないか」と思う人も多いでしょう。
物価が高いより安い方が消費者として嬉しいものです。一方、労働者や企業としては安くしか売れないので所得や利益が上がりません。
今回の記事では日本が安い国になった事実をデータから明らかにし、その原因を探ります。くわえて、安い国になるとなぜダメなのかを解説します。
その過程で恐るべき異常事態が明らかになります。
「安い国」とはどういうこと?
安い国は何が安いのか? 物価です。
日本が安い国になったと言われている背景には、物価が諸外国と比べて安いことがあります。
物価が安いことはよいことに聞こえます。
ミクロや個人で見れば、物価が安いことは嬉しいですよね。安く食事ができますし、ものが安く買えます。
しかし、経済全体で見ると物価が安いことは必ずしも善ではありません。
物価が安い=企業が値上げできない=利益が上げられない=人件費が削減気味、となります。
物価の安い国は人件費も安くなります。人件費とは私たちの所得。
つまり、安い国は所得も安いのです。
安い国「日本」の実情とデータ
実際のデータから日本が安い国になっている実情を見ていきます。データをまとめていると鬱になりそうです。
安い国「日本」は所得が停滞ないし下落
上記の図は厚生労働省発表のものです。
全世帯で見ると1994年に664万円だった平均年収は、2015年に545万円にまで下落しています。その差額はなんと119万円!
世帯ではなく個人での平均年収も下落しています。1997年(平成9年)に467万円だった平均年収は2014年(平成26年)に415万円と52万円も下落しています。
2019年の平均年収は436万円とやや回復しているものの、それでもピーク時に比べて31万円も減少しています。
データ分析の記事に定評のある小川製作所によれば、21世紀に入って日本の所得は0.94倍。一方、アメリカは1.62倍、イギリスは1.6倍、フランス1.5倍、ドイツ1.45倍、イタリア1.39倍となっています。
なお、韓国は非常に伸びています。
1人当たり実質購買力平価GDPにおいて日本は韓国に追い抜かれました。
所得が停滞・下落しているので宜なるかな。
日本だけ所得が下がり、世界各国の所得は伸びています。
所得の「安い国」日本になってしまっています。
日本はもっともダイソーが安い国
世界各国に展開しているダイソーは日本で100円ショップとして有名です。
ダイソーが世界で提供している価格は以下となります。
- タイ 210円
- シンガポール 160円
- オーストラリア 220円
- アメリカ 160円
- ブラジル 150円
- 日本 100円
なお、ダイソーが100円ショップとして価格を決定したのは1977年です。そして、未だに税抜き100円で提供しています。
44年間、およそ半世紀も価格が変わらないのは異状です。
ダイソーによればタイにおいて210円で提供してもよく売れるとのこと。
所得が上がってきているのだそうです。
100円ショップからも「安い国」日本の現状が見えてきます。
サンフランシスコの低所得が日本の高所得
アメリカのサンフランシスコでは年収1300万円が低所得に分類されます。中藤 玲の著書「安いニッポン 「価格」が示す停滞」によれば、サンフランシスコの外食は1日3食で優に1万円かかるそうです。
「サンフランシスコと比較するなら、港区じゃないと!」という意見があったため、港区との比較がされています。
港区の平均所得は1200万円で、サンフランシスコでは低所得に分類される程度だったそうです。
サンフランシスコの例は極端としても、例外ではありません。
近年、インバウンドで日本は盛り上がっていました。
インバウンドに来る理由は「日本が魅力的」「いい国だから」もあります。しかし、もっとも大きな理由は「安いから」「コスパがいいから」です。
一昔前、日本人がタイ旅行を「安い!」と喜んでいた感覚と一緒です。
いつの間にか日本は安い国になっていたのです。
ビッグマック指数のランキング低下が進む
ビッグマック指数はその国の物価を知るのに、厳密ではありませんが手軽な数字です。
ビッグマック指数が安い国は物価が安く、海外旅行として割安な行き先です。
ビッグマックはどの国でも調理法や材料がほぼ一緒です。そのビッグマックの商品の価格で、各国の物価水準や為替相場の比較を行うのがビッグマック指数です。
2000年のビッグマック指数で日本は世界5位でした。
しかし、2021年のデータでは56カ国中、24位になっています。
かつて「高い国」の代名詞だった日本。
現在では「安い国」の仲間入りを果たしたのです。
日本が安い国になる弊害
「物価が安くて清潔、それでいて犯罪率も少なく安全。いい国じゃないか! 物価が安くて何が悪いんだ!」
こんな反論があるかもしれません。
けれど、物価が安い国は所得も安いのです。くわえて、企業価値も安くなります。
たとえば、シャープは台湾の鴻海精密工業の傘下に入りました。東芝の外資の草刈り場にされています。パナソニックはかつての勢いがありません。
「安いニッポン 「価格」が示す停滞」によれば技術を持った中小企業が外資に買われているようです。
北海道のニセコで5カ所あるスキー場のうち、3カ所は海外企業による運営です。
安い国となると経済安全保障が脆弱になり、企業が外資に買われます。
くわえて、安くしか売れない=人件費の原資である利益が上がらないので所得が上がりません。
そのうち、冗談ではなく「海外で出稼ぎした方が稼げる」なんて時代が来るかもしれませんね。
日本が安い国になった原因はデフレ
日本がなぜこんなに安い国になったのか? 答えは「デフレだから」です。
デフレは物価を下落させます。
物価が下落し、市場競争が激しくなるため企業は値上げできません。
シェア争いや市場競争で企業はコストカットに走ります。
コストの中には人件費も含まれます。
したがって、物価下落以上の速度で所得が下落します。
こうしてデフレは安い国「日本」を作り上げたのです。
財務省によれば1990年代の国民負担率は約35%でした。
ところが、2018年の国民負担率は42.5%に跳ね上がっています。
1998年より日本はデフレに突入しましたが、その間も日本は増税していたのです。これでデフレ脱却できたら奇跡です。
日本はデフレを継続するべくして継続しています。
なお、「安いニッポン 「価格」が示す停滞」ではインサイトテックとの共同アンケート調査を取り上げています。
これによれば「デフレや物価が安いことを歓迎すべきだ」が28%、「よくないと思う」が15%、「どちらとも思わない」が58%でした。
さらに、「【データ】コロナ禍での財政支出に関する世論調査 」によれば「コロナ禍で国の支出増大に危機感を感じる?」という設問に「はい」が8割、「いいえ」が2割でした。
つまり、世論はデフレを歓迎し、緊縮財政を支持していると解釈できます。
日本は民意によって「安い国」を目指しているとすら考えられます。
この異常事態はただ事ではありません。
まとめ
日本は安い国になりました。インバウンドが好調だったのがその証拠。
多くの外国人が「日本は安くてコスパがいい!」と思っています。
日本人の所得は四半世紀近く上がっていません。
他の国は21世紀になってから1.5倍程度になっています。
どうして日本は安い国になったのか? デフレだからです。
どうしてデフレなのか? 積極財政をせず、増税や緊縮財政を繰り返すからです。
その政策を誰が支持しているのか? まごうことなき日本国民です。
もし、転換を願うなら世論に訴えかける必要があります。
「財務省が悪い!」「政治家が悪い!」というのは間違い。むしろ、官僚や政治家は世論に従っていると見るべきでしょう。
この異常事態、並大抵では転換しません。