我々は時代の転換点に生きている――。
コロナ禍によってさまざまな価値観が転換しています。
政治においては財政政策の価値観が180度変わりました。
1980年代から始まった新自由主義という経済イデオロギーが幕を下ろし、積極財政の時代が幕を開けたのかもしれません。
その証拠に日本でも財政政策検討本部が置かれ、積極財政が声高に議論されています。
くわえて、2020年度175兆円、2021年度142兆円という巨大な政府支出も実現しました。
本日は、自民党政権が積極財政に舵を切った理由や背景について解説します。
自民党の財政政策検討本部が積極財政を推進
岸田政権になってから自民党の財政政策検討本部が設立され、部長に西田昌司、顧問に高市早苗、最高顧問に安倍晋三が就任しました。
この人事は財政政策検討本部が積極財政に舵を切ったサインとされ、さまざまなところで報じられています。
たとえば、朝日デジタルは「財政議論の最高顧問に安倍元首相 再建派は風前のともしび」、時事通信は「財政健全化目標に修正圧力 参院選意識、歳出増の声止まらず」などと報じています。
もともとの財政再建推進本部から改組され、財政政策検討本部と命名されました。
「再建推進」の4文字が削られたのは大きな意味を持ちます。
「財政再建推進」は財政再建や財政規律、PB黒字化といったものを連想させたからです。
報道では自民党がまるで積極財政一色かのように報じられています。
一体どのような背景や理由でこうなったのでしょうか?
積極財政へのパラダイムシフトはなぜ起こった?
自民党の積極財政への転進には、世界的な積極財政へのパラダイムシフトが関わっています。
現在、世界的にコロナ禍で多くの被害が発生しています。
コロナ禍は戦争のメタファーで語られるほど大きな災禍であり、各国ともに国を挙げて対策しています。
コロナ禍で被害を受けた企業への補償や補填、個人への給付金などが各国で行われています。
コロナ禍によって、経済イデオロギーである「小さな政府」「新自由主義」より経済安全保障が優先されました。
こうして、各国とも積極財政に舵を切りました。
積極財政に舵を切った理由はほかにもあります。
たとえば、アメリカのイエレン財務長官は負の履歴効果を主張しています。
負の履歴効果とは、何らかのショックが起きて経済が不景気になると、供給までもが傷付いてダメージを負い、長期的に経済が停滞してしまう現象を指します。
この負の履歴効果状態に陥らないために、イエレン財務長官は高圧経済が望ましいとしています。
高圧経済とは、常に財政出動することで需給関係をタイトにし、供給を刺激し続ける経済政策です。
実際に、コロナ禍によって長期停滞を招かないよう、各国はダメージを軽減すべく積極財政を行っています。
さらにほかの理由として、アメリカが中国の台頭を警戒していることも挙げられます。
中国はグローバル化した世界で台頭しはじめ、最近では積極財政に舵を切っています。
中国は本質的に覇権国家であり、最終的にはアメリカの覇権にチャレンジするかもしれません。
同じく覇権国家であるアメリカは中国の台頭を警戒し、国内産業の保護や経済安全保障政策を進めています。
中国の台頭への警戒や経済安全保障の重視は、積極財政につながります。
日本にも波及した積極財政の波
アメリカではバイデン大統領が200兆円の財政出動を行っています。
この200兆円の予算の中身は、アメリカ国民への1400ドルの給付、失業保険の追加給付、ワクチン供給、コロナ対策といった内容です。
他方、EUでは財政規律のルールが凍結されて、EU加盟国は財政規律に縛られることなく柔軟に財政政策を行えるようになりました。
財政規律のルールが適用再開されるのは2023年以降になる見通しです。
中国はもともと積極財政を推進していました。
たとえば、2020年に「一段の積極財政が必要」と中国の財政相が発言して注目を集めています。
日本においても安倍政権が2020年度2次補正予算まで成立させ、菅政権では2020年度3次補正予算が成立しました。
岸田政権では2021年度補正予算が可決されています。
それぞれ、2020年度は175兆円、2021年度は142兆円の政府支出でした。
現在、コロナ禍を理由に世界各国において積極財政が採用されています。
こうした背景から、自民党では積極財政派が発言力を持ち、財政政策検討本部も積極財政一色に染まっているのだと考えられます。
積極財政へのパラダイムシフトは後戻りしないか?
積極財政へのパラダイムシフトは起き始めたばかりであり、後戻りしないとは限りません。
積極財政へのパラダイムシフトの大きな要因はコロナ禍です。
コロナ禍が収まれば積極財政へのパラダイムシフトが後戻りし、再び新自由主義になるかもしれません。
日本国内では連日、マスメディアが「巨額の政府支出!」「バラマキ!」と報じています。
矢野事務次官の論文もありました。
日本では未だに古い主流派経済学の見解が大勢を占めており、財政破綻論が幅を利かせています。
こういった反発は見られるものの、今のところ政治が緊縮財政に逆戻りする兆しはありません。
第2次世界大戦で膨らんだ予算は、戦後、社会保障に置き換えられました。
こうした現象を「置き換え効果」と呼びます。
コロナ禍で膨らんだ政府支出も、コロナ禍が終わるとともに何か別のものに置き換わる可能性があります。
まだ完全に先は見通せませんが、積極財政派にとって主張が通りやすい世の中がすぐそこにきています。
まとめ
自民党の財政政策検討本部は積極財政の牙城と目されています。
確かに、部長に西田昌司、顧問に高市早苗、最高顧問に安倍晋三という布陣です。
なお、余談ですが私の中で安倍晋三は消費増税を2回もやった「緊縮財政派」だったはずなのですが――。
閑話休題。
なぜ、自民党が積極財政一色になっているのか? 世界的な積極財政へのパラダイムシフトが背景にあります。
アメリカは200兆円の財政支出。
EUは財政規律のルールを凍結。
中国は積極財政をさらに加速させました。
コロナ禍によって経済イデオロギーである新自由主義より、経済安全保障を優先せざるを得なかった結果です。
そして、日本も例外ではありませんでした。
積極財政へのパラダイムシフトが新自由主義を打ち破るかもしれません。
我々はまさに、時代の転換点に生きています。
しっかりと、このパラダイムシフトを目に焼き付けましょう。