格差問題はときどき報道されますが、格差是正がなぜ必要なのか答えられない人の方が多いでしょう。格差是正はなぜ必要なのでしょうか。
かわいそうだから? それとも、人間は平等であるべきだから?
格差是正が必要な理由はもっと具体的です。
1つは民主主義が機能しなくなるからです。もう1つは、最終的に富裕層も没落するからです。
広がりすぎた格差は全体として害悪です。だからこそ、格差是正の議論が必要です。
格差是正が必要な理由と、格差是正するための方法について解説します。
格差とは
社会的な格差にはいろいろなものがあります。格差そのものの意味は「同類のものにおける等級差、レベル差、違い」のことです。
たとえば、同じ日本人間での所得の差などが格差と呼ばれます。
「完全に格差なき世界」は存在しませんが、格差が広がりすぎるとさまざまな問題が噴出します。格差があることが問題なのではなく、広がりすぎることが問題です。
経済格差
格差問題としてもっとも指摘されるのが経済格差です。貧富の差や所得格差などが経済格差にあたります。
日本の労働者の4割が非正規雇用です。非正規雇用の時給は、正規雇用の約半分にしかなりません。正規雇用が勤続年数とともに所得が向上するのに対して、非正規雇用はいくら勤続年数を重ねても所得がほとんど変わりません。
厚生労働省のデータによれば、日本のワーキングプアは560万人程度と推察されます。ワーキングプアとは、フルタイム働いて生活保護水準の所得の人たちです。
くわえて、日本の相対的貧困率は約16%です。日本人の6人に1人、およそ2000万人が相対的貧困に陥っています。
経済格差は一般的に貧困問題と直結して考えられます。
地域格差
地域格差の問題も日本には存在します。東京一極集中と呼ばれる現象がそうです。東京にものやサービス、人口が集中すると地方が過疎になります。
地方と東京では受けられるサービスに大きく開きが出ます。
教育格差も地域格差の1つです。高い質の教育や高学歴を得ようと思うと、都会に行くしかありません。
インフラ格差もそうです。東京圏には充実したインフラが構築されている一方、地方では橋梁が老朽化で通行止めになり更新も遅れています。
こうした地域格差は就業機会の格差としても現れます。就業機会の少ない地域を出て東京に人口が集まり、さらに地域格差を広げることになります。
貧困・格差の再生産
貧困や格差は再生産されます。
貧困層や低所得層は子供に質のいい教育を受けさせることが困難です。塾や私立に通わせるには費用がかかるからです。
教育格差は学歴に直結します。学歴は将来の就職を左右します。
こうして低所得層の子供は十分な教育が受けられず、将来、低所得な仕事に就業する可能性が高くなります。
この循環を格差の再生産、ないし貧困の再生産と呼びます。
資本主義社会で格差が広がる原因
格差はどうして広がるのか? その原因は資本主義にあります。
フランスの経済学者トマ・ピケティは21世紀の資本という著書の中で「r(資本収益率)>g(経済成長率)」という公式を発表しました。
この公式は、過去200年間の統計に基づいて算出されたものです。
式の意味は「経済成長より早く、資本家が富んでいく」です。つまり、格差は狭まるどころか広がり続けます。
なぜ、資本主義で格差が広がり続けるのか。
野放図の資本主義とは自由競争です。自由競争とは弱肉強食であり、強いものが勝って弱いものが負けます。
東京への一極集中も同じ構図です。勝ち組の東京にさらにものやサービス、人口が集まります。地域からは人口が流出し、流れ出るばかりです。
競争は弱肉強食を生み出し、勝ち組が勝ち続ける社会となります。
これが格差の原因です。
さらに、日本はデフレです。デフレの中で構造改革や規制緩和をしてきました。労働者派遣法の規制緩和などもそうです。
デフレでものが売れないので、生産性向上を目指した結果が規制緩和でした。
規制緩和した結果、労働力も安く使われることになります。それこそ、非正規雇用の増加です。
格差の原因は野放図な資本主義でした。したがって、格差の是正には資本主義の修正が必要です。
格差是正が必要な理由
格差是正が必要な理由は大きく分けると2つです。「最終的には全体が没落」「民主主義が機能しなくなるから」です。
総需要が減るから
格差が拡大すると総需要が減ります。これを理解するためには、消費性向を理解する必要があります。
消費性向とは1万円あげたらいくら使うか? という指標です。5000円使うなら消費性向は0.5です。1万円全部使うなら消費性向は1です。
消費性向が高ければ高いほど、得た所得に対して消費が増えます。
格差が拡大すると大資本や金持ちに富が集まり、低所得層は貧困になります。
たとえば、アメリカでは上位1%が持つ資産が、下位90%が持つ資産より大きいのです。
金持ちは消費性向が低いです。年収が1億だろうが10億だろうが、年収に比例して食費が増えるわけではありません。
つまり、所得に対して消費が小さいのです。
金持ちに富が集まった結果、全体の総需要は減少します。金持ちが消費せず、消費性向が大きい低所得層は消費するお金がないからです。
こうして、格差が広がると総需要が減ります。
最終的には富裕層も没落するから
総需要が減ると企業の売り上げが下がります。企業の売り上げが下がるとコストカット、人件費の削減が行われ、さらに低所得層は低所得へと押しやられます。
一方、富裕層も無傷ではいられません。
需要が減って企業の売り上げが下がれば株価も下がり、富裕層の資産も目減りするからです。
格差は総需要を減少させ、最終的には富裕層も没落します。
国民意識が断絶して民主主義が機能しなくなるから
格差は国民意識を断絶します。国民意識とは、たとえば「我々は日本国民だ」という意識です。
スラム街の住人に対し、グローバルエリートが連帯意識を持てるでしょうか? 逆もまたしかりです。どちらも違う世界の住人としか認識しないはずです。
そこには、同じアメリカ国民という意識はありません。
同じ国民という意識がなくなれば、民主主義が機能しません。民主主義とは国民の連帯感が前提条件だからです。
東日本大震災が起こったとき、我々日本国民は「同じ日本人が困っているのだから」と復興税に賛成しました。もしあれが中国や台湾、ベトナムなどだったら「なぜ、日本人が他の国のために税金を払わなければいけないんだ!」と反発したでしょう。
国民意識があるから利害を超えて納得が可能です。この納得が民主主義には不可欠です。格差は「同じ国民だ」という意識を奪い去り、民主主義が機能しなくなります。
階級社会になるから
民主主義が形だけになり、格差が広がったまま放置された社会は階級制になるでしょう。
すでに現在、日本社会を階級化していると見る人もいます。それによれば「資本家階級」「新中間階級」「正規労働者階級」「旧中間階級」「アンダークラス」の5階級があるそうです。アンダークラスは1000万人近くになっており、格差がどんどん広がり続けています。
階級社会では階級間の交流がなくなります。富裕層は富裕層だけ、低所得層は低所得層とだけ交流します。
こうして認識共同体が形作られます。
富裕層は富裕層の常識を持ち始めます。階級感で常識が共有されず国民意識は断絶します。富裕層が事件を起こしたときに「上級国民」と揶揄する声がありますから、すでに日本はかなり階級化しているのかもしれません。
格差是正の方法
格差是正のための方法は難しくありません。資本主義を野放図にせず、修正してやればいいだけです。
富の再分配の強化
格差是正をもっとも速く成し遂げる方法は富の再分配です。富裕層に対して課税を強化し、低所得層に対して課税を緩くします。
累進課税の強化と換言してもいいでしょう。
くわえて、社会保障の充実などで低所得層への分配の強化が必要です。
富の再分配で見落とされがちなのが公共事業です。インフラや公共施設は誰にでも使用できるものです。例を挙げると、図書館などはわかりやすい富の再分配をする福祉政策+公共事業と言えます。
労働者の保護と賃上げ
日本は1990年代から労働者保護を緩和し続けてきました。そのため、非正規雇用はついには4割にまでなりました。
上述したとおり、非正規雇用の時給は正規雇用の半分です。
まず、正規雇用の増加につながる政策が必要です。非正規雇用の待遇を改善すれば、非正規雇用を雇うインセンティブが薄れて正規雇用に転換する可能性が高いです。
さらに、最低賃金の引き上げも必要でしょう。最低賃金は全国平均で904円、もっとも安い都道府県では792円でしかありません。
最低賃金の引き上げなど労働者保護こそ格差是正には必要です。
社会保障を厚くする
社会保障を厚くする必要もあります。日本は財政健全化を建前に社会保障を削ってきました。生活保護費の引き下げや年金受給年齢の引き上げ、国民健康保険の負担増などです。
社会保障を必要とするのは低所得層です。社会保障を厚くすることで富の再分配が進み、格差是正につながります。
まとめ
格差是正がなぜ必要なのか? 最終的には富裕層も没落するからです。くわえて、民主主義が上手く機能しなくなるからです。
野放図な資本主義は際限なく格差拡大を続けます。どこかで修正しないといけません。
日本でも1990年代から新自由主義が取り入れられ、格差が広がり続けました。一億総中流と言われた社会は今や、格差社会へと変貌しました。
格差に対してそれぞれが声を上げ、世論を動かさなければなりません。
今すぐにでも格差是正に向けた政策を打ち出してほしいものですね。
特に税制の改定からはじめてほしいです。
法人税率の減少が格差を拡大させたとの報告を見ましたが、国家間で最低法人税率を取り決めようという動きや、アメリカではバイデン政権になり法人税率を上昇する方針を打ち出すといういち早い動きを見せたりと、よその国はいいなと思ってしまいました。
翻って我が国は法人税率減少の穴埋めに消費税率の上昇に手を出す始末ですし、格差拡大を是認していると見て間違いないですね。
まあ自己責任の国ですから、貧困に苦しむのも個人の責に帰して終わりでしょう。
コロナで経済苦に喘いでいる人に保障をとの声に対し、菅は「生活保護がある」のひと言で済ましても支持率4割の国なんで当然の帰結なんでしょう。
まだまだ格差拡大に向きそうです……。
柴山桂太に言わせると、歴史が早く動く国はイギリスとアメリカ。もっとも最後に動く国が日本だそうです。
日本の状況は残念なことに、まだまだ変わりそうにないですね。
北欧の消費税、ドイツのPB
「海外でやってる日本もやらねば」
諸外国のコロナ補償などの財政出動
「うちはうち、よそはよそ」
なぜなのか
なぜなんでしょうね。緊縮財政脳のせいでしょうか。