供給能力(労働力)のバッファストックと財政政策

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 バッファ(バッファー)ストックとは、日本語では“緩衝在庫”と訳されます。

例えばモノの供給において、

 何らかの事由、例えば災害や戦争、天候不純などによって需要が供給を大幅に上回る、あるいは供給能力の棄損や原材料の不足によって生産量が大幅に低下して供給が需要を大幅に下回る場合、急激に物価が上昇するリスクがあります。
 急激な物価の上昇は経済に極めて深刻な影響を与え、企業や消費者に被害をもたらす、いわば地震のようなものです。
 これを防ぐ、あるいは物価変動という地震の影響を減殺するために、あらかじめ余分にモノを製造して在庫を確保し、一朝事が起こった場合にはこの在庫を放出して、供給量を安定させ、物価変動を抑制します。
 つまり、物価の変動による衝撃を緩和するための在庫、これがバッファ(緩衝)ストック(在庫)です。

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サービスの緩衝在庫、供給能力(労働力)のバッファストック

 しかし、モノ、つまり製造された品などは作り置きが出来ますが、サービスに関しては作り置きはできません。

例えばファミリーレストランの接客サービス。

 店員さんのシフトが7時から15時だったとして、店員さんが接客できるのは、その7時から15時の間だけです。
 14時から15時の間の1時間分をストックして別の時間、例えば20時から21時の間のサービスに割り当てようとする場合、店員さんは14時の時点で休憩をはさむか、一旦帰宅してまた出勤してこなければなりません。
 あるいは、その店員さんが辞めてしまうというような場合、店員さんの労働力を穴埋めするために、辞める前になるべく多くの時間をその店員さんに働いてもらって、その分をストックして、辞めた後の労働力に割り当てようということは不可能です。

 だって、辞めてしまうわけですから、また出勤してもらうわけにはいきませんからね。

 要するにサービスというのは、その瞬間に消費されてしまうので、基本的に在庫を残す、つまりストックすることができないのです。

しかし、それでは困ってしまう場合が多いわけです。

 先に上げた例のように、突然店員さんが辞めてしまうような場合、あるいは急に来客数が増え、客対応に人手が多く必要になってしまった場合、お客のサービスに対する需要の増加に対して、供給が追い付かなくなってしまいます。

 そういった事態を避けるために必要なのが、供給能力、あるいは労働力のバッファストックです。

 つまり、普段最低限必要な供給能力、つまり店員さんの数より、あらかじめ多くの店員さんを雇っておき、急な来客数の増加や店員さんの退職があっても、サービス供給に支障をきたさないようにするわけですね。

バッファストックとエンジン

 この場合、緩衝在庫というより、むしろ自動車やバイクのエンジンにイメージが近づくかもしれません。
 自動車やバイクのエンジンは、アクセルを踏んで回転数を上げるとより強いパワーを発揮し、速度を上げることができます。
 需要というアクセルを踏んだとき、回転数が上がって、簡単にオーバーヒートしてエンストしてしまうのではなく、アクセルを踏んでも、それに応じて回転数が上がり、より強いパワーを発揮できるようなエンジンでなければ、変動する需要に対応することが出来なくなってしまうわけです。

つまり供給能力のバッファストックとは、‟余力”と言い換えても良いかもしれません。

 さて、労働者は、労働というサービスを引き換えに、雇用者から給与という所得を得て生活をしています。

 労働というサービス自体は在庫が出来ません。

 しかし、普段から労働者を余分に雇っておき、急激な需要の増加や突発的な要因での労働力の欠員に対応するわけです。
 すなわちこれが、供給能力(労働力)のバッファストックです。

供給能力とバッファストック

 供給能力のバッファストックには、労働者の数もそうですし、労働者一人当たりの労働時間、あるいは製作機械や労働者一人が使用する道具・機材の数など、様々な要素があります。

 しかし当然ながら、雇用者の目線からすれば、このバッファストックを確保するということは、余計な出費に繋がります。
 なぜなら、普段から必要な分より多めの労働者を雇い、余裕を持たせた労働時間で働いてもらわなければならなくなるため、その分の人件費などの出費がかさむためです。

例えば、ある工場があるとします。

 労働者の数は60人で、そのうち、一日50人が9時から19時まで働けば100個のモノを生産できるとします(労働規制等の条件は、解り易さのために、この場では無視します)。
 突発的に需要が増加し、一日の生産量が120個必要になったとすると、単純に計算して工場は稼働時間を2時間延ばし、一日の労働者を余っている10人を投入して対応すれば、この需要増に対応することができます。
 無論、工場の製作機械などにもメンテナンスが必要ですし、ぶっ続けで稼働していれば故障してしまうかもしれませんから、工場機械などの設備にも余力が必要になりますし、人員もそう簡単に辞めてしまわれると生産ラインが維持できないので、待遇にもそれなりに気を付けなければなりません。

長引く不況と供給能力のバッファストック

 そうなると、この不況の中、経営者の頭を悩ませるのはやはりコストの問題です。

需要の増加はお金を儲けるチャンスです。

 普段の設備投資や人材投資をケチって最低限の人材で回していると、そのチャンスをフイにしてしまいますから、おいそれと労働者や設備の数を削るわけにもいきません。
 かといって、特に必要でもない人員や設備を抱えると余計な出費がかさむ。
 特に今の日本のように、出口の見えない不況に喘ぐような状況の場合はなおさらその風潮が強まります。
結果、どうなるかといえば、

労働者一人当たりの給与削減
可能な範囲での供給バッファストックの削減

が行われるのは自明の理です。

供給能力のバッファストックと労働条件、ホワイト労働とブラック労働

 バッファストックも、いつまでも儲からない状況が続けばドンドン削られていきます。

これはそのまま、労働者の待遇を悪化させます。

 何故なら、余剰人員として雇っている10人が解雇されれば、その分人件費は浮きますが、従業員の急病などによる休みや退職などがあった場合は、残った人員で工場を回さなければならなくなりますし、労働時間もその分延長されてしまうかもしれない。
 人員を補充出来ないorしないような状況では、残業代もマトモに支払われるかどうかも分からない。
 もし残業代が支給されたとしても、あまりに長い労働時間の日々が続けば、労働者は疲弊します。

日本では、もうかれこれ30年近くも、そういった状況が続いてきました。

国家レベルの災害・危機に対する安全保障、バッファストック

 その結果、何が起こったのかというと、昨今の自然災害に対する土木建築サービス供給能力不足による復興の遅れであり、コロナショックにおける医療品供給能力不足による医療機関の物資枯渇なのです。
 そして、この両者は、同時にモノやサービスの供給を輸入に依存する国家の脆弱性を端的に示すものでもあります。

台風19号から半年 復旧進むも…新型コロナ感染が新たな不安に 上毛新聞
台風19号半年 被災地もコロナ、復興遅れ 中国産住宅資材、届かず ボランティア外出を自粛 毎日新聞

 このような状況下において、日本の供給能力を支えているのは、まさしく現場労働者のブラック労働であることを決して、決して忘れてはいけません。

 つまり、もはや日本の経済力、すなわち労働力、供給能力は限界に達しているのです。

 自動車のエンジンに例えれば、既に老朽化して十分な回転力も確保できず、需要というアクセルが自然災害やパンデミックで急激に踏み込まれたとしてもそれ以上のパワーを発揮できない状態になってしまっているのです。

 このような状態を避けるためには、もちろん普段から供給能力の余力、すなわちバッファストックが確保できるように、需要を十分以上に確保し、供給能力を維持しなければなりません。
 それも普段の需要に対応するだけでなく、こういった緊急時にも対応できるレベルの余力を持たせるためには、民間の需要を上回る需要を作り、供給能力とそのバッファストックを十分以上に確保させる必要があります。

そのためには何が必要か?

言うまでもないでしょう。

政府による財政支出です。

バッファストックの確保は安全保障と労働条件の改善につながる

 政府の財政支出によって、普段から企業や労働者が常に儲かる状態、すなわち余力のある状態を確保することで、もちろん普段の生活において国民は豊かになれます。
 その上、今回のコロナショックや昨年の台風被害に際しても、国民が貯蓄をし、豊かであることで経済的な危機を凌げますし、何より復興に際しては供給能力のバッファストックによって、普段から労働者に余力のある状態が維持できれば、危機的な状況下でも普段よりちょっと大変になるくらいで、復興もスムーズになります。

 供給能力のバッファストックは、労働者の数、そして労働時間、さらに使用する設備や道具・機材などに余力なわけですから、普段はゆとりのある労働環境で労働者は働くことができます。

そして一朝、危機的状態に襲われたときは、それをフル回転すれば復興もスムーズになるのは自明の理です。

 特に日本のような自然災害大国という国土条件にある我が国において、バッファストックの確保は国民生活の安全保障上最も重要な要素であり、確保することで国民の生活を豊かにする源泉となるものなのです。

安全保障と労働条件改善のために、プライマリーバランスを破棄すべきである

 しかし、この20年間、日本に蔓延した新自由主義的な経済・経営観に基づき、この供給能力のバッファストックはひたすら削られてきました。
 その歴史は、国内労働者の労働条件の悪化の歴史でもあり、同時に国民の安全保障が毀損されてきた歴史でもあるのです。

 日本がPB(プライマリーバランス)黒字化目標などという何の利益にもならない金科玉条を破棄しない限り、国民の労働条件は悪化し続け、国民生活の安全は毀損され続けることでしょう。

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