ダイバーシティ経営やダイバーシティ戦略、ダイバーシティ・マネージメントという言葉が度々聞かれます。多様性を確保することで、競争力や生産性が向上する! と、もっともらしい理屈を添えて囁かれます。
これって本当でしょうか? ダイバーシティ化には、生産性や競争力向上効果があるのか。少し考える力があれば、ダイバーシティ化にそんな効果はないことがわかります。
なぜダイバーシティ化、多様性の確保で生産性や競争力が向上しないのか。その構造について解説します。
ダイバーシティとは
ダイバーシティとは英語でdiversityと書きます。日本語に直訳すると「多様性」です。
現在の日本ではダイバーシティ化が、経営戦略や経済政策として重視されます。ダイバーシティ化をすることで、生産性や競争力が向上するとされるからです。
ダイバーシティ、すなわち多様性は国籍や人種、性別、宗教、年齢、学歴などあらゆる違いを認め合うことです。
ダイバーシティ経営はそれぞれの違いを認め合い、個性を発揮できる組織にすることで生産性が向上するとされています。
日本では、ですが。
ダイバーシティ経営はアメリカで始まった、女性やマイノリティを差別なく採用しようという取り組みです。もともとダイバーシティ経営には、生産性や競争力の強化なんてお題目はありませんでした。
参照 ダイバーシティとは何ですか?(人事労務Q&A)
多様性やダイバーシティは、生産性や競争力を高めない
ダイバーシティ化すると、競争力や生産性が向上するというのは勘違い、寝言の類いです。
ダイバーシティ化すると、個性を発揮して生産性が向上するのだそうです。
しかし中国は全く多様性がありませんが、国家として急成長しました。EUはダイバーシティ化していますが、競争力が高いとは言えません。この事実を述べるだけで、十分な反証となるでしょう。
マネージメントや経営が上手くて競争力のある会社が、成長するにしたがって国際企業となりダイバーシティ化した、という実例なら山のようにあります。
しかしその逆の事例はありません。
ダイバーシティ化したから、競争力が上がるのではありません。もともと競争力が高い企業が成長する過程で、自然とダイバーシティ化していくだけです。
なぜなら優秀な人材に国籍や性別、宗教などは関係ないからです。
表現を変えれば「優秀な人材を求めていたら、いつの間にかダイバーシティだった」です。
Googleの人事資料では、これまでの実績と、これからの希望しか書かれていないそうです。国籍・年齢・性別・顔写真は一切ありません。
Googleの例は「優秀な人を、能力だけで採用すると自然とダイバーシティ化する」ことを示しています。Googleの人事は別に、多様性の確保をしたいわけではありません。
驚くべきことに日本では、ダイバーシティが生産性を向上すると信じています。経営者やビジネス雑誌のみならず、政府や官庁、政治家までもが!
参照 価値創造のためのダイバーシティ経営に向けて – 経済産業省
少なくとも経産省は、本気でダイバーシティ経営が生産性向上になると考えています。
ロジカルシンキングでダイバーシティを考える
日本人は、ロジカルシンキングが苦手だと言われています。ダイバーシティ=生産性向上と信じ込む現象は、ロジカルシンキングが苦手な証拠でしょう。
仮にダイバーシティ経営を、中小企業で実施する思考実験をしましょう。
ある中小企業が「ダイバーシティ経営だ!」と、外国人を10人採用しました。外国人は日本語がしゃべれない人ばかりです。
果たして生産性は上がるでしょうか? むしろ社内は大混乱に陥るはずです。
ダイバーシティ化はむしろ、生産性向上の阻害要因にすらなり得ることがわかります。
この思考実験には、近い実例があります。社内英語化が一時期はやりましたが、ことごとく失敗しました。
社内英語化は、ダイバーシティ経営のプラットフォームを作る作業です。
なぜ失敗したのか? 英語を話せても、生産性は1mmも上がりません。英語を話せたら素晴らしい企画ができるか? ルーチン業務が効率化できるか? そんなわけないですよね。
加えて英語学習の負担だけが増えます。したがって社員は「普段の仕事+英語学習」という二重負担を抱えます。これで生産性が上がると思う方が、どうにかしています。
実際の楽天の事例
楽天は2010年に、社内公用語を英語化しました。海外事業に打って出るためです。
社内の英語化には大変な苦労が伴ったようです。楽天の英語化は成功だったのか? 失敗だったのか? 成功とする記事は「社内に変化があった! TOEICの点数が上がった」と評します。
正直なところ「それだけ?」と思ってしまいます。
失敗と評する記事は辛辣です。楽天の海外事業が軒並み失敗だったことが、社内英語化の果てだとします。
ダイバーシティ経営をしても、必ずしも競争力は上がらない実例でしょう。
少し論理的に考えればわかる話がわからない?
筆者は多様性を否定しません。むしろ多様性は大事だと、強く思っています。しかしそれは、生産性や競争力のためではありません。
少し考えれば、ダイバーシティと生産性や競争力には関連性がないことくらい、誰でもわかるはずです。むしろダイバーシティは、生産性や競争力を阻害する要因ですらあります。
ところが日本では、ダイバーシティ経営が生産性を上げる! と、本気で信じられている節があります。
壺を買ったら病気が治ると信じているのと、あまり変わらない気がします。
日本ではダイバーシティの他に、生産性向上の議論も論理的とは言いがたい状況です。なぜ一から考えてみないのか? 不思議でなりません。
まとめ
ダイバーシティは豊かだからこそ、許容されます。もし後進国に「ダイバーシティで生産性向上!」と流民が入ってたら、大混乱に陥ることでしょう。
まともに考えるなら、生産性や競争力の向上に必要なのは「多様な人材」ではなく「優秀な人材」です。そして優秀な人材は、大抵コストが高い。
育てるにしても、引き抜くにしてもです。
競争力がほしいなら、日本で優秀な人材が育つ教育を充実させるべきです。そのためにはガンガン、教育予算を増やせばいいじゃないですか。
ダイバーシティで生産性向上! などという寝言を言う前に、政府が日本の運営とそのための支出をしっかりするべきでしょう。
>少し考えれば、ダイバーシティと生産性や競争力には関連性がないことくらい、誰でもわかるはずです。
>まともに考えるなら、生産性や競争力の向上に必要なのは「多様な人材」ではなく「優秀な人材」です。
>競争力がほしいなら、日本で優秀な人材が育つ教育を充実させるべきです。
誠に仰る通り、その通りであります。
多くの日本企業が、かつてGDP世界第2位の経済成長をもたらした日本的経営手法と決別し、設備投資・技術投資・人材投資をケチったことが、企業の国際的競争力をどんどん低下させ、挙句の果てに外資に牛耳られるに至るなどの、今日の惨状を招いたことは誰でもわかるはずです。
ところが、
>驚くべきことに日本では、ダイバーシティが生産性を向上すると信じています。経営者やビジネス雑誌のみならず、政府や官庁、政治家までもが!
>少なくとも経産省は、本気でダイバーシティ経営が生産性向上になると考えています。
という有様。
普通に考えれば、素人でもわかりそうな道理をなぜ今の政財官界のエリートどもはわからないのか?なぜここまで頭がイカれまくっているのか?それが最大の謎です。やはり、20年以上にわたる歴代政権による緊縮財政&規制緩和一辺倒の政策、市場原理主義の過度な追求に加えて自己責任礼賛の社会的風潮の中で、我が国のエスタブリッシュメントたちの脳味噌はかくも醜く腐り切ってしまったのか?
>普通に考えれば、素人でもわかりそうな道理をなぜ今の政財官界のエリートどもはわからないのか?
おそらく、緊縮財政という前提条件があるからかと~。
緊縮財政&デフレで生産性向上なんて”普通”は無理=ウルトラCで成し遂げねば! 的な。