コロナ禍は法人・個人を問わず需要の大減退を招き、中小零細企業の倒産や大手企業の大量リストラが増えています。
特に、旅行・運輸・エンタメ・製薬・機械部品など近年好調だった業種にまで大企業の人員整理や給与・ボーナス減額が波及する様を見るにつけ、コロナショックによる被害の甚大さが覗えます。
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こういうニュースに対して、外需頼みの商売にあぐらを掻いたツケだの、オワコンだから仕方ないだのと他人の不幸を揶揄するクソ野郎も目立ちますが、リストラによって生じる需要の消失は、巡り巡って自分(あるいは自分の家族)の勤め先の売上の悪影響を与えるものですから、明日は我が身と心得るべきです。
他人の不幸をメシウマ話としか思えぬクズの世界観は、まるで室町時代以前の村社会並みの野蛮さで、経済を支える需要と供給のダイナミズムが互いに連関し合うという経済原理のイロハを微塵も理解できていないのが判ります。
だいたい、ある場所で起きた需要の枯渇は別の場所の供給を窒息させ、それがまた別の場所の需要を死に至らしめるという経済界の摂理を理解できないバカ者が多すぎますね。
こんなことは、普通に社会に出て2-3年働いておればすぐに体感できるはずなんですが、他者の身に降りかかったリストラという不幸に喝采を上げ、ザマァとばかりに唾を吐くアホのなんと多いことか。
この手のアホは、吐いたツバが後で倍になって自分に吐き掛けられるのに気付こうともしません。
さて、先日、三菱自動車の希望退職に想定を100人以上上回る654人が応募したというニュースがありましたが、いまの日本は希望退職というリストラの嵐が吹き荒んでいます。
『「コロナ不況」にもかかわらず希望退職に申し込みが殺到する理由』
「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大に伴う景気低迷で、希望退職の募集が相次いでいる。景気が悪くなれば企業が希望退職を募るのは当たり前だが、事前想定を大きく上回る応募者が殺到する事例が目立つ。かつては従業員を震え上がらせた希望退職に、なぜ応募が殺到するのだろうか?
松山三越(松山市)が2020年5〜7月にかけて希望退職を募ったところ、約200人が応募したことが分かった。全従業員約250人の8割に当たる「大量退職」になる。(略)
大手アパレル大手のワールドが9月に実施した希望退職者募集には当初想定の約200人に対して、ほぼ5割多い294人が応募した。(略)
「はなの舞」や「さかなや道場」などの居酒屋チェーンを展開するチムニーが8月に実施した希望退職者募集には、当初想定の100人を5割も上回る152人が応募した。(略)
日本では希望退職を募集しても実際の応募は当初想定を下回り、人員削減に苦労するケースが多かった。しかし、このところ応募者が当初想定を大幅に上回るケースが増えている。(略)
なにより日本経済の「不況」のパターンが変わったことが大きい。かつて「不況」といえば景気循環によるものと考えられており、「いずれ景気が上昇すれば、企業収益は持ち直す」というのが共通認識だった。だから希望退職に応じず、会社にしがみついている方が有利と考えられていたのだ。ところが近年は「寿命」を迎えた業界は、これから景気が持ち直しても苦境が続くとの見方が一般的になっている。(略)
こうした業界では、将来性が低い会社にしがみついている方がリスクは高い。むしろ「会社が手厚いサポートをする余裕があるうちに退職した方が有利」と考えるのも無理はない。(略)」
私も、希望退職を募る企業において退職金の割り増しや再就職サポート制度があるうちにさっさと早期退職して転職活動に踏み切りたいという社員の気持ちはよく解かります。
人員整理や給与・ボーナスカットに踏み切らざるを得ない企業の職場環境は、パワハラやサービス残業の横行、諸手当のカット、見境なく積み上がる業務目標、サービス残業や休日出勤の常態化、有給未消化等々、例外なくギスギスしており、そこにいる社員は出口の見えない長いトンネルを食うや食わずで歩かされているような重く陰鬱な気分に苛まれているものです。
これまでと同じように残業に次ぐ残業で扱き使われてきたのに、一方的に給料やボーナスをカットされては堪らないし、同質・同量の労働を提供してきたのに支払われる対価だけ無断で切り下げられるのは、普通の感覚なら到底納得できないでしょう。
上記コラムでも指摘されていたとおり、”寿命を迎えた業界は、これから先も未来が見えず、ひたすら苦境が続くだけ”と見限られるのもよく解かります。
給料やボーナスカットは今冬だけでなく、年明け以降の続くのではという不安に駆られると、例えば、いままで苦労して働いた対価として受け取っていた40万円の給料が、同じ苦労を重ねても28万円にしかならないとしたら、もう同じ職場で働くのがバカバカしくなりますよね。
しかも、早期退職で人員も減るから、社員一人一人に圧し掛かってくる業務量は1.5-2倍に増えるかもしれません。
なのに、給料は間違いなく減らされると判っていれば、そんな貧乏くじを引かされるのは御免だと見切りをつけたくなるのも当然です。
ですが、20-30歳台ならともかく、40-50歳の中年世代がいたずらに転職するのはお勧めできません。
私も30歳代前半に銀行を辞め、まったく別の業界に転職しましたが、給料は3割ダウンし生活は楽ではありませんでした。
幸い、まだ若く、子供の教育費ほか生活費がさほど掛からなかったのと、銀行員時代と比べて業務量が圧倒的に減り毎日定時退社が当たり前の職場でストレスが激減した効果もあり、まったく後悔せずに済みましたが、これが40-50歳台で高校生や大学生の子供を抱え、住宅ローンに追われるような年代なら、一転、心身ともに地獄のような生活に陥りかねません。
早期退職せず今の会社にしがみついても給料が3割カットされるから、退職金が割り増しされるだけマシ、このまま残っても退職金も出ず倒産の憂き目に遭うかもしれないし、という判断もあるでしょうが、令和不況の嵐が吹きすさぶ中、中高年の転職市場は視界不良です。
安定した家業を継げるとか、一定の不動産所得があるという人は別として、知ったかぶりして外界へと冒険に出るのは止めといた方がよいでしょう。
大きな会社の看板を背負ってこれまで成し得てきた自分の仕事や業績は、その看板を下ろした瞬間に無力化し、絶対的自信を抱いてきた自分の実力が思った以上に役立たないという残酷な現実にすぐ気づかされます。
『早期退職で大失敗→無職に…49歳・元大手メーカー社員の大誤算』
「加藤嘉明さん(仮名・退職時49歳)は、大手食品メーカーの営業畑一筋に、第一線で活躍し、社内外からの評価も高く、同期トップで管理職になりました。自他共に認めるエリートです。
しかし、業界全体が低迷する中、会社全体の業績も芳しくなく、ここ数年は管理職の昇給停止や賞与カットが続くこともあり、将来を考えて転職を検討していた時に早期退職の募集が始まり、これは渡りに船とばかりに応募しました。
元の職場で自分を高く評価してくれていた取引先からオファーを受けていたため、すんなりと転職に成功。当初は会社に見切りを付けて早期退職した自分の決断力と先見の明を周囲に自慢していましたが、バラ色の日々は長く続きませんでした。
今までのように会社の看板がない営業で、思うような営業成績を上げることができません。また自己流の営業スタイルに固執し、新会社の社風に馴染もうとしない姿勢に部内でも反発が強まり、社内外で孤立してしまったこともあって、結果的にわずか半年で退職する羽目になってしまったのです。
もともといたメーカーを退職してから1年経過した今もハローワーク通いを続けています。(略)」
上記コラムの全文を読むと、その趣旨は早期退職を諫めるものではなく、退職を選択するなら事前の準備を入念にし、想像力を働かせ、自身の強みを具体化し営業力を活かせ、といったものですが、挙げられた事例を見るにつけ中高年世代の転職の難しさを実感させられます。
大企業という機構やシステムに守られ、その各工程で自分の役割をこなしていれば評価されたのとは違い、中小零細ではそうした機構もシステムもなく、自分の役割りを把握するのに苦労させられますし、業務の守備範囲も無限にある割に、その成果に対する報酬は想像以上に低く、モチベーションの維持が難しいものです。
また、早期退職後に起業を目指す方も結構いますが、これは中小企業への転職以上に止めておいた方がよいと思います。
私は、大企業出身が書いた創業計画書に何度も眼を通したことがありますが、正直言ってどれもレベルが低く、大学生が提出したレポートの内容が小学生の読書感想文レベルだったのと同じくらい落胆させられます。
まず、事業計画書に自分の夢や希望ばかりがちりばめられ、数値的根拠がありません。
(こんな不況下では数値的根拠など掴みようもありませんが…)
また、マーケット規模の捉え方が極めて杜撰、自身の強みや競合相手との差別化ポイントも不明瞭といった具合で、どうフォローすべきかとこちらが苦労するレベルです。
やはり、大企業という城に守られて集団戦法で闘うのと、自分の身一つで死地を切り抜ける力との間には例えようもないほど大きな差異があります。
このコロナ禍に新天地を目指して中高年が早期退職するのはリスクが大きすぎます。
上司や同僚、部下から白い眼を向けられ、待遇が悪化したいまの職場にしがみつくのは耐え難い屈辱かもしれませんが、辛抱して嵐が過ぎるのを待つ方が無難です。
嫌味を言う上司に逆パワハラするくらいの覚悟で開き直り、いまの地位や所得にしがみつく図々しさも必要ですよ。
それにしても、これほど民間でリストラが横行しているのに、政府の対応があまりにも鈍すぎますよね。
民心を宥め動揺を抑えるためにも、給付金の大盛りお代わり(30万円/人×2-3回)の追加支給、継続型給付制度の導入、リストラを撤回した企業への資本注入、消費税廃止、社保負担減免といった大胆な財出策を早急に打つべきです。
世の中カネが無くて困っている人々で溢れ返っているのですから、不足するカネを個々の懐に届けるのが最良の策であることはくどくど説明する必要もないでしょう。
数千、数万、数十万人もの貴重な人材が、何十年もかけて培ってきたスキルや人脈をドブに捨てるのは本当に勿体ないことです。
まさに国富の毀損につながる大罪です。
いまこそ、誰の負債でもない貨幣を大いに活用すべきです。
日本を支える柱である国富を腐らせてはなりません。