日本では失われた20年とデフレで経済が低迷しています。そのため、一部で積極財政の必要性が叫ばれています。積極財政派は日本でまだまだ少数の存在であり一括りにされがちです。
けれども、積極財政派と一口に言ってもその主張はさまざまです。
今回は主張の違いによって積極財政派を分類し、整理します。あなたがどの派閥に分類されるか確認しましょう。自分の立ち位置がはっきりしていると思考もクリアになりますよ。
積極財政派とは
積極財政派とは経済において、国家が積極的に財政を支出するべきという立場です。ケインズやアバ・ラーナーの機能的財政論のように「インフレで緊縮、デフレで積極財政」と考える人が多数ですが、近年はベーシックインカムを掲げて恒常的な積極財政を説く人たちも出てきています。
どの派閥にも共通するのは、デフレ下では積極財政という主張です。
さらに、最近は現代貨幣理論(MMT)の視点から積極財政を唱える人たちもいます。積極財政派の多くが現代貨幣理論(MMT)を学びました。
純粋理論としてのMMTから積極財政を主張する人たちは、どちらかと言えば国家のシステムや仕組みに関心が向く傾向にあります。
このように、積極財政派は一括りにできません。
積極財政派の分類
積極財政派の分類について、さらに詳しく見ていきましょう。
公共事業重視
積極財政派で根強いのは公共事業重視のスタンスです。インフラ整備や公共事業、国土強靱化での防災・減災などを重視します。
デフレ下で積極財政を掲げ、過剰なインフレでは緊縮財政という機能的財政論に則ります。
近年、現代貨幣理論(MMT)が流行しだしてからMMT議論に夢中になり、公共事業を前面に押し出す姿勢はやや弱くなりました。
とにかく積極財政の理論的正当性を訴える活動へと変化しつつあります。
公共事業重視のスタンスは災害大国日本との相性もいいです。
もともと、公共事業重視の主張は、政府支出の増加を公共事業に向けることで国土が発展するというものです。
国土の発展やインフラの充実は経済の土台を強くして経済も発展させます。
また、インフラの整備は防災・減災にもつながります。
公共事業による需要が増えれば労働市場は売り手市場となり、労働環境や所得が改善されるはずです。
一方、公共事業重視の理論には欠点も指摘されています。
労働分配率が上がるかどうかは企業の差配次第との指摘です。労働組合などの弱体化で所得上昇圧力が弱体化し、労働市場の売り手市場化だけでは所得向上が見込めないのではないかと指摘されます。
ベーシックインカム重視
2010年代後半から議論が盛り上がっているのが、ベーシックインカム重視のスタンスです。インフラなどの整備よりベーシックインカムを重視します。
もしくは、インフラ整備もベーシックインカムもやればいいというスタンスです。
ベーシックインカム重視は、国が国民の最低生活保障をするべきだと考えます。ベーシックインカムによって国民はより余裕を持って生活できます。
失われた20年やデフレで過酷な労働環境、境遇に置かれた人々を救済したいのでしょう。
一般的にベーシックインカム重視のスタンスは、左派的なイデオロギーの人に多いです。ベーシックインカムが革新的だからです。
ベーシックインカム重視の問題点はインフレ制約です。ベーシックインカムの実現には、月に7万円の給付としても年に100兆円がかかります。
GDPの2割にあたる政府支出の増加が過剰なインフレを招かないか危惧されます。
現代貨幣理論(MMT)
現代貨幣理論(MMT)は2010年代後半に日本に輸入されました。ステファニー・ケルトンやビル・ミッチェル、ランダル・レイなどが提唱している理論で、Modern Monetary Theoryを略してMMTと呼びます。
MMTはクナップやケインズの流れをくむ経済理論で、ポストケインズと言われています。
MMTを重視するスタンスは積極財政派で最大派閥になりつつあります。積極財政派の理論的裏付けがMMTだと見なされたからです。
純粋理論としてMMTを取り上げる人たちは、政府支出の使い道よりも税制などの仕組みやシステムに言及することが多いです。
ビルトインスタビライザーの強化などもその一種でしょう。
MMT重視の中でも、公共事業重視とベーシックインカム重視の2つがあります。公共事業重視が右派、ベーシックインカム重視が左派といった印象です。
なお、MMTの唯一の政策提言はJGP(雇用保障プログラム)です。JGPは本来、ベーシックインカムと反対の政策です。
そのため、ベーシックインカム重視のスタンスはMMTのいいとこ取りと言及されることも。
JGPについては以下の記事をご覧ください。
リフレ派からの転向
リフレ派から積極財政容認派に転向した人たちもいます。
リフレ派とはアベノミクスの一翼を担った主張でした。金融緩和によってマネタリーベースを増加させれば、インフレ目標が達成できるとする主張です。
7年以上、異次元の金融緩和は行われました。しかし、ついぞインフレ目標は達成されませんでした。
インフレ目標を達成できなかったため、リフレ派は積極財政容認に転じました。積極財政派というよりも積極財政容認派と呼ぶ方がふさわしいでしょう。
積極財政派の具体的な政策
積極財政派の具体的な政策の一部について紹介します。
インフラ整備
公共事業と言えばインフラ整備です。政府支出を大きくするためには、大きく支出できる分野が必要です。その分野の1つとして公共事業があります。
公共事業は乗数効果が高く、支出すれば景気を強く刺激します。乗数効果とは支出した予算に対して、どれだけの経済効果が見込めるかという指標です。10兆円の支出で経済効果20兆円が見込めるなら、乗数効果は2となります。
インフラ整備は乗数効果が高く、積極財政のマストだと主張する人たちも多いです。
国土強靱化や防災・減災
公共事業には悪い印象がつきまといます。いわゆる公共事業悪玉論です。この公共事業悪玉論に対抗して出てきたのが国土強靱化です。
日本は災害大国であり防災・減災は欠かせません。防災・減災のためにはインフラの冗長化など、インフラ整備や投資が必要です。
このような論法で公共事業悪玉論に国土強靱化で対抗しようとしました。
ビルトインスタビライザーの強化
現代貨幣理論(MMT)論者はビルトインスタビライザーの強化を主張することが多いです。ビルトインスタビライザーとは景気を自動的に調整する機能のことです。
例えば、景気が悪くて赤字の法人は法人税を免除されます。つまり、自動的に景気が悪いときは減税されるわけです。景気が良くなれば黒字になり法人税を支払わなければなりません。
こういった仕組みのことをビルトインスタビライザーと呼びます。
ベーシックインカム
ベーシックインカムは日本語で最低生活保障と呼ばれます。国民一律に毎月、定額を給付するのがベーシックインカムです。
負の所得税など他の議論もあるので、本来的なベーシックインカムはユニバーサルベーシックインカムと呼ばれることもあります。
月々の給付は7~10万円で議論されることが多く、予算にして毎年100兆円以上が必要となります。
消費税減税
積極財政派全般で消費税は悪評が高い税制です。ビルトインスタビライザーが働かず、逆累進性も強く低所得層ほど負担が強いからです。
公共事業やベーシックインカムへの賛否は大きく分かれますが、消費税減税については賛同が得やすい状況です。
生活保護や社会保障の充実
ベーシックインカムが急進的だとして、生活保護や社会保障の充実を推す声もあります。インフレ制約を考慮するとベーシックインカムは不可能だとして、国民のニーズが大きな部分をフォローするのが社会保障の充実の考え方です。
生活保護の要件緩和などが主な議論になります。
積極財政派を支えるイデオロギー
積極財政派にも右派、左派が混在しています。2010年代前半まで積極財政派は保守、右派系がほとんどでした。左派系から積極財政の声は上がりませんでした。
しかし、2010年代後半になってくると右派系、左派系どちらからも積極財政の声が上がり始めました。
保守系イデオロギー
保守系の積極財政派は公共事業重視の人が多いです。国土や国を守る観点からインフラ整備、国土強靱化などを重視します。
くわえて、自衛隊への予算増加も賛成する人が多いでしょう。
保守系はベーシックインカムに強固に反対します。保守とは革新的、急進的な制度改革に警戒し反対するものです。したがって、急進的な制度であるベーシックインカムについて保守系は警戒します。
リベラル系イデオロギー
リベラル系は逆にベーシックインカムを推すことが多いです。ベーシックインカムや生活保護の拡充、社会保障を重視するスタンスが顕著です。
一方、リベラル系の積極財政派から公共事業についての議論はあまり出てきません。実物的なインフラより、社会制度の変革を重視している印象です。
まとめ
積極財政派と一口に言っても、その内実はさまざまです。
消極財政(緊縮財政)派は「お金を使わせない」という点でまとまれます。なぜなら、その先がないからです。政府支出の使い道について考える必要はありません。
しかし、積極財政派は「政府支出を増やす」という点でまとまったとしても、そこから先があります。どの政府支出を増やすのか喧々囂々の議論が必要です。
こういった構造的な弱点も、積極財政派がまとまれずに声が拡大しない要因です。アウフヘーベンできなければ、今後も積極財政の声は拡大しない恐れが強いでしょう。
お疲れ様です。
個人的には記事に挙げられていない政府支出の使い道の一つとして、地方交付税交付金の増大を挙げたいところです。
各地方の裁量に任せての柔軟な地方創生が期待できるのではないかと。
裁量を増やせば地方政治も活発化するでしょう。
何より国政が金の使い道を議論する必要が薄くなり、金額を決めればいいだけのため、
財出の中では比較的迅速に、というか楽に使えるのではないかなと思います。
加えて、中央政府側が批判を受けにくい使いかたとなるんではないかな、と。
寂れた地方にとっては金の問題は切実でしょうからね。
同意です。
なぜか日本では「地方活性化」というと地方同士の競争という結論ですが、まともに考えると地方交付金などによる保護こそ必要ですよね。