「時代のブーム」を分析すると、今の時代がどのように人々に受け止められているかわかります。
時代の空気を読むのに役に立つのがブームの分析。
特に小説やマンガ、アニメの大ヒット作に時代の空気を表わしている作品が多くあります。今回は時代の空気を知るため、大ブームである鬼滅の刃を分析します。
鬼滅の刃ブームのさまざまな分析
鬼滅の刃が「なぜブームになったのか?」と分析する記事はたくさんあります。ざっと「なぜブームになったのか」の分析について紹介します。
中には「ハリーポッターと構図が似ているから」「学園ものの構図もあり、聖闘士星矢とも類似」など他のヒット作品との類似性を指摘しようとする記事も。
それらのしっくりこない分析は脇におきます。
人も鬼も深掘りしたストーリー
鬼滅の刃のストーリーはとにかく登場人物の一人ひとりを、非常に精緻に深掘りして際立たせています。
キャラクターの過去や性格、なぜそうなったのか? などがしっかりと描き出されるのが鬼滅の刃の特徴。
キャラクターが深いからこそ共感を呼び、ブームの一因になったのでしょう。
鬼vs鬼殺隊というシンプルな構図
勧善懲悪物語のようなシンプルな構図は、どのような時代にも受け入れられる物語です。鬼滅の刃も鬼vs鬼殺隊というシンプルな構図を採っています。
鬼滅の刃は複雑な物語ではない、という点には多くの同意が得られるでしょう。
こうしたシンプルでわかりやすく、それでいて深掘りされているストーリーは案外珍しい。
シンプルな構図も ブームの一因でしょう
大正時代の浮ついた空気と真剣な鬼殺隊の対比
大正という時代設定は、鬼滅の刃独特のものです。なぜ明治時代でも江戸末期でも昭和でもなく、大正時代だったのか?
大正時代と言えば近代化にひた走る日本で、空気が浮ついていた印象です。またわずか15年という短さで、大正時代はその幕を閉じます。
こういった改革開放の時代に刀を持ち、古来の鬼と戦うという雰囲気がウケたのかもしれません。
浮ついた大正という時代の空気は、真剣な鬼殺隊との対比になっているように思えます。
火付け役はアニメだった
筆者は連載当初から鬼滅の刃を読んでいます。もちろんアニメもすべて視聴しました。
ジャンプ連載の頃から人気が高いマンガでしたが、ブームの火付け役はアニメでしょう。原作がより輝くアニメは珍しく、鬼滅の刃はその珍しい例の一つと言えます。
アニメのできは本当に素晴らしかった!
鬼滅の刃は当初、ジャンプファンの子供や大人たちの間だけの人気でした。しかしアニメ化で全世代の人気に火が付きました。
正直なところジャンプで連載していた頃は、ここまで大きくブームになる気配はありませんでした。
鬼滅の刃のブームはなぜ?
ここからは「なぜ鬼滅の刃がここまでブームになったのか」について分析します。
道徳vs不道徳のメタファー
鬼滅の刃ブームのもっとも大きな要因は「道徳vs不道徳」というメタファーだと思います。
鬼という不道徳に対して、鬼殺隊という道徳が苦戦しながらも勝利する。何でもありの鬼vsなぜか正々堂々の鬼殺隊という構図も、道徳を暗喩しているように感じられます。
大正という改革開放・近代化していく時代において、道徳である鬼殺隊は刀という古い装備をまとって戦います。端的に言えば「鬼殺隊=道徳」は時代にマッチしていません。
しかし鬼は鬼殺隊のみならず、放っておけば世の中にさまざまな害悪をもたらします。その不道徳の象徴である鬼を目立たず、報われず退治するという構図がはかなく感じます。
道徳が埋没しつつある現代だからこそ、この構図に「もののあはれ」「無常観」を感じたのではないでしょうか。
報われないと知りながら戦う必死さ真剣さ
鬼殺隊メンバーは、戦っても金銭や報酬を受け取っている場面が出てきません。もちろん生活費くらいは出してもらっているのでしょうが――。
すなわち鬼殺隊メンバーが鬼と戦って勝利し、いい思いをする場面が鬼滅の刃には登場しません。ご褒美の温泉旅行すらありません。それどころか昇進の場面もない気がします。
――鬼殺隊ってじつはブラック企業では? という疑問は脇におきましょう。
こうして報われないと知りながらそれぞれの理由のため、そして人々のために命懸けで戦うという部分に共感が広がっているのではないかと思います。
まとめ
鬼滅の刃は連載当初から知っていましたが、こんなブームになるマンガとは思っていませんでした。しかし実際には大ブームです。
近所のスーパー銭湯では鬼滅の刃タオルが販売されており、筆者は買おうかどうしようか悩み中です。
ここまで鬼滅の刃がブームになったのは、今の世の中で道徳や不道徳が不明だからかもしれません。
行き過ぎた道徳が自粛警察を出動させたり、もしくは不道徳だと感じる人がお金を儲けていい思いをしていたり。
こうした時代の空気の中、鬼滅の刃は「報われなくても、失われても、苦戦しても信じて戦う」というメタファーを発しています。
これこそが鬼滅の刃がブームになった理由なのかもしれませんね。
アニメ鬼滅の刃は現在、アマゾン・プライムビデオやdTVなどでも視聴できます。筆者も鬼滅の刃を再視聴するつもり。
>ご褒美の温泉旅行すらありません。それどころか昇進の場面もない気がします
同じジャンプ漫画が原作のアニメ「ワールドトリガー」は、敵を倒した際の報奨金の設定とかリアルで関心しました。「鬼滅の刃」はアニメ会社の寄与度が高いですよね。あと、「鬼の過去」みたいな回想で毎回本編が中断されるため、私はあれ、あんな高い頻度でザコボスにまで要らないと感じています。
伊之助も善逸も、男の私からすればウザいという感想以外ないキャラで、「センスが相容れない。この作者、絶対女性だろう、あとで調べてみよう……ああ、やっぱり」みたいないつもの流れがあるのですが、女性人気が凄いですよね。
確かにワールドトリガーはその辺、すごく設定が細かいですよね。
鬼滅の刃って原作者、女性だったのですね。じつは初めて知りました(汗)
>キャラクターが深いからこそ共感を呼び、ブームの一因になったのでしょう。
>こうしたシンプルでわかりやすく、それでいて深掘りされているストーリーは案外珍しい。
>シンプルな構図も ブームの一因でしょう
鬼滅の刃は、キャラクター造形は深堀されてますが、設定的な部分はかなりシンプルとも言えるかとも思いますからね・・。(鬼対鬼殺隊)
そういったわかりやすい展開が、老若男女に受けたのかもしれません。
そう考えると、報われないという話ではかなり似ている進撃の巨人よりも、鬼滅の刃がさらにメガヒットした理由としてはある程度納得ができてもきます。(わかりやすいストーリー)
進撃の巨人の展開は、わりとややこしいレベルになっているので・・。
王政編とかから世間の評判では失速したみたいな感じで言われるのも、そういう理由もあったのかもしれませんね・・。(個人的には王政編、好きなんですが。(世界の謎が明かされていく展開が))
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>「報われなくても、失われても、苦戦しても信じて戦う」というメタファー
ふうむ、なるほど・・。
そう考えますと、やはり、繰り返しになりますが、進撃の巨人とも相通ずるのかもしれませんね・・・。(進撃も大概、報われない展開だらけなので・・・)
そして、実際の所は、人は皆、結局のところは、お利口に立ち振る舞っています。
リアルにバカに振舞えば、鬼滅の刃の主人公の竈門炭治郎の如く、報われない苦しみだらけの人生におそらくなるかとは思いますので・・。
しかしまあ、現代人は、結局は時代がそうだから、お利口に立ち回らざるをえないのかもしれませんが・・その実、人々は、お利口さんにではなく実は『バカ』にあこがれを抱いているのかもしれません。
その、けっしてお利口さんではない、大バカな、そんな竈門炭治郎のような生き様に、現代人は憧憬の念を抱くのかもしれませんね・・。
炭治郎が利口なやつなら、天災にあったと思ってあきらめて慎ましく生きようと思ったでしょうから・・。
(しかしそうではなかった)
>人々は、お利口さんにではなく実は『バカ』にあこがれを抱いているのかもしれません。
なるほど。非常に的確な洞察です。
利口だからこそバカに憧れる。
現代人は利口に立ち回ることを求められすぎているのかもしれませんね。