BI(ベーシックインカム)の批判的考察

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BI(ベーシックインカム)は、今の賃金そのままに、可処分所得を増やします。
BIという所得補償を得た労働者は、低賃金の企業から離れ、企業は賃上げをせざるを得なくなるといいます。
果たして本当にそうなのでしょうか?
ツイッターランドにおいても少々希望的観測が先行した楽観論が蔓延している状況があり、仕舞にはコロナ対策の単発10万円給付とBIを同一視する頓珍漢な主張を見るにつけ、もう少し批判的な検証の必要性があると強く感じます。

何しろ恒久的に、全世帯に決して少額ではない給付金を配るのです。
雇用や労働環境に大きな影響が出てくる可能性は極めて高い。
煽りや人格攻撃を抜きにした、冷静な議論も必要でしょう。
今回は労働者、企業という視点から、BIの影響について批判的に考察します。

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労働者の離職と賃金

退職の主たる動機は何でしょうか。

離職理由ランキングを徹底分析!調査結果から見える男女差や背景とは

上のリンクを見る限り、離職理由は給与条件ではなく、労働内容や時間、人間関係を含む労働環境によるもので、給与自体はきっかけに過ぎないものと考えられます。

労働者は、賃金以外の労働環境に余程の不満でもない限り、今の職にとどまり続けます。
なぜなら、既知の慣れた環境から、未知の新しい環境に移るということは、特にそれが仕事という責任を伴うモノであれば、尚更大きなストレスを伴うからです。

反対に、単純作業で大きな責任を伴わない仕事であれば、ストレスも少ないかもしれません。

同僚みんないい人で、融通も利き、通勤に便利で、精神的にも肉体的にも負担の少ない職場なら、少しくらい低賃金でも働き続けるでしょう。
むしろBIが支給されることで「低賃金でも働きやすくなった」と、余計にそこで働く傾向を強めるかもしれません。

その労働者にとって“良い職場”であればあるほど、労働者は職場に留まり続け、その労働者の賃上げを要求する欲求は減少していきます。

つまり、賃上げ圧力が減衰していくのです。

BIの賃上げ効果

確かにBIは、最低賃金レベルでの給与条件を、少しだけ引き上げるかもしれません。
初任給を少しだけ引き上げるかもしれません。

しかし、BIの賃上げ効果はそこまでです。

なぜなら、賃上げ圧力とは、労働者が同じ職場に居座って賃上げを求めることでしか強まらないからです。
労働者が退職すれば、企業(雇用者)は、同じ給与条件で新規労働者を雇うだけです。
この傾向は、単純労働であればあるほど強まります。
つまり、現在のように労働価値が失墜した社会において、労働者は非正規雇用で低賃金であればあるほど、賃上げ圧力は弱いわけです。
BIは、この元から少ない低賃金労働者の賃上げ圧力を、ほんの少しだけ強めるだけなのです。
しかも、退職を理由とした賃上げ交渉の結果として得られるものであり、必ずしも継続的な賃上げ圧力になるとは限らないのです。

BIと雇用の流動性

BIを得た労働者は、賃金が上がらなければ退職をチラつかせて賃上げを要求するか、賃上げを要求することなく、より良い給与条件の職場を求めて退職するでしょう。

つまり、雇用の流動性が促進されます。

この交渉手段は、中小零細企業相手であれば確かに有効です。
なぜなら、中小零細企業にとって、人集めは容易ではないからです。
しかし、大企業であれば、平然と突っぱねることができます。
なぜなら、大企業にとって新規雇用や賃上げなど容易だからです。

大企業は、ほんの少しだけ初任給額を上げて、中小零細から逃げ出した人材を確保すればよいのです。

結果、中小企業は賃上げをせざるを得ない状況に追い込まれて利益を圧迫され、大企業は僅かな賃上げ、もしくは賃上げの必要もなく、ますます肥え太ることになります。

つまりBIは雇用、特に低賃金労働市場における、大企業優遇政策と言えるでしょう。

BIと法人税制の累進化

同じ事が法人税の累進性にも言えます。
法人税は人件費や経費を除く純利益に税を課し、人件費により多くの分配を促す税制です。
法人税が累進化されると利益の大きい大企業ほど税率が高くなり、より人件費分配インセンティブが高まりますが、逆に利益の少ない中小零細ほど人件費分配インセンティブが下がります。

結果、大企業ほど人件費が高く維持されやすい状況になり、中小零細企業の人材が流出しやすい環境になってしまうのです。

つまり、この場合は大企業“社員”優遇政策となるわけですね。

BIの問題点

いずれにせよ、BIには確かに賃上げ効果はあります。
しかしそれは、低賃金単純労働者向けの極めて限定的なモノであり、中間層や“良い職場”では、賃上げ圧力を弱める可能性があるということです。
つまりBIには賃下げ効果があるという批判は的外れであり、限定的な賃上げ効果と、賃上げ圧力の減衰効果があるというのが精確な認識と言えます。

BI最大の問題点は、社会保障制度が維持されたUBI(ユニバーサルベーシックインカム)であろうと、新自由主義的社会保障撤廃型のBIであろうと、この大企業に有利な雇用の流動性を促進作用があることです。

特にこの雇用の流動性促進効果は、低賃金労働者に顕著に働き、中小企業から大企業への雇用の流出を促進します。

この雇用の流動性が加速するという側面さえあれば、新自由主義者にとって、社会保障が維持されようがされまいが、関係ないのです。

無論、社会保障撤廃された方が、民間保険会社のレントシーキング的に有効だというのは言うまでもありませんが…。

私のような年収500万以下で、子供二人も抱えてローンも激重、株もやってない一般的なワープア日本人にとって、月10万の恒久的現金給付が欲しくないかと言ったら、正直欲しいです。

しかし、それを欲しがるには、新自由主義に魂を売り渡す覚悟が必要になるのです。

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