昨今の“収入安・物価高”に国民の血管もブチ切れそうになっていますが、国民には一銭たりともカネを渡したくない増税緊縮派の面々は、あれやこれやと屁理屈をこねて財出拡大の邪魔をしています。
「日本は世界最悪の借金大国だ~」
「国債は国の借金だ。これ以上次世代へのツケ回しをするな~」
「円の信認は地に堕ちハイパーインフレになる~」
というのが彼らの常套句でした。
しかし、「国債は政府の債務であって国民にとっては資産でしかない」、「通貨発行権によって円建て国債の償還は100%保証されている」といった経済常識が徐々に浸透したこともあり、彼らの詭弁も通用力を失い、ネットニュースのコメ欄でも、増税緊縮派の妄想が袋叩きに遭うことも珍しくありません。
こうした世情を察したのか、彼らは新たな詭弁を持ち出すようになりました。
それが、“日銀のB/S毀損リスク”です。
『「家計の値上げ許容度も高まってきている」日銀総裁がそんなことを言う必要があった本当の理由~日銀のバランスシートから見える「黒田発言の真意」』
(小宮一慶/小宮コンサルタンツ会長CEO)
https://president.jp/articles/-/58678
「(略) 経済規模から見た場合に日銀はとてつもなく大きな資産を抱えているということになります。その中でも目を引くのが国債です。3月末で526兆円の残高があります。図表1にはありませんが、そのうち511兆円が長期国債です。2013年4月に始まったアベノミクスの「異次元緩和」により、日銀は主に民間金融機関が保有する国債を買い上げることで、資金の大量の供給を行ったのです。(略)
負債の部には、「発行銀行券」として120兆円弱が計上されていますが、日銀券も民間銀行から預かっている当座預金も、日銀にとっては負債となります。(略)
日銀の資本金は1億円です。純資産の大半を占めているのが、法定準備金で3兆4000億円弱あります。また、当期剰余金が1兆3000億円ほどあり、純資産の合計は4兆7000億円です。一般企業と同じ基準で「自己資本比率(純資産÷資産)」を計算すると、0.6%程度で極めて低い数字です。(略)
大きな問題は、国債を大量に保有していることです。先ほども述べたように、3月末時点で526兆円です。なぜ、国債を大量に保有することが日銀にとって好ましくないかというと、国債は価格変動をするからです。価格が上がれば良いですが、価格が下落したときには、たとえ含み損と言っても場合によっては実質債務超過になることがあるからです。(略)
日銀が保有する国債の大部分は長期債ですから、金利が上昇すると1年物より大きな価格の下落が起こり、含み損が膨らむということになります。先ほど、日銀の純資産は4兆7000億円と説明しましたが、526兆円もの国債を抱える日銀は金利上昇が起これば、国債価格の含み損が純資産を超え、「実質債務超過」ということにもなりかねないのです。
皆さんは1万円札を1万円の価値があると信じて使っていると思います。当たり前の話で、それは日銀に信用があるからです。しかし、日銀に信用がなくなれば、紙幣はただの紙切れになる可能性があります。(略)」
小宮氏の主張を掻い摘んでみると、
「日銀の保有資産額は純資産に比べて異様なほど大き過ぎ、自己資本比率が低過ぎるのは問題だ」
「日銀券は当座預金同様、日銀にとって負債だ」
「日銀の保有資産の大部分は長期国債であり、今後の金利上昇による評価損で日銀が債務超過に陥ってしまう」
「国民が日銀券の価値を認めるのは日銀の信用力のおかげであり、日銀が債務超過になると紙幣の価値が暴落する」
といったところでしょうか。
私は、以前から政府や日銀を財務会計の観点から分析したり、資産・負債のバランスシート上に落とし込んだりするのを無意味で無駄な行為だと主張してきました。
世の中に存在するあらゆる“資産”や“負債”とは、突き詰めると「お金=貨幣(通貨・紙幣)」に帰結します。
国内の資産や負債というものは、すべて“円”という通貨単位に換算され、例外なく“貨幣”という概念に縛られます。
ならば、通貨の製造元であり発行機関である政府・日銀を企業会計の概念に押し込めたり、円という貨幣そのものをそれら機関の負債や債務だと言い立てたりすることが、いかに無意味であるかを理解できると思います。
私に言わせると、日銀のB/Sがアンバランスだとか大き過ぎるとか騒ぐこと自体が滑稽でしかありません。
紙幣の発行機関である日銀の純資産額が小さ過ぎ、金利上昇=保有国債の評価減によって債務超過になるなんてビビるなど笑止千万の愚行です。
日銀の純資産が小さ過ぎるなら、政府がドンと数千兆くらいの政府紙幣を製造して出資すれば済む話ですし、そもそも、B/Sを作る必要などないのです。
さらに、彼の言説の誤りを指摘しておくと、日銀券にしろ、政府発行の硬貨(=政府紙幣)にしろ、いずれも日銀や政府の負債や債務ではありません。
日銀はB/S上で日銀券を負債勘定に計上していますが、対になる資産勘定を見てください。
なんと、「現金」が資産として計上されているじゃありませんか!
えっ、「現金」と「発行銀行券(日銀券=紙幣)」って、いったい何が違うんですかね?
現金は硬貨だろ、銀行券(紙幣)とは違うだろ!というバカな反論を聞く気などありません。
それなら、一般企業のB/Sの資産勘定に、硬貨も紙幣も現金として計上されているのはどういうことですか?と問い詰めるだけです。
お金(貨幣・通貨)は、硬貨であれ紙幣であれ、政府・日銀の負債や債務ではありません。
なにせ、それらを政府や日銀に持ち込んで「オイっ、お前らの借金を清算しろ!」と怒鳴り込んでも、お役人は何も支払ってはくれません。
たぶん、警備員につまみ出されて恥をかくだけです。
貨幣が債権・債務、資産・負債の象徴として機能するのは、民間経済においてのみであり、その発行権限を有する政府・日銀にとっては、実体経済の活力を保つための単なる道具でしかありません。
もう一点、小宮氏の過ちを指摘しておきましょう。
彼は、「皆さんは1万円札を1万円の価値があると信じて使っていると思います。当たり前の話で、それは日銀に信用があるからです。しかし、日銀に信用がなくなれば、紙幣はただの紙切れになる可能性があります」と述べていますが、いったい何を根拠に、「紙幣の信用力=日銀の信用」という図式を主張しているのでしょうか?
彼が例に挙げた一万円札は、国民なら誰もが欲しがる、国内にあるあらゆる物品やサービスの頂点に君臨する最強ツールだと断言できます。
では、国民は一万円札の何に期待してそれを欲するのでしょうか?
答えは「日本政府が発行する法定通貨だから」という極めて単純な理由でしかありません。
日本は借金大国だの、衰退国家だのと揶揄されて久しいですが、かといって、我が国を尻目にグングン成長する欧米諸国が使うドルやユーロを誰もが欲しがるかといえば、そんなことはありません。
国内で買い物する際にドルやユーロはほぼ使い物になりませんし、ましてやゴールドなんて重たいものを持っていても、アイスクリーム一つ買えませんからね。
小宮氏は「紙幣の信用力=日銀の信用」なんて言ってますが、殆どの国民は造幣局と国立印刷局との違いすら知りませんし、日銀のB/Sをチェックして資本金額や純資産額がいくらかなんて知ってる人間は結構変わり者の類いだと思いますよ。
現実世界では、99.9%の国民が「日銀の財務事情も知らないし知りたいとも思っていないのに、「紙幣の信用力=日銀の信用」なんて公式が成り立つと主張するのは、あまりにも根拠が無さ過ぎでお話になりません。
お金(貨幣)なんて、政府・日銀の手に掛かればほぼ無限に製造できる便利なツールでしかないのですから、そんなものを出し惜しみして実体経済を干上がらせるなど愚策中の愚策です。
政府は貨幣をどんどん発行し、事業や減税、給付金として民間経済に供与し、家計や企業のやる気を鼓舞せねばなりません。
所得増加を通じた消費や需要の活性化によって国内の生産力や供給力は絶え間なく強化され、日本の国富は強靭化するのです。
貨幣は貯めたり出し惜しんだりするためにあるのではなく、積極意的に扱き使うことでその効力を最大限に発揮するモノなのです。