「日本に生まれてラッキー」「日本の社会保障は充実している」という言説があります。一方、コロナ禍では日本のセーフティーネットの薄さが指摘されました。
菅総理は「最終的には生活保護がある」と言いましたが、ほとんど頼るものが生活保護しかない現状が明らかになりました。
日本の社会保障は充実しているのか? それともしていないのか? 今回は海外と社会保障給付費対GDP比を比較します。
くわえて、国民負担率とのバランスや「税は財源か」という部分にまで踏み込んで議論します。
結論を先に言います。
日本の社会保障は海外と比べて低めです。急激な高齢化が進んでいるにもかかわらずです。
日本の社会保障は拡大できる余地が十分にあることも付言します。
社会保障給付費とは
社会保障給付費とは医療・年金・福祉その他の社会保障3分野で、税金や保険料、国債を財源とした費用のことです。これらを国際労働機関の基準で集計したものを社会保障給付費と呼びます。
福祉その他の分野には生活保護や介護などが含まれます。医療費の分野で自己負担額は社会保障給付費に含まれません。
日本の社会保障給付費は年々増え続けており、2020年には126兆8000億円に達しています。
上記のグラフの内訳を参照しましょう。1990年と2020年を比較すると「年金が23兆円から57兆円」「医療が18兆円から40兆円」「福祉その他が5兆円から28兆円」と増大していることがわかります。
急激に進む高齢化のため、社会保障給付費が急増しています。
社会保障給付費のGDP比の意味
社会保障給付費をGDP比で比較すると、その国がどれだけ社会保障の充実に力を入れているかがわかります。もしくは、高齢化などのやむを得ない事情で社会保障給付費が増大しているなどのケースもあります。
日本の場合、急激な高齢化によって社会保障費が急増しています。この事情を考えれば、日本の社会保障給付費対GDP比は高くなるはずです。
次に、実際の社会保障給付費対GDP比の国際比較を確認しましょう。
社会保障給付費のGDP比を海外と比較
日本の社会保障給付費対GDP比はOECD平均よりやや上で、欧米よりも低いことがわかります。先進国の中ではもっとも低いです。
高齢化は社会保障給付費を大きく左右します。
上記2015年の社会保障給付費対GDP比で日本は22.4%ですが、1993年のデータでは11.9%に過ぎません。高齢化が進む前の日本の社会保障はとても低い水準でした。
高齢化が進んでようやく、他国と同レベルの社会保障給付費対GDP比となりました。
これ自体、日本の社会保障が他国に比べて低いレベルであることを示しています。
国民負担率と社会保障給付費
「日本は中負担・中福祉国家なんだ!」という反論があるかもしれません。実際に国民負担率を参照すると、国民負担率に比べて日本の社会保障は高い水準に感じます。
国民負担率とは、税負担と社会保障負担を合わせた義務的な公的負担の所得に対する比率を指します。要するに、所得からいくら税金と社会保険料を持って行かれるかを示しています。
上記のグラフを参照すると、日本の国民負担率は下から数えた方が早く、低い方です。
中負担・中福祉というより、グラフだけ参照すれば低負担・中福祉国家とすら言えます。
「税が財源」という考え方なら、確かに低負担・中福祉国家と考えられます。
しかし、最新の経済学であるMMTでは、税は財源とは考えられていません。
つまり、税を取って社会保障にあてるという理路が成り立ちません。
「税は財源ではない」という考え方で、日本の姿はどのように映るのでしょうか。
デフレと政府支出
税は財源ではないという考え方を、MMTではスペンディングファーストと呼びます。日本語では「政府支出が先」を意味します。
たとえば、2020年度の所得税は2021年3月の確定申告で徴税されます。では、2020年度の予算は2021年3月まで執行できなかったでしょうか? 答えはNOです。
これは、所得税を徴税していないのに予算が執行できることを示しています。
徴税より、政府支出が先に行われているのです。
くわえて、自国通貨建て国債ではデフォルトしません。自国通貨建て国債は理論上、無制限に発行できます。自国通貨建て国債を制限するのはインフレのみです。
税は財源ではなく、インフレやデフレの調整弁として機能しています。
重税を課せば消費できなくなり、需要<供給の状態でデフレとなります。逆に減税すれば消費が旺盛になり需要>供給とインフレになりやすいでしょう。
税とは、インフレ・デフレを調整するためのものです。
したがって、日本がデフレであるなら「国民負担率が高い、もしくは社会保障給付費など政府支出が少ない」と考えられます。
日本は今のレベルの社会保障を維持するなら、国民負担率を引き下げることができます。国民負担率を維持するなら、社会保障を充実させられるでしょう。
個人的には国民負担率をこのままに、社会保障の充実を図るのがいいと考えます。
まとめ
日本の社会保障給付費は高齢化とともに急増しました。しかし、高齢化前は非常に低い水準であり、高齢化してようやくOECD平均となりました。
このこと自体、日本の社会保障の質が低いことを示しています。
社会保障給付費対GDP比と国民負担率を参照すると、日本は低負担・中福祉国家と言えました。しかし、それは財源が税であると考えるならという話です。
MMTに則れば、日本は過剰なインフレにならない限り財政を拡大できます。
国民負担率を上げずに社会保障を充実させることが可能です。
日本の社会保障は高齢化が進んでいるにもかかわらず、欧米に比べて充実していません。
「日本に生まれてラッキー」「日本は社会保障が充実している」は事実ではなかったのです。
このご時世でも財政制度等審議会が「骨太の方針」とやらを言い出しました。より一層社会保障費を削る気でいるんでしょうか。
国民への福祉を出し渋って何が「骨太」なのか。PB黒字化が必要だという言い分って全く腑に落ちないんですよね。「将来世代に負担を押し付けないため」のようなことも言っていた気もしましたが、実際には将来へ負担を押し付けていますよね。
増え続ける社会保障を削減し、デフレを継続させることが「骨太の方針」とやらなのでは。
>実際には将来へ負担を押し付けていますよね。
その通りです。
久しぶりにMMT(新貨幣論でしたかね?)について論述があり、「おっ」と思いました。MMTが経済の基本になれば、日本の今の惨状は改善できるのですが。
>MMTが経済の基本になれば、日本の今の惨状は改善できるのですが。
なってほしいものですね~。
社会保障のGDP比が高いのは、デフレで分母のGDPが低すぎなのも原因かもですねー
あるかもですね~。