私は日常品のちょっとした買い物でよく100円ショップを利用します。
このご時世に100円の売価で数え切れないほど多くのアイテムを揃える経営努力には敬意を表したいのですが、モノの品質はやはり価格相応というか、100円の価値にすら満たない粗悪品も多いですね。
ですが、ごみ袋や文具、食器類やストックバッグなど、捨ててもよいモノや壊れてもよい消耗品の類いを買うにはとても重宝します。
いまや国民にとってコンビニ以上に身近で便利な存在となった百均ですが、数年前から300円とか500円の商品が増え、中には1000円超といった百均の枠を超える“高額アイテム”が陳列棚で大きな面積を占めるようになっており、特に業界最大手のダイソーでそれが目立ちますね。
製造工場がある中国ほかの人件費や原材料費の高騰、輸送コストの高止まり、為替の円安に加えて、度重なる消費税引き上げ等々、百均を取り巻くコスト環境は非常に厳しいモノであろうことは容易に想像がつきます。
ですが、これだけ100円超の商品アイテムが増えてくると、一般消費者にとっての百均の存在価値が薄れかねません。
消費者は、企業側が抱える深い事情や悩みなんてまったく考慮せず、単なる他人事でしかありませんから、100円超のアイテムの占有割合が売り場の4割を超える辺りで、「これって、もう百均じゃないよね?3COINSとかスーパーや雑貨屋と何が違うの?」と呆れられ、飽きられてしまうでしょう。
『インフレ経済突入で100円ショップを襲う大異変、各社「生き残り戦略」の見通し』(鈴木貴博/百年コンサルティング代表)
https://diamond.jp/articles/-/295249?page=1
「庶民の味方、100円ショップ(以下、100均)に大異変が起きそうです。原因はコロナ禍とともに進行しているインフレです。原油高でガソリン価格が上がっているのは皆さんお気付きだと思いますが、原油が上がれば当然プラスチックの価格も上がります。ウィズコロナで世界の工場の稼働が鈍化している関係で、物不足も広がっています。
そして困ったことに、そこに円安が加わりました。1年前は1ドル=104円近辺だった円ドル相場が、直近では1ドル=115円近辺と1割も円が安くなっています。輸入品が中心の100円ショップの仕入れ価格は、為替だけで1割高くなってしまった形です。さらに言えば、消費税も既に10%へ値上がり(!)と、すべての経済指標がデフレからインフレへと変わり始めています。(略)
100均商品の仕入れ値が今後、継続的に上昇していくと仮定した場合、100均各社はどのような戦略を取るべきなのでしょうか? 具体例を見ていきたいと思います。
イオンがこの1月5日、100均業界第3位のキャンドゥの過半数の株式を取得して、子会社化しました。(略)キャンドゥではこれと並行して、高額商品ラインの拡充に取り組んでいます。200円から500円の商品を増やしていくだけでなく、今年4月までに商品の最高価格を1500円まで引き上げる方針です。(略)
コンビニ3強の中で唯一100円ショップ業態を持っているのがローソンです。(略)さて、このローソンストア100ですが、最近鮮明になってきた新しい戦略は、私の目から見れば「脱100均」に向かっているようです。他の100均競合が200円商品や300円商品を増やし始めた時期に、ローソンストア100はなぜか「きりの悪い価格設定の商品」の導入を推し進めました。キユーピーマヨネーズやカップヌードルなど、有名ブランドの商品を267円とか158円といった具合に、普通の価格設定で棚に置き始めたのです。(略)」
上記のコラムで鈴木氏が紹介したキャンドゥやローソンストア100の事例は、製造・仕入コストアップへの対抗策として、更なるコストカットではなく高額アイテムの導入や値上げにより、新たな売り場コンセプトづくりを打ち出して事態の打開を図ろうとするです。
鈴木氏は、こうした動きを「(非正規労働者などコンビニを“手の届くぜいたく”と捉える低所得者層)社会のニーズとして求められるコンビニよりもやや平均価格帯が低い新業態」を提案するものだと評価していますが、私には同意できません。
元々、百均が社会に受け容れられた最大の要因は、「100円という低価格」と「均一価格という利便性」にあり、それこそが百均の原点であり企業コンセプトそのものだったはず。
ダイソーを始め、キャンドゥやローソンストア100の新戦略は、こうした“企業コンセプトから外れる行為”であり、“自らの存在を全否定する行為”でしかありません。
企業とは不思議なもので、時代の変遷とか経営環境の変化を言い訳にして創業の原点やコンセプトを粗末にし、ぞんざいに扱った途端、迷走を始めてファンや消費者の支持を失いがちです。
とはいえ、製造や商品調達コストがこれだけ高騰している以上、100円という低価格を維持しがたい事情はよく理解できます。
それならば、せめてもう一つのコンセプトである“均一価格”という利便性の高いサービスだけは絶対に死守すべきです。
一方、販売アイテムの価格帯は200円、300円辺りに設定せざるを得ないでしょうが、陳列する商品群がこれまでの倍や三倍の価格に跳ね上がる以上、消費者に新たな価値を提供し納得してもらわねばならないし、競合相手もコンビニ、スーパー、HC、DSなどツワモノ揃いのレッドオーシャンマーケットに殴り込みを掛けざるを得なくなります。
そうした飽和気味で競争も激しい市場で生き残っていくためには、価格競争や品揃えの充実という手段は通用しそうにありません。
それらは既に競合相手のストロングポイントであり、中途半端な店舗面積と商品知識しか持っていない後発組の百均には、どう考えてもウィークポイントにしかなりません。
“100円商品の提供”という金看板を捨てざるを得ないなら、200円、300円の商品を受け容れてくれるマーケットの規模をいまより拡大させ、そこに自分たちが居座る場所を確保するしかないでしょう。
つまり、百均が提供してきたサービスが「二百均、三百均」に変化しても易々と受け容れてくれるような消費者群を急激に増やしていく必要があるということです。
そのためには、コンビニでの買い物を“贅沢視”するような低所得層を全員中所得層に引き上げるくらい気合の入った経済政策が欠かせません。
ほぼ定価売りのコンビニ商品を誰もが気兼ねなく躊躇なく買えるような経済環境、一般庶民が値段よりも時間や利便性を優先するような生活を当たり前にせねば、百均業界の将来は暗澹たるものになるでしょう。
百均が採るべき生き残り戦略は、消費者の懐を肥やし、自分たちの商売環境が楽になるような政策(家計所得増+減税+社保負担減)を政府に訴えることであり、それは小売業界全体に共通する課題です。
小売業界のトップらは、これまでも消費税増税に強い態度で反対せず、逆に増税必要論を説く馬鹿者さえいましたが、自分たちに富をもたらしてくれるお客様の懐を豊かにする政策を政府に訴え続けることが、小売業界にとって最強の生き残り戦略となるはずです。