近年、デービッド・アトキンソンが主張する中小企業再編論が話題になっています。本稿ではアトキンソンの主張を「中小企業ぶっ潰す論」と呼びます。
中小企業を淘汰したり、大企業に統合したりすれば生産性が向上する。こう、アトキンソンは説きます。しかし、この中小企業ぶっ潰す論には2つの問題があります。
1つは「中小企業ぶっ潰す論が実行可能か」。もう1つは「実行した結果、効果はあるのかどうか」です。
この2つの問題点について探るため、多角的に問題を掘り下げていきます。
その過程で「日本は中小企業が多すぎる」という俗説も覆されるでしょう。
デービッド・アトキンソンの中小企業ぶっ潰す論
まず、デービッド・アトキンソンの「中小企業ぶっ潰す論」の内容を確認しましょう。
アトキンソンは中小企業が生産性向上の阻害要因だとします。日本は中小企業が多く、その中小企業の生産性が低いことを問題視します。
企業規模が小さいと成長余地が少なく、中小企業ばかりだと最低賃金が引き上げられません。
最低賃金引き上げを阻害し、生産性が低く、成長余地の少ない中小企業は統廃合を進めるべきだとアトキンソンは主張します。
要するに、アトキンソンの中小企業ぶっ潰す論は全体最適化です。
中小企業という阻害要因を取り除き、大企業に統合させたり廃業させたりすることで全体を効率化・合理化することが中小企業ぶっ潰す論の要旨です。
何のことはない。これまで散々叫ばれてきた改革が表紙を変えただけのものです。
デービッド・アトキンソンとは何者か
デービッド・アトキンソンは1965年生まれのイギリス人です。現在は小西美術工藝社社長や三田証券株式会社社外取締役をしています。
もともとは金融業界出身で、ゴールドマン・サックスでアナリストをしていました。
菅内閣のブレーンも務めています。
菅内閣では経営力と競争力のない中小企業を淘汰、統合するべきだと主張しています。
筆者はアトキンソンの記事のいくつかに目を通しています。
彼の主張は、奥歯にものが挟まったような印象を受けます。表紙こそ変えていますが、主張しているのは何度も叫ばれ、実行されてきた改革です。
だから、彼の理屈に不自然さや矛盾がにじみ出ています。
日本の中小企業の現状
中小企業ぶっ潰す論を全否定する前に、日本の中小企業の現状や世界の中小企業について確認しましょう。
日本は中小企業の割合が99.7%です。
雇用では69%を中小企業が担い、製造付加価値(GDP)では53%を占めます。
中小企業庁によれば日本の中小企業は、確かに大企業と比べて生産性が低いです。労働生産性、資本装備率、売上高利益率のいずれも大企業に敵いません。
これは規模の経済が働くので当たり前の話です。
事業規模が大きくなるほど生産性は高まります。
では、大企業の割合が多くなれば生産性が向上するのか? もし、それができるなら向上するでしょう。
次に世界の中小企業の割合を見ていきましょう。
世界と日本中小企業の割合
日本の中小企業の割合は99.7%で「多すぎる!」と言われます。しかし、アメリカで99.7%、イギリスで99.9%、ドイツで99.5%、韓国で99.9を中小企業が占めます。
じつは、日本の中小企業の割合は多くありません。
この例だけ見ても、中小企業を淘汰したり統合したりして大企業の割合を増やすのは夢物語、机上の空論と理解できます。
一方、中小企業が支える雇用については日本の割合が高いです。日本が7割に対してアメリカ5割、イギリスやドイツは約6割です。
この事実は2つの見解を導き出します。
1つは「日本の中小企業の生産性が低い」。もう1つは「日本の大企業の生産性が高い」です。どちらにも解釈可能でしょう。
もう少し深掘りすると「他国の中小企業の生産性が高い」とも、「他国の大企業の生産性が低い」とも捉えられます。
中小企業をぶっ潰すと生産性は上がるか
本題です。果たして中小企業をぶっ潰すと生産性は上がるのでしょうか? 答えはNOです。
中小企業を淘汰すれば、その後に残るのは破壊の爪痕だけです。そこから生えてくるのは、中小企業より小さな小規模事業であることは論を待ちません。
では、中小企業を大企業に統合できるのか? 各国の中小企業の割合を見てもそんなことは不可能です。
理論上、大企業のみに再編することで確かに生産性は向上します。理論上で空想できることが、現実に実践できるかどうかはまた別です。
くわえて、大企業の生産性が高いのは、中小企業を安く下請けに使っているからという見解もあります。
この見解に則れば、他国の中小企業の生産性が高いのはフェアな取り引きがされており、下請けでも過剰な安さを求められないからかもしれません。
くわえて、デフレは物価を下落させます。経済状況が値下げ圧力になっています。
このように整理していくと、やはり最後はデフレに行き着きます。
生産性向上に本当に必要なこと
デフレは値下げ圧力です。値下げとは粗利を減少させ、付加価値を毀損します。付加価値の毀損とはすなわち、生産性の低下です。
生産性とは付加価値で決まります。付加価値が増加すれば、生産性が増加したことになります。
付加価値とは粗利でありGDPのことです。付加価値の総合計がGDP(国内総生産)です。
GDPは需要によって増減します。
そして、デフレとは需要<供給の状態であり需要過少です。付加価値やGDPは低迷し、生産性は向上しません。
日本の中小企業の生産性が低迷しているのは、日本がデフレだからにほかなりません。
中小企業の淘汰、統合などの全体最適化は現実的な効果が疑わしく、実行できるかどうかさえわかりません。デービッド・アトキンソンは、中小企業ぶっ潰す論を具体的にどう実行するか明言していません。
同じく「中小企業の生産性向上論」も主張していますが、やはり具体的な実行については議論がありません。
アトキンソンの全体最適化論より、まずは経済状況の改善こそが必要なはずです。
まとめ
日本の中小企業の割合は99.7%ですが、他国と比較して多いわけではありません。他国もほぼ同じ割合です。
一方、日本の中小企業の生産性が低いことは事実です。
大企業と比べたケース、他国と比較したケースでも低いと解釈可能です。
しかし、その問題の本質はデフレにあります。デフレで需要が少ないからこそ、規模の経済が活かせない中小企業は余計に生産性が低迷します。
では、全体最適化が解決策になるか? 中小企業を淘汰、統合すれば生産性が向上するのか? 答えはNOです。実行が無理ですし、実行したとしても効果は疑問です。
それより経済状況を改善することが必要です。
日本の生産性問題は突き詰めればデフレに行き着きます。
デフレ脱却こそが日本の生産性を向上させ、ひいては中小企業の生産性も高めるはずです。
本来こういうのは自衛隊とか公安が拘束する案件なんですけどね
出来なきゃヤクザでも何でも使うべきなんですが
馬鹿過ぎるのか、自分達で自分達の手を切り落としていた始末