林千勝氏の新著『ザ・ロスチャイルド』を読みました。
国際金融資本の代表と言うべき、ロスチャイルド家。
18世紀から20世紀初めまで、彼らの興隆と術策の歴史をつづった本です。
(続巻が予定されているようです)
今回はその第1、2章を参考に、彼らのやり口を紹介してみたいと思います。
JPモルガン、ゴールドマン・サックスといった国際金融資本は、現代の世界経済・国際政治に大きな影響力を持ちつつ、大きな収益を得ています。
彼らの手法・あり方を知っておくことは、経世済民を考える上で役に立つのではないでしょうか。
ユダヤの大資本家ロスチャイルドというと、「はい陰謀論~」「信じるか、信じないか(笑)」という反応が出そうですが、そういう本ではありません。
「イルミナティ」「プロトコル」といった話は一切なし、カネと政治、そして歴史の本です。
かのデヴィッド・アトキンソン氏の在籍したソロモン・ブラザースやゴールドマン・サックスの親玉たる、ロスチャイルド家の手練手管がまとめられています。
初代マイアーの成り上がり金融道
資本家としてのロスチャイルド家、その初代はマイアー。
ヨーロッパの自由都市フランクフルト(現ドイツ)出身で、18世紀半ばから19世紀初頭を生きた人物です。
キリスト教社会のヨーロッパで、異教徒のユダヤ人は被差別民。
土地所有できず、職業も制限されたことから、金貸し/金融業に活路を見出す者たちが現れます。
そこで台頭したのがマイアー・ロスチャイルド。彼が信じたのは、カネの「力」の絶対性です。
古銭商となったマイアーは、資産家の領主、ヴィルヘルム公(後のヴィルヘルム9世)に取り入りました。これを足掛かりに、マイアーは成り上がり金融道を驀進します。その手法とは……
●宮廷御用商として、ヴィルヘルム公の傭兵事業に関わって儲ける。
●公の資産運用で投資事業にも参加、さらにその資金を自らの投資に流用。
●公の一族の秘密をことごとく把握して商売に利用しつつ、政界に食い込む。
●ヨーロッパの郵便事業を独占するテュルン・タキシス家と手を組み、重要な郵便物を密かに開封して情報を得るほか、手紙の急送や遅配で情報操作を図る。
イギリスに進出、金融街シティへ
彼の商売はヨーロッパ本土にとどまりません。
三男のネイサンをイギリスに送り込み、親子で連携しながら綿織物の取引で大儲け。
ヨーロッパ本土での需要を見越して、原材料を買い占めておき、価格をつり上げて売るというやり方です。
この儲けを元手に、ネイサンはロンドンの金融街シティに進出しました。
時代は19世紀に入り、フランス革命後のナポレオン戦争。ヨーロッパは混乱の中にありましたが、ロスチャイルドの成り上がりは進みます。
●デンマーク政府に莫大な貸付を行った。
●ヴィルヘルム9世をはじめオーストリア皇帝、その他諸公の財産・債権を預かって管理・運用して大きく儲ける。
●ネイサンがイギリスのユダヤ人富豪コーエン家の娘と結婚。これを手掛かりに姻戚関係を利用して、金融街シティの実権を握る。
「広域で迅速な情報網」と「柔軟な資金移動」
アブラハムには7人の子、という歌がありますが、マイアーにはそれ以上、10人の子がありました。うち5人は息子。
“政治的有力者に贈り物・貸付・投資機会などの賄賂を与えて特権を獲得し、ビジネスを展開せよ!”
そう父に指導された息子たちは、それぞれフランクフルト、ウィーン、ロンドン、ナポリ、パリで金融業に邁進します。
5つの都市、5つの商会に分かれてはいるものの、ロスチャイルド家としての結束は固く、「広域で迅速な情報網」を組織し、もうかる事業があれば商会の枠を超えた「柔軟な資金移動」を行って、資本家として比類なき強さを得ます。
身内の結束、豊富な資金、情報の収集と操作、これらがロスチャイルド家の強さと言えましょう。
辣腕! 2代目ネイサン
1812年、マイアーは死去。2代目ボスは三男のネイサンです。
1815年、ワーテルローの戦いでのエピソードはなかなか強烈。
といって、銃剣をとって戦ったわけではもちろんなく、投機の話です。
イギリス(ウェリントン将軍)対フランス(ナポレオン)の戦いだったのですが、ネイサンはいち早くイギリス勝利の報を入手。
真逆の「イギリス敗北」を言いふらし、英国債を大量投げ売りしました。
すると市場関係者の多くがそれに釣られて、同じく安値で大量投げ売り。
その裏で、底値の国債をネイサンは買い集め、2日後。
イギリス勝利が伝わると、英国債の値は爆上がり!
高値で売って大儲け、5年の間にネイサンは富を2500倍にしたと自慢したそうです。
「金融力は国を据え、王位を覆す」
さて、実はこの国債という政府の資金調達法、さらに外国債の仕組みを普及させたのも、ロスチャイルド家です。国際的な債券市場を構築し、彼らは世界的な巨大銀行となって、支配的な地位を築きました。当時の詩人バイロン曰く、
「ロスチャイルドの金融力は国を据え、王位を覆す」
1820年代の、ネイサンらロスチャイルド家のやり方は……
●ほとんどの大国の財務大臣を買収。国王や首相にも多額のカネを貸し、頭が上がらなくさせる。
●各国の公債を引き受けつつ、国同士の対立構造を利用して利益を得る。
●世間の反感、新聞による非難をかわすべく、英国大手紙「タイムズ」を味方につける。
といったところですが、さらに重要なのは、イングランド銀行を支配下に置いたことでしょう。
イングランド銀行を支配し、通貨発行権を得る
イングランド銀行は強力な通貨発行権を持つ「銀行の銀行」で、公的な性格を持ちつつも、あくまで民間銀行でした。
そのイングランド銀行が、1825年の恐慌で、通貨発行の裏付けとなる金(ゴールド)の枯渇に直面します。
これを好機と、ネイサンらロスチャイルド家は短期ローンを利用しつつ、同行の金貨をさらに引き出して追い込みました。その一方で、別ルートで同行に金を補填、ポンドも供給して準備金を回復させ、イングランド銀行を救ってみせたのです。
その結果、ネイサンは十分な株式を獲得、同行とその通貨発行権を我が物としました。
そして今度は世界の金の大半を管理下に置きます。
イングランド銀行をモデルとして、金を裏付けに通貨発行する中央銀行を各国に作り、金本位制によって「世界」を操るためでした。
金本位制は金を持つ者が強い。ネイサン曰く、
「英国の通貨供給を管理する者が大英帝国を支配するのである。そして、私は英国の通貨供給を管理している」
恐慌・不況を国際金融資本は好む
金本位制下では、中央銀行から金が流出すると、同行は流通している紙幣をその分引き上げて破棄してしまいます。状況によっては金融危機、恐慌の元です。
国内需要に関係なく、金の保有量に通貨の量や信用が左右されるため、恐慌が頻発するのです。企業もどんどん倒産します。
ところが、国際金融資本家にとって恐慌はむしろチャンス。
金利高騰で収益を上げる。逆に事前に有価証券を売っておいて、暴落してから大量に買い戻す。
不況の度に、弱者は転落し、資本家は富を増します。
管理通貨制の今も、大枠は変わらない
現在は金本位制でなく、管理通貨・変動相場制ですが、
銀行法改悪や消費増税・コロナ禍デフレ不況で、アトキンソン氏らが中小企業のM&Aを狙い、パソナが利益を爆上げするのを見ると、今も大枠の構造は変わらないままと言えましょう。
彼らに対抗するには、主権通貨国の国民たる我々が通貨発行権を自覚しなければなりません。
「金の裏付け」など必要なく、ただ過剰インフレにならない限り通貨を発行できる力です。
政府に超・積極財政を実現させ、自らの経済力・国力を増すのです。
併せて、株主優先主義の撤回、外資規制や移民制限などの規制も必要でしょう。
まあ、万難を乗り越えてそれらを実現したところで、彼らのカネもうけへの執着は変わりません。
何らかの手段で富を吸い取ろうと画策するはずです。永遠の戦いが国民の運命ですね。
トップ画像:フランスにあるロスチャイルド邸(pixabay)